表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
400/425

第400話 陛下、お迎えに上がりました

 アミアンとシトーとダラム卿の一行は、ゆっくりと敵意がないことを示すように、優雅にフランスのもとまでやってきた。


 殺伐とした雰囲気ただよう広場のなかに、その一行だけ、なんだか華やかな雰囲気がある。全員、騎士らしい装いだが、戦闘しましょうという出で立ちではない。式典に参加するときの礼服のような姿だった。


 フランスはその姿を、なんだか現実のことではないような気分で見つめた。


 アミアン、かっこいい。

 シトーも、かっこいい。

 ダラム卿、元気そうで良かった。


 ダラム卿の表情は、余裕の微笑だった。


 処刑台の前で馬、いや、ケルピーの歩みを止めた一行は、騎乗したまま降りようとはしなかった。


 ダラム卿がひとつフランスに笑顔を向けてから、現教皇の男に向かって言った。


「教皇聖下にご挨拶申し上げます。帝国の皇帝代理として、ここにまいりました。ダラムでございます」


 現教皇の男は、口をぱっかり開けていたが、流石に正気をとりもどし、強気な態度で言った。


「今すぐ、帝国軍を撤退させるよう強く抗議申し上げる。このような横暴、まかり通りませんぞ」


 ダラム卿は、教皇の厳しい態度に臆する様子もなく、にっこりと続ける。


「実は、わたくしも、抗議の申し入れにまいりました。やれやれ、横暴がまかり通らないというのは、まことに教皇聖下のおっしゃる通りでございますね」


「……一体、帝国が教国に、どんな抗議があるというのです! 今も、皇帝陛下に害をなした女を処刑しようというところですぞ」


「帝国からの抗議内容は、一点のみです。聖女フランスに対する不当な扱いを今すぐ、やめていただきたい。それだけでございます」


 教皇の男は、肩をいからせ、眉をつりあげて、ダラム卿に言葉を返す。


「なにを……。どこまで……、教国をばかにするのだ。帝国には関係のないこと。元聖女の罪人フランスに関する問題は、教国の問題だ。帝国に口出しをされるようなことではない!」


 ダラム卿は、教皇の男の態度に、笑顔を消して、真顔で答えた。


「どこまで、ばかにするのか? それは、こちらの台詞です。どこまで、帝国をばかにするおつもりですか?」


「……」


「聖女フランスは、帝国の人間です」


 えっ⁉


 ダラム卿の、思いもよらない言葉に、フランスも、教皇の男も、同じように、眉をよせることになった。


 フランスは、どういう展開か分からず、思わず目を泳がせた挙げ句、近くにいたブールジュを見た。


 どういうことかな?


 フランスが、そういう視線をブールジュに送ると、ブールジュが『わたしに分かるわけないでしょ!』というこわい顔を返してきた。


 現教皇の男は、鼻で笑って、ダラム卿の言葉をぴしゃりと打ち返した。


「この女は、まぎれもない教国の人間だ。帝国とは関わりない! いい加減なことを言うのは、やめていただこう!」


「ここに、正式に皇帝陛下が許可された書類があります」


 ダラム卿が合図をすると、後ろにひかえていた騎士の男が、ひとつの書類を広げてかかげ見せるようにした。


 いや、ここからじゃ、そうされても中身までは見えないけれど。


 フランスも目を細めて見ようとしたが、まわりにいる全員同じようにした。


 書類にある小さい文字に、視線が集まる。

 誰にも見えていなさそう。

 教皇の男も目を細めている。


 ダラム卿は、その書類を示して言う。


「聖女フランスは、まちがいなく帝国の人間です。彼女は、先代アキテーヌ公の一人娘であり、財産を受け継ぐ正当なる後継者、帝国直轄領であるアキテーヌ公国の公女です」


 フランスは、ブールジュと目を合わせた。


 そ、そういうこと⁉


 思わず、アミアンとシトーのほうにも目をやる。

 ふたりとも、フランスの視線に気づくと、力強くうなずいてくれた。


 まさか、公女フランスとして、帝国の人間であることにするなんて!


 現教皇の男が、しばらく黙ったのち言った。


「女は家督を継ぐことはできない」


 ダラム卿は淡々と答える。


「いいえ、帝国では、女でも、財産を受け継ぐことができます。それに、帝国法は、最近変わりましたので、女であっても家督をつぐことは可能です」


 そういえば、イギリスがいつだったか、女も家督を継げるようにしていくって言っていたわね!

 本当に、そうなったんだ!


 ダラム卿が、にっこりとフランスに笑顔を向けて言う。


「ここにございます書類は、皇帝陛下直筆サイン入り、アキテーヌの後継者として公女フランスを正式に認め、アキテーヌの自治権を返還する旨をしたためた書類です。ちなみに、すでにこの返還は実施済みですので、公女フランスとお呼びするのは失礼ですね。すでに、彼女は父親のあとを引継ぎ、アキテーヌ女公です」


 すると、ダラム卿は、うやうやしく礼をしてつづけた。


「フランス女公陛下、イギリス皇帝陛下の命により、お迎えにあがりました」


 フランス女公陛下‼


 蕁麻疹出そう。


 となりのブールジュも、そう思っていそうな顔をしていた。


 現教皇の男が、信じられないものでも見た、みたいな顔で、ダラム卿に顔を向けている。


 そんなところに、また深紅の旗をかかげた騎士が馬に乗って飛び込んできた。


「急告―ッ‼ 東西の境の街道に、帝国軍の進軍ありー‼」


 騎士は必死でそう叫んだのに、あんまりまわりが反応のうすい様子に戸惑っているようだった。


 赤い旗を持って走るって一世一代のイベント感あるのにね。

 こんな反応じゃ、びっくりよね。


 でも、もう、それ三回目だから……。


 ダラム卿がにっこりと笑顔で言った。


「ちなみに、南部での戦闘に参加している騎士団も、こちらに向かっています。四方から、この中央の街に、帝国軍の先発隊として向かっている状況です」


 教皇の男が疲れたような声で言う。


「先発隊……」


「はい。もし必要であれば、後発隊もひかえております」


 ダラム卿が、眉をしかめ、深刻な状況をしらせるといったふうで言う。


「おそれながら、皇帝陛下は、今回のこと、非常にお怒りでございます。ここに、皇帝陛下のお言葉をいただいてまいりましたので、読み上げます」


 一体、何を言うつもりかしら。この期に及んで……。

 もう、教皇聖下は、心折れているんじゃない?


 フランスが見た教皇の男の顔は、もはや無表情だった。


 ダラム卿が一瞬、ちらっとフランスに目をやった。


 え。なんで、ちょっと申し訳なさそうなの?

 今、申し訳なさそうな顔で、こちらを見たわよね?


 ダラム卿が、懐から一枚の紙を取り出し、よく通る声で、読み上げた。



「わたしの花嫁に、指一本触れるな」



 あたりが、異様にしんとした。


 ダラム卿が紙を丁寧にたたんでから懐におさめ、にっこり言う。


「以上です」



 以上です⁉






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ