第389話 秘密結社、黎明団
フランスは、公開裁判を願い出る手紙の文章を、夜通し書きつづけていた。
フランスの部屋には、昨日から、全員ずっといる。アミアンも、シトーも、ソロンも、ビアスも、クレオブロスも、全員だ。
全員、夜通し、公開裁判を願う手紙の、同じ文章を何枚も何枚も書きつづけていた。
もうすっかり朝だ。
クレオブロスが、立ち上がって、伸びをしながら言う。
「これ、何枚書いたかな……」
ソロンが手を動かしながら答える。
「わからんが、とりあえず、ありったけ書くんだ。人の目に触れれば触れるほどいいからな」
ビアスが、大きなあくびをしてから言った。
「フランスちゃん、これを教国中に張り出したいけれど、何かツテはある?」
「そうですねえ」
フランスが思い出せるのは、ブールジュ、教会の家族たち、あとは……ヴォ―バン夫人?
どれも、地域は限定的よね。
教国中に繋がりを持つと言えば、シャルトルーズ商会だけど……。
フランスは、ひとり思い当って、手を叩いた。
「あ!」
ソロンが顔を上げて言う。
「おっ、いい感じのツテか?」
「はい。教国中に、ツテを持っていそうな人物に、ひとり心当たりがあります」
アミアンが首をかしげて言った。
「どなたですか?」
「ミディおばあちゃんよ!」
ミディおばあちゃんは、シャルトルーズ商会の重役だったはずだ。
シトーに頼んで、教会まで走ってもらう。
すぐに、シトーはミディおばあちゃんを伴って、フランスの部屋に戻ってきた。
フランスは、久しぶりに見る、変わらない様子のミディおばあちゃんに抱きついた。
「ミディおばあちゃん!」
「あらあら、元気そうで嬉しいわ。とっても心配していたのよ」
「おばあちゃん~」
フランスが甘えてさらに抱きつくと、やさしく背中をぽんぽんとしてくれる。
フランスは、すぐに、ミディおばあちゃんに、事情をかいつまんで話した。聖女の力を失っているということも含めて。
ミディおばあちゃんは、いつものにこにこ顔とは違う、威厳のある雰囲気で言った。
「シャルトルーズ商会は、シャルトルの保有する組織でもあるけれど、商会としての顔とは異なる、裏の側面も持っているのよ。あなたも聞いたでしょう。わたしが教会に身を置いていたのは、聖女の力に異変がおきたとき、まっさきに聖女を保護するため。シャルトルーズ商会は、ただの商会じゃないの。裏側に持つのは、秘密結社『黎明団』よ」
「ひ、秘密結社……?」
フランスは思ってもみなかたことに、口をぽかんとあけた。
ミディおばあちゃんが、いかにも、仕事のできそうな口ぶりでつづける。
「女が権威を手にすることのない教国で、シャルトルーズ商会では、かなり前から、わたしのように女でありながら、重役を担うものも多いわ。けれど、それは女を優遇しているわけではないの。あくまでも、自由と平等の精神に根ざし、それぞれが得意なことで力を発揮できるようにするという理念から、そうなっているのよ。男も、女も、老いも、若きも関係なくね。その活動のひとつが、聖女の救済よ。聖女にも、自由と平等を」
ミディおばあちゃんが、フランスを正面に見据え、力強い声で言う。
「聖女フランスに、あらためてご挨拶申し上げます。黎明団、東方地域幹事長、ミディでございます。あなたさまの裁判、黎明団が全力で補佐いたします」
そう言ったあと、やわらかな笑顔でつづける。
「物流は、わたくしの最も得意とするところ。公開裁判を願う手紙は、二日のうちに、教国すべての地域に張り出してご覧にいれましょう」
「……」
かっこよすぎて、何も言えなかった。
その後、ミディおばあちゃんは、シトーとアミアンに指示を出して、シャルトルーズ商会から人を呼んでこさせた。
すごい数の人がやってきて、すごい勢いで手紙を複製し、ミディおばあちゃんの指示で遠方から順に発送させている。
ミディおばあちゃんの指示は、おそろしく適確だった。
「今は、あちらの橋は修理中よ。迂回して向かわなければならないから、優先させてちょうだい」
「かしこまりました、ミディ様」
「そっちの地域は、最近賊が多く出回っているわ。人員を増やして、安全を最優先に進めてちょうだい」
「はい、ミディ様」
そうしている間にも、ミディ様の指示を仰ぐために、商会から人がやってくる。
ミディ様は、それも、どんどんさばいていった。
「ミディ様、天候の影響で、一部地域で食料品の価格のつり上げが起きているようです」
「では、シャルトルーズ商会は、通常通りの値で売りなさい。投入量は、支店側が望むだけの量を調達するように。その分、他地域の流通量を限定的に少なくすると、支部長たちに連絡を」
「かしこまりました」
「ミディ様、どうやら今回仕入れた小麦の質が悪いようです。いかがいたしましょう」
「まあ、食べられないほどなの?」
「いえ。ですが、長期保管は厳しそうです」
「では、明日倉庫を開放して、いつもの半値で売りなさい。残った分は、孤児院と貧民街へ無料配布を」
「かしこまりました」
かっこよすぎる!
すごい!
フランスもアミアンもシトーも、見たことのない、かっこいいミディおばあちゃん、もとい、ミディ様の姿をぽかんと見ていた。
ミディおばあちゃんは、忙しそうにする片手間に、フランスとアミアンがまとめた、魔王と聖女の物語をしっかり読んでいた。
読みながら言う。
「いやらしさが足りないわね」
い、いやらしさ?
ミディおばあちゃんが、なんだか楽しそうな声で言う。
「これ、せっかくだから、物語として仕上げて、本にしてみない?」
「あ~、じゃあ、色々と落ち着いたら……」
「いいわね、いいわね。装丁は任せてちょうだい。やっぱり百合の花をあしらうのがいいかしら。うん、いいわね」
なんだか妙に楽しそうな様子だった。
ミディおばあちゃんが、楽しそうな様子のまま、フランスの目をじっと見つめて言う。
「シャルトルのことなら、大丈夫よ」
「ミディおばあちゃん……」
「あの子たちが、今まで、どれほど私に心配をかけてきたか。こうやって姿をくらますのも、一度や二度じゃない。でも、あの子たちはいつもそれを乗り越えてきた。今回も、乗り越えるわ。黎明団も手を尽くして探しているしね。あの子たち、何か面白いことを見つけて遠回りしているのよ、きっと。心配するだけ無駄だわ。面白い土産話を楽しみに待ちましょ」
フランスは、時の回廊から脱出して、はじめて、肩の力が抜けた気がした。
ミディおばあちゃんの、安心感がすごい。
ミディ様、かっこよすぎる。
その日、フランスはひさしぶりに、ぐっすりと眠った。
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おまけ 他意はない豆知識
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【ミディ】
ミディ運河はフランスの世界遺産。
全長 240 kmにもおよぶ、フランスを横断する運河です。大西洋と地中海をむすぶ大量輸送ルートとして、国家プロジェクトで建設されました。
運河沿いの物流が盛んになり、ボルドー地方などのワインの生産量を飛躍的にのばした、と言われています。




