第407話 ロビンとのおはなし
フランスは、みんなと酒を飲みながら話をしたあと、ガルタンプ大司教が用意してくれた部屋に通された。
部屋は清潔で、手入れが行き届いている。
今夜は、全員、この屋敷に泊まるらしい。
「ガルタンプ大司教に感謝しなくちゃね。ひさしぶりに、おなかいっぱい食べたわ……」
フランスは、平穏を感じながら、ベッドに腰かけた。
シャルトルによって黎明団の存在が皆に明かされ、聖女たちは、公には帝国の皇帝の後ろ盾を、背後では黎明団による後ろ盾を持つことになる。
聖女たちの活動も、これから変化してゆくのかもしれない。
後ろ盾を持ち、のびのびと聖女主体の活動ができれば、素晴らしい。
フランスは、明るく灯された先の道を見た気がした。
ただ……、ここにヴラドがいないことだけが、ずっと心のどこかを痛ませている。
ここで急いで出ていっても、良くないだろうことは、分かっている。みんな、連日の緊張感と、処刑までの日々に疲労している。それは、フランスも同じだった。牢の中で、ゆっくりと眠れた日はなかった。冷えた牢での生活のせいか、身体のあちこちが痛む。
それでも、今すぐ、かけだして行って、あのコウモリちゃんを捕まえて抱きしめたい。
その時、窓をたたく音がした。
フランスは、ハッとして窓のほうを見た。
ヴラド⁉
いつも窓をたたいてやってくるヴラドを思い出して、苦しくなる。
窓の外から、こちらをのぞいているのは、ロビンだった。
フランスは、すぐに窓をあけた。
「ロビン、どうしたの?」
ロビンが、窓の所に、ちょこんと座り込んで言う。
「なあ、フランスは、妖精王様の……、父様の力を受け取ったのか?」
「うん。そう……。ずっと、オーベロンの最後の願いのこと、言えていなくてごめんね。これを受け取れるかどうか、すごく悩んでいたから……」
フランスは、白い竜の瞳と同じ、不思議な輝きをもつロビンの緑の瞳を見つめて、言った。
「ロビン。この力は、あなたに渡すべきかもしれないとも考えたわ。あなたのほうが、受け取る資格があるかもしれないから」
ロビンが、この力の譲渡についてどう考えるのか不安に思っていたが、ロビンは、すっきりとした笑顔で言う。
「そんなことない。父様が決めたことなら、フランスが受け取るのが正しい事なんだ。長い時間を生きた精霊は、運命を垣間見ることもできるから」
フランスは、ロビンの気持ちの良い態度に、緊張をといて言った。
「わたし、この力を渡されてから、ずっと考えていたの」
「なにを?」
「この力を、受け入れられたら、妖精の国のために使えないかなって」
ロビンが驚いた様子で言う。
「妖精の国のために?」
「うん。オーベロンは、立派に妖精の国を守っていた。でも、彼がいなくなって、妖精の国の森は、すごい混乱だったわ。今も、困っている妖精がいるかもしれない」
「うん。今じゃ、穴だらけさ。あっちもこっちも、様子がおかしくなっちまった」
フランスは、オーベロンの記憶の中で見た光景を思い出しながら言った。
「オーベロンが、閉めて回っていた扉を、修理できないかな?」
「……すごいや。そんなこと、思いつかなかった。やっぱり、その力は、フランスが受け取るのが良かったんだ」
「妖精たちが生きやすいように手を尽くしたい。だから、ロビンも手をかしてくれる?」
ロビンが、嬉しそうに胸をはって言う。
「もちろんさ! 善良なるロビン様は、いつだって妖精の味方なんだからな」
「それに、半妖精の保護も、したいわね。きっと、色んなところにいて、困っているかもしれないから」
「フランス! きみってやつは! 可愛いだけじゃなくて、心まで可愛いんだ! イギリスがいなきゃ、ぼくが結婚を申し込んでいるところだ!」
ロビンはそう言いながら、感動したみたいな表情で、フランスの両手をぎゅっとやった。
「ロビン様に、そこまで言ってもらえるなんて、幸せものね、わたしは」
フランスは、ロビンの手をにぎり返し、笑顔を向けて言った。
「善良なる、妖精王の子息、ロビン王子殿下、これからも、よろしくね?」
「へへ、そんなごたいそうなもんじゃないやい。ロビン王子殿下だって!」
「素敵な妖精の国の王子様ね」
ロビンが、頬をそめて照れる。
鼻先まで桃色になる。
かわいい。
「そういえば、ロビン、用事があって来たんじゃないの?」
「ああ、そうだった。父様の力を受け取ったのに、ぴんぴんしているけど、どこかつらいところはないか聞きにきたんだった」
ロビンがそう言いながら、あちこちフランスの身体をのぞき込むみたいにする。
フランスも、自分の体にふれつつ答えた。
「力を受け取った瞬間に、くらっとしたけど……、それ以外は、今のところ、何ともなさそうね」
「ふうん。それじゃ、もともとフランスが持っていた力が、そうとう大きかったのかな」
「もともと持っていた力?」
「妖精からの力の譲渡なんて、普通の人間が受けたら、イギリスみたいに寝込むことになる」
そういえば、そうだった。
イギリスは、赤い竜の力を受けたとき、一年も眠りについた。
ロビンが、確認するように慎重に、フランスの身体をあちこち、調べるように見ながら言う。
「運命の魔法の力を退けるくらいだし……、もしかして、フランスって、精霊並みに力が強かったのかな」
「まさか……。え、そうなのかな?」
「うーん。若い妖精でも、妖精王様みたいにとんでもない力を持つ精霊からの力の譲渡は、相当こたえると思うし。もともと、フランスの器がでかかったのかもな。ガバガバだったのかも」
……。
フランスは、ちょっと、かみくだけなかった単語に反応して言った。
「……ロビン、その言い方は、なぜか腹が立つわ。何か分からないけど」
「え、ガバガバが?」
「うん」
「じゃあ、ユルユル」
「それも、なんか、嫌」
ロビンが本当に面倒くさそうに言う。
「ええ、面倒だな。じゃあ、でかい女」
「……う、ううん、まあ、いいか」
「よし! じゃあ、フランスは、でかい女だったってことだな!」
ロビンが楽しそうに、笑顔で言うから、笑ってしまう。
フランスはその愛らしい笑顔に、なんだかひどく安心した。
「善良なるロビン様、明日から、ヴラドを探しに行こうと思うの。ついてきてくれる?」
「もちろんさ! ロビン様は、いつだって善良なる行いをするんだから!」
頼もしい笑顔があった。




