第406話 賢者たちとのおはなし
フランスは、見習い聖女ちゃんの怒涛の、聖女の力研究トークを聞いたあと、賢者たちのもとへと行った。
ソロンが、人の良さそうな気真面目な雰囲気の笑顔で、手をあげながら言う。
「フランスちゃん、なんとかなって良かったよ」
そのとなりで、ビアスが、ぶすっと神経質そうな顔で言う。
「びっくりするくらい、何の役にも立てなくて、ぼくは遺憾だよ」
「そんなことありません! ビアス様が弁護してくださったおかげで、あっというまの処刑じゃなかったんですから」
「もう、教国での弁護活動はおことわりだよ! なんなの、あれ! 最終的には、主の前に感情論並べちゃってさあ! 法の名のもとになんて、あいつら歯一本分ほども持たずに、口ひらいているんだぜ! あの、くそったれやろうど——」
「まあまあまあ!」
美男のクレオブロスが、口汚くなりかけたビアスの口をふさいで、優雅な笑顔で言う。
「弁護する時間以外は、中央の修道院の大書庫で楽しませてもらったろ? そう興奮するな友よ。あんまりかっかすると老けちまうぞ」
ビアスがふんっと大きく鼻をならして、つんとすまし顔をした。
フランスは、賢者たちの様子を見て、彼らに何事もなかったことに安堵した。
くだけた雰囲気のところに、ちょっと様子をうかがいつつ、ついさっき思いついたことを言ってみる。
「実は、賢者様たちに、もうひとつお願いが」
フランスの、うかがうような言葉を聞いて、ビアスが、ちょっと笑いながら、眉間に皺をよせて叫ぶ。
「やだ!」
クレオブロスがその様子を見て笑う。
ソロンも、やれやれと笑って言った。
「そう言ってやるなビアス。聞いてやれよ。かわいいフランスちゃんのお願いだぞ?」
「ふん。まあ、聞くだけね」
フランスも、そのゆるっとした雰囲気に笑いながら言った。
「帝国からわたしのもとに、アキテーヌの自治権が返されたこと、お聞きになりましたか?」
「ええ、もちろんですとも、フランス女公陛下」
クレオブロスがそう言って、うやうやしく礼をする。
フランスはそういう態度が似合う美男のクレオブロスの様子に、くすくすやりながらつづけた。
「わたしは、国をおさめるものとして、何の知識もありません。なので、自治権は返還されても、しばらくアキテーヌは今までどおり、帝国の直轄領のようなかたちで運営されることになると思います」
ソロンがうなずいて言う。
「ふむ、そうだな。急に、国を治めろなんて、無理のある話だ」
「なので、賢者様がたに、わたしの先生になっていただきたいのです。ソロン様は、立法に携わり軍の指揮も経験されていますし、クレオブロス様は僭主として国を治めておられました。そして、ビアス様は、法の知識をもって、立場の弱い方に、いつも寄り添っておられます。実は、お三方とお会いしてから、国の在り方に興味があって、すこし調べたんです」
「ほう!」
ソロンが興味あるという顔をした。
「すぐに、というわけにはいきません。おそらく、とんでもなく時間がかかるでしょうが、わたしは、自分が国を治めることをゆるされるのなら——」
フランスは、ちょっと間を置いてから、だがはっきりと言った。
「共和国としたいのです」
「な、なに⁉」と驚くソロン。
「なんだってーーーッ‼」と叫ぶビアス。
「共和国⁉」と目を剥くクレオブロス。
それぞれの反応があったあと、三人の賢者の声が、完全に合わさって、ひとつの叫びになる。
「民主主義かーーーッ‼」
広い部屋で談笑しているすべての目が、こちらに向けられた。
フランスは、焦って言った。
「今すぐじゃないですよ! 時間をかけてね、変えていきたいなって」
ビアスが、興奮しきりに言う。
「時間はかかるだろうけど、うわあ、最高だよ、それって。くそー、フランスちゃんも例のあの石使っちゃう? 国をかえるには、人生何年あっても足りないくらいだよ」
例のあの石。
賢者の石のことね。
フランスは、なんてことない感じで言った。
「いえ、実は、その点は、もう問題ないんです」
「ん?」
首をかしげるソロンに向かって、フランスは説明した。
「わたしも、イギリスと同じように、今や不死の身です」
とたんに、部屋中から声があふれる。
「えーーーッ‼」
「どういうこと⁉」
「フランス、あんた、説明しなさいよ、どういうこと⁉」
「フランスねえさま、すごいです!」
あっちこっちから声が上がりすぎて、誰が何を言っているのやら、一部しか分からなかった。
皆の注目が集まっていたせいで、フランスは、処刑場を出たあとにあったことを、すっかり皆に説明する羽目になった。根ほり葉ほりされた結果、イギリスのプロポーズまで、言ってしまうことになる。
ブールジュが、話を聞き終わったとたん、真面目な顔をして、イギリスに向かって言った。
「フラれたんだ」
イギリスが、はっきり言われて、急にしょんぼりした。
フランスは、あわてて叫んだ。
「ブールジュ、やめて! ふってないわ! 百年待ってって言っただけよ」
「ふったようなもんでしょ! 残酷な女ね、あんたってやつは! 百年もおあずけ食らう陛下のしょんぼり具合を見なさいよ。教国中の人間が注目する中、花嫁にする宣言までした男よ!」
イギリスが、さらにしょんぼりした。
ビアスが割り込んで言う。
「いや、いい! いいよ‼ 恋愛なんて、いつでもできる。時間はたっぷりあるんだから! それより、民主主義だ! 今すぐアキテーヌに行こう!」
フランスは、ビアスの勢いを押しとどめて言った。
「あ、いや、ちょっと、所用があって、明日からはしばらくアキテーヌには行けないかもしれないので……」
「ちぇ、なんだ。あ~、でも、楽しみだな。こんなにワクワクするのは、何百年ぶりかな」
楽しそうなビアスのとなりで、ソロンがにっこりと言った。
「じゃあ、フランスちゃんがアキテーヌに呼んでくれるまで、ここにいたいな。ガルちゃんも、好きなだけいていいって言ってくれているし」
ん?
フランスは、首をかしげて聞いた。
「ガルちゃん?」
クレオブロスが笑顔で補足する。
「ガルタンプちゃんね」
「えっ‼」
賢者たち以外の目が、全員、そおっとガルタンプ大司教に向けられた。
ガルタンプ大司教って、もしかして、気さくでいい人なのかしら。
すべての知らない人も、知る前から愛したい。
とか、でかいことを言ったわりに、身近にいるウマの合わない人間のことをよく知らない。フランスは、深く恥じた。
ガルちゃんにも、まだ見えない、魅力的な本当の姿があるのかもしれない。
フランスは、ちいさくひとりごちた。
「わたしには、結婚するよりも先に、まだまだ修行しなきゃいけないことが山積みだわ……。やれやれね」
ガルちゃんが、賢者たちに笑顔を向ける。
意外と、かわいい。
たぷたぷのあごが、なんだか愛おしい感じに見えた。
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おまけ 他意はない豆知識
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【フランス共和国】
『フランス』は通称であり、正式名称は『フランス共和国』。西ヨーロッパに位置する共和制国家。国家元首の地位を個人(君主)に持たせず、人民による統治を行う共和制の国です。
【ソロン】
紀元前6世紀頃に活動。ギリシア七賢人のひとり。
古代アテナイの民主主義の基礎を築いた政治家であり、立法者。アテナイ軍を指揮した経験もあり。
哲学者プラトンと遠縁!
【ビアス】
紀元前6世紀頃に活動。ギリシア七賢人のひとり。
生涯を通じて、不当な被害者のために、無償で活動した弁護士。
富や物質的財産は重要ではない!
【クレオブロス】
紀元前6世紀頃に活動。ギリシア七賢人のひとり。
ロードス島にあるリンドスの町を善政によって統治した僭主であり、詩人。
ヘラクレスの血筋とも言われる、卓越した体力を持つ美男子!




