第405話 聖女たちとのおはなし
フランスは、一刻も早く、ヴラドを捜しに行きたかったが、どうやら、そういうわけにもいかないらしい。
イギリスによると、今日の騒動が終わったあとの集合場所を指定されているのだとか。指定したのはシャルトルだ。
教国を竜の姿で飛びまわっているところを目撃されるのもまずいので、フランスとイギリスは、タカの姿にかえて、目的の場所にむけて飛んだ。
イギリスが、案内してくれた先は、なんとガルタンプ大司教の邸宅だった。
はたして、夕暮れ時に、ガルタンプ大司教の邸宅に到着すると、そこには、全員いた。ガルタンプ大司教はもちろん、聖女たちも全員集まっている。
シャルトルの両脇には、冬将軍と幼馴染の助祭もいる。
アミアンとシトーとダラム卿もいた。
賢者たちも。
それに、ロビンも、ケルピーたちまで何人かいる。
ミディおばあちゃんまで。
フランスは、ガルタンプ大司教の邸宅にある広間で、勢ぞろいのみんなの顔を見ながら、ちょっと固まってしまった。
……。
大集合すぎる。
大丈夫なのこれ……。
ガルタンプ大司教の邸宅、今、教国で最もきな臭い場所みたいになってない?
フランスの到着と同じころにやってきたブールジュが、広間に入るなりどでかい声で言う。
「信じらんないわ! なんで、ガルタンプ大司教の屋敷なのよ! 一番なさそうな場所でしょ! しかもやばすぎるメンバー!」
ブールジュのすぐ目の前にいる、ガルタンプ大司教のこめかみが、ぴくぴく動いている。
ブールジュが、ガルタンプ大司教の、その様子を見ながら、さらに遠慮せず言う。
「逃亡した第一番の聖女かつ元教皇のとんでも女に、破門されたてほやほやの聖女か皇后か分かんない女に、帝国の皇帝までいるわよ。ヤバすぎて、ちょっと楽しくなってきたわね」
近くでゆったりとリラックスして過ごしている様子のシャルトルが、微笑みながら言う。
「今日は、イギリス陛下に念をおされたところですから、わたしのことさえバレなければ、あの男は何も言いませんよ」
あの男……。
あの男って、現教皇聖下のことね。
ブールジュが、シャルトルの肩を指でつつきまわしながら言う。
「シャルトル、あんた心臓どうなってんの! 冬毛のオオカミくらい、ふさふさの毛皮でも着込んでいそうね。よくも、そんなケロッとした顔をして酒を飲めるわね、一番ヤバいやつが!」
シャルトルは、手に持っているグラスを優雅にかたむけながら言う。
「人生、この程度の、ひやっと感は、必要ですよ」
どうやら、この会は、シャルトルがみんなに呼びかけて、もうけてくれたらしい。今後のことについて認識を合わせ、お互いの身の安全を確保するための会でもあるようだった。
フランスは、意外にも、ミディおばあちゃんとガルタンプ大司教が仲良く談笑しているのを見て、さらに目をむいた。
ガルタンプ大司教が、いかにも目下の者のように振る舞ったからだ。
すごい。
ミディおばあちゃん、本当に最強の人だったかもしれないわ。
フランスは心配になって、ブールジュに聞いた。
「あのあと、何事もなかったの?」
ブールジュは、けろっとして答える。
「兄貴が白目むいていた意外は、何事もなかったわよ」
ブールジュのお兄様……。
心中お察しいたします……。
ブールジュが、用意されている酒のグラスに手をつけて、やれやれと言う。
「あの男もかわいそうにねえ」
「教皇聖下のこと?」
「そうよ。こう言っちゃなんだけど、あれは完全に貧乏くじを引かされたわね」
そこに、見習い聖女ちゃんがやってきて、うんうんとうなずきながら付け足すように言った。
「シャルトルねえさまがいなくなったあと、誰も、教皇の座につきたがらなくて、大変だったらしいですよ!」
「そうなんだ……」
ブールジュが、ぐいっと酒を飲みながら言う。
「シャルトルがいなくなってすぐ、大きくなっていたはずの教国の状態は、あっという間にくずれたからね」
フランスは、ちらっとシャルトルのほうを見た。
酒のグラスを片手に、リラックスした様子で、なにやらイギリスと談笑しているようだった。
すごいお方よね。
シャルトルのこと、いまだに、あこがれの聖下として見てしまう。
ブールジュも、そのシャルトルの姿に目をやってつづける。
「あっちこっちから煙たがられている南部をうまいこと抑えていたのがシャルトルだったから、そのまわりの国も避難するみたいに教国にくっついていたのよ。でも、シャルトルがいなくなった途端、南部戦線は総崩れ。村も砦も落とされまくって、戦線は後退しっぱなし。それを見て、今までくっついて媚びへつらっていた国も、かなりの数離れてったってわけ」
「そうだったのね。戦火は、こちらにまではおよんでいないの?」
「そうね。その点、あの男は、貧乏くじ引かされながらも、シャルトルには及ばずとも、よくやっていると思うわ。なんとか、ギリギリのところで持ちこたえているみたい。今じゃ、外側があぶなすぎて、東西の対立は下火よ。皮肉なもんよね。教国が強くなれば、内部の争いが目だって。弱くなれば、結束力が強まるなんて」
フランスは、ため息をついて言った。
「国って、ほんと難しいわ」
「そうね。わたしも、シャルトルが去って以来、本当に……、たくさん考えさせられる」
フランスは、すべての聖女たちに目をやり、あらためて言った。
「あなたがたの、真心と行動に、心から、感謝申し上げます。あれは、まぎれもなく、命をかける行動でした。あなたがたの行いがあったからこそ、より愛に生きたいと、あの場で、そう思えました」
「フランスねえさまあ」
見習い聖女ちゃんが、うるうるの目でこちらを見上げている。
フランスは、その愛らしい顔を見て、苦笑しながら言った。
「あなたが最初に処刑の場に上がってきたとき、ほんと、びっくりしすぎて、どうにかなりそうだった」
「わたし、ちょっとはかっこよくなれたでしょうか!」
「ちょっとどころか、すっごくかっこよかったわ! でも、もうあんな危ないことしないで」
「はい、ねえさま」
見習い聖女ちゃんは、ちょっと反省するように肩をすくめてから、すぐに元気になって言った。
「わたし、フランスねえさまに、ゲキハライタオウトを教えていただいて以来、聖女の力の研究をしているんです!」
「そうなのね。そういえば、あの時も不思議な使い方をしていたわね」
見習い聖女ちゃんは、処刑場で、聖女の力を行使していた。
たしか……、『わたしがよいと言うまで、のどは固く閉じよ』だったかしら。
フランスは、興味を引かれて言った。
「そういう条件付けして、力をふるうこともできたのね」
「そうなんです! 解除の条件をつけることができるんです! 発動させるのは、その場でしかできないようですが、解除だけは、直接その場にいなくても解除できるようです。それに、効果に強弱を持たせたり、名前を呼ぶことで狙い撃ちしたり、ほかにも、ほかにも‼」
「す、すごいわ」
しばらく見習い聖女ちゃんの、早口でまくしたてるような語りは止まりそうになかった。
フランスは、見習い聖女ちゃんが、ほっぺを赤くして、楽しそうにまくしたてるのを聞きながら、ようやく、肩の力を抜いた。




