表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
411/425

第411話 アミアンとのおはなし

 フランスは、シトーにおやすみを言ってから、自分に割り当てられた部屋に入った。


 部屋にある長椅子に、アミアンがリラックスした様子で座っている。もうすっかり寝る準備は万端といった様子だった。


 アミアンが、フランスに笑顔を向けて言う。


「おかえりなさい、お嬢様」


「アミアン、ただいま! どうしたの?」


「今夜は、お嬢様と一緒に寝てもいいですか?」


 アミアンから、一緒に寝ようと言うなんて。

 フランスは、あんまりめずらしいことに、嬉しくなった。


「いつでも大歓迎だわ!」


 ふたりで、豪華なベッドにもぐりこむ。


 フランスは、隣にあるあたたかな温度に、感謝したくなった。

 いつだって、感謝したい。


 これは、永遠に、フランスのそばにあるものじゃない。たったひととき、短い時間、フランスに与えられた豊かな時間だ。


 アミアンはきっと人としての時間を生きるだろう。

 フランスは竜としての時間を生きる。


 大きな隔たりがある、ふたりの時間。


 己が持つ時間が、人よりも長くなったからか、一瞬、一瞬が、とても大切に感じられる。当たり前のように自分をとりまく全てが、ほんの一瞬与えられた、とても大切な、奇跡みたいなものだ。


 アミアンと向かい合って、お互いの手をあたためるように握る。


 大切な人が、自分の手を握り返してくれる。それだけで、こんなに安心できる。


 フランスは、ぴょんとクセがついてハネ上がるアミアンの毛先を見つめながら、ただ、ぼんやりと、今ここにある幸せをかみしめていた。


 アミアンも、フランスも、お互いに、何も言わなかった。

 何も言わなくても、大丈夫だった。


 ただ、アミアンがそこにいてくれる。

 それだけで、大丈夫になる。


 しばらくしてから、アミアンがぽつりと言った。


「お嬢様が『お嬢様を卒業する』って話ですが……」


「うん」


「それについては、落ち着いたら、ふたりで一緒に、考えませんか? お嬢様にとっても、わたしにとっても、素敵な寄り添い方があるかもしれません」


 フランスは、アミアンの頼りになる笑顔を見つめた。

 甘えたくなってしまう。


「……うん」


 何か言ったら、泣いてしまいそうだった。


 アミアンが、優しい声で言う。


「主は、すべてを良くしてくださいますから」


「うん!」


 フランスは、元気な声を出して、泣きそうになるのをこらえた。


 こんなにずっと、とんでもないことが続いて、アミアンは一度死を覚悟するほどの状況に陥ったのに、それでも、まだ、フランスに寄り添ってくれる。


 その優しさで、目の奥がぎゅっとなる。

 やっぱり、何か言葉にしたら、泣いてしまうかもしれない。


 これからお嬢様は卒業するのに、アミアンに甘えて、泣いてばかりじゃだめよ。


「お嬢様」


「うん?」


「頑張りしましたね。全部」


「……」


 フランスは、アミアンにぎゅっとひっついた。

 口を強くひきしめて、震えないように気をつける。


 アミアンが、そっと、フランスの背に手をまわして、引き寄せる。そうして、本当に優しい声で言う。まるで、母親が、娘に言うなら、こんな声かもしれないと思えるような声で。


「ヴラド様は、大丈夫ですよ、きっと。ね」


 フランスがずっと、内側にしまっていた、おそろしい気持ちを、アミアンは、あっという間にたぐりよせてしまう。フランスは、たまらない気持ちで言った。


「どうしよう。ヴラド……、ヴラドは……、わたしのせいで……」


「お嬢様のせいじゃありません」


「わたしが、アロンの墓から出るようにすすめたもの。あんなに、怖がっていたのに」


 アミアンが、フランスの背を、やさしくなでる。


「ヴラド様、お嬢様のことを探す間も、ずっと、お嬢様が帰ってきたら楽しいのになって、仰っていました。はやく迎えに行きましょう」


「わたしが、無茶をして、行方不明になんてなっていなかったら、ヴラドは」


「お嬢様」


 アミアンが、やさしく、しーっとやる。

 小さい子を、落ち着かせるみたいに。


「大丈夫です。全部、大丈夫ですからね。今は、ゆっくりと眠って、明日、元気いっぱいの身体になって、ヴラド様を迎えに行くんです。そうしたら、笑顔になれますよ」


 アミアンが、フランスの背をやさしくたたきながら、ゆっくりと言い聞かせるように話す。


 そうすると、フランスの心は、まるで風がやんだように、落ち着いていった。


 外側のフランスは、ヴラドのことについて、冷静にふるまおうとする。希望は失わず、焦らず、助けにいく。ただ、それだけに思いを重ねればいいと言い聞かせる。


 でも、心の内では、ずっと、おそろしくて泣きたい気持ちだった。


 ヴラドは、あんなふうに、妖精の国で危機に陥る必要はなかった。

 すべての原因は己にある。


 そのことが、心のはしからじわじわと水浸しになるみたいに、フランスの内側を冷やし続けていた。


 アミアンの前では、取り繕うこともできない。

 すべてをはがされたあと、優しく抱きしめられる。そんな感じがする。


 フランスは、我慢できず、ぐすぐすやった。

 アミアンが、小さく、子守唄をうたう。


 背中を、とん、とん、とたたかれて、美しい歌声とともに、意識が流れてゆく。


 お嬢様、卒業できるかな。

 こんなに、素敵なもの、手放せるかしら。


 大好きなアミアン。


 お母様が抱きしめてくれたら、きっと、こんな感じかな。

 はやく……、ヴラドのことを見つけて、こんなふうに、温めてあげなくちゃ……。



 フランスは、あらがいがたいまどろみに、ゆっくりと沈むように、意識を手放した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ