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第313話 好きな人のお父様とお母様に会う

 フランスは、しばしひとりで待たされたのち、謁見の間に通された。


 そこまで大きくはない広間だが、どっしりとした石造りの立派な広間だった。


 広間の奥に、人がいる。

 イギリスとダラムとエールもそこにいた。


 そして、その三人の近くに立つ、大人の男女。どちらも立派な生地の服を来ているが、華美な雰囲気はない。実用性が高い服装だった。


 フランスは、侍従に案内されて、男と女の前に立った。


 落ち着いた雰囲気の男は、優しげで明るい笑顔をフランスに向けて言った。


「妖精殿、ようこそわが城へおいでくださいました。この国をまとめております。ブリタニアと申します」


「はじめまして、ブリタニア王。わたくしは、フランシスと申します」


「こちらは、妻のドルイデスでございます」


「美しきドルイデス様。フランシスと申します」


 フランスは、礼を尽くしてから、ふたりの姿をしっかりと見た。


 ドルイデス様、めちゃくちゃ美人‼

 これは圧倒的美人!


 好き!


 イギリスって、お母様似なのね。

 イギリスもドルイデスも、どちらも、気真面目さを持っていそうな雰囲気がある。


 エール殿下は、お父様似ね。

 エールもブリタニアも、どちらも、明るくて朗らかな雰囲気があった。


 ドルイデスが、フランスのはいているズボンに目をちらりとやり、そのあとイギリスを見た。


 今のは、ばれている視線だったわ。


 なぜ、ブリタニアのズボンがそこに、という顔だったでしょ、間違いなく。


 フランスはにっこりとして言った。


「遠いところから旅をしてまいりましたところ、服も何もかも奪われて大変困っておりました。そこを、そちらのお優しいおふたりに助けていただきました。大変良い品のようにみえるズボンまで、わたくしのために、このように尾を通せるようにまでして下さって。人の優しさに心打たれました。あらためてお礼を言わせてください。ありがとうございます」


 フランスが、あらためて礼をつくし、そう言うと、イギリスとダラムがちょっと安心したような得意そうな顔をした。


 ブリタニアも、うんうん、とうなずきながら、笑顔で誇らしげにふたりの少年を見つめている。


 だが、ドルイデスが、無表情に言った。


「騎士から報告がありました。仮面舞踏会に忍び込んだふたりの少年がいたそうです」


 おお、これはもう、完全にすべてがバレているやつよ。


 とたんにイギリスとダラムの表情があやしくなる。


 ブリタニアが、ドルイデスの手をにぎってなだめるように言った。


「まあまあ、ドルイデス! 美しいきみ! 今日は、フランシス殿が訪れて下さったのだし、その件はまた後日あらためるとして! 今日はせっかくだから、歓迎の宴をひらこうではないか!」


「……」


 ドルイデスの眼光鋭いにらみに、ブリタニアがかわいらしくお願いするように言った。


「ね?」


 これは、あれね。

 完全に、ドルイデス様が支配者ね、ここでは。


 全ての決定権を持つのは、間違いなくドルイデス様だわ。


 気をつけよう。


 ドルイデスは、しばしブリタニアに向けて鋭い視線をとばしたあと、フランスに美しい笑顔を向けて言った。


「フランシス殿。しばらくこの城にてゆっくりとご滞在くださると、嬉しく思います。では、わたくしは、宴の準備を」


 そうしてドルイデスは優雅に立ち去った。


 彼女が謁見の間から去って、完璧に扉がしまったあと、ブリタニアがわくわくした顔で言う。


「仮面舞踏会に忍び込んできたのか?」


 イギリスが正直に言った。


「はい。ごめんなさい父上。父上のズボンを破いてしまいました」


 ブリタニアが、イギリスの肩をたたいて言う。


「そんなの気にするな! 女の子と踊れたのか?」


「……」


 イギリスとダラムが、そろって下唇をつきだすようにして残念そうな顔をしたので、ブリタニアも同じような表情になった。


 ブリタニアが、しょんぼり言う。


「ダメだったのか……。残念だったな」


「はい、父上。無念です」


 何、やっているのよ、この親子。


 仲良しね。

 最高じゃない。


 どうやら、ダラムは完璧な悪友っぽいし。

 素敵な少年時代だわ。


 フランスは謁見の間で、ブリタニアにしばらくここに滞在させてもらいたいと願い、快諾してもらうことができた。


 部屋をひとつ用意されて案内される。


 立派な部屋だった。大きな暖炉に、暖かそうなベッド、しっかりした作りのテーブルもある。


 宴の時間まで、ちょっとの間、休憩ね。


 フランスは用意してもらった服に着替えた。

 着心地の良い生地で、実用的なつくりの服だ。


 この頃は、まだ、普段の服装は華美な雰囲気はないのかもね。

 装飾品もシンプルだわ。


 でも、よく見ると凝った作りをしている。


 姿見で、あらためて自分の姿を見つめる。

 なかなかの美青年だった。


 年のころは、人で言うと、十七、八、くらいに見えるだろうか。やわらかな雰囲気の美青年の姿が、姿見からこちらをのぞきこんでいる。耳と尾がトンミムらしさを残しているが、それ以外は人間に近い。

 女性的な要素は、男性的なお股の様子にかくれていて見えないし、胸もふくらんでいない。しなやかな身体は、ぱっと見た感じ、まさに青年といった感じだった。


 つり上がり気味のきつそうな目じゃない!

 新鮮!


 トンミムって、ちょっとタレ目だったんだ……。

 いつもの姿の時はつぶらすぎて気づかなかった。


 フランスはベッドに腰かけて、息をついた。


 やれやれ。

 ほんとに過去に来ちゃったのね。


 この後は一体どうするか。


 フランスは姿見にうつる、見慣れない自分の姿に向かって声をかけてみた。


「トンミム、いる?」


『ずっと、いるよ』


 頭の中に、トンミムの声がひびく。


 フランスはベッドに倒れ込んで言った。


「過去に来ちゃったけれど、どうすればいいのかしら。これは、赤い竜があらわれるにはまだ何年もかかりそうよ」


 イギリスが今十五歳なら、赤い竜が現れたのは何年あとになるかしら。

 イギリスが何歳頃の出来事なんだろう?


 もといた場所では、イギリスって、三十歳にはならないくらいに見えるわよね。

 でも、二十代前半には見えない。


 となると二十代後半のどこかで赤い竜があらわれたということになる。


 え~、そうなると、あと十年以上かかるかもしれないってことか……。



 はてしない。



 トンミムが、うーん、と悩むようにしてから、あっけらかんと言った。


『ぼく、こういうとき、どうすればいいのか知っているよ』


「どうするの?」


『何にもしない!』


「ええ?」


 フランスは、トンミムの暢気すぎる答えに笑った。


「でも、何かしないといけないんじゃない?」


『こういう、どうすればいいのか分からない状況に陥ったときは、悲観的にならず、楽観的になることが大事さ!』


「まあ、それは、そうかもだけど」


『ぼくって、昔はずっと悲観的だったからさ』


 トンミムの意外な言葉に、フランスは驚いて言った。


「そうなの?」


『うん。ずーっと、悲しい気持ちとか、つらい気持ちと一緒にいたんだ。だから、楽しいことにもなかなか気づけなかったし、大事なことも見逃したりしてた』


「トンミムにも、そういう時があったんだ」


『今だって、何も迷わないってことはないよ。でも、ずいぶん、ひらけた目で物事を見られるようになった。前よりはね』


「立派だわ」


『気楽な気持ちでいるとさ、どうするべきか、急に思いついたりするから、心配しなくていいよ』


「そんなもの?」


『そう。すべては、つながっているからね』


 すべては、つながっている。


 はじめてウリムとトンミムに会ったとき、たしかウリムもそう言っていた。それに、ミカエルも同じようなことを言っていた気がする。



 すべてが……、どこにつながっているのかしら。





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 おまけ 他意はない豆知識

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【ブリタニア】

古代ローマの属州「ブリタンニア」があったグレートブリテン島南部の古称。イングランドにおける、イングランド王国が形成される以前の文化的地域。


【ドルイデス】

古代社会における祭司のこと。

ドルイドが男性形、ドルイデスが女性形です。

宗教的指導、政治的指導、調停と、古代社会で重要な役割を果たしていたとされていますが、実際、どのようなことを行っていたのかは謎につつまれています。





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