第314話 人気者の妖精
フランスは、歓迎の宴で、色んな人たちと挨拶をかわした。
ブレナム宮殿の大広間で、王と王妃も参加する宴だが、かなり気楽な雰囲気だった。
格式張っていなくて、なんだか居心地がいいかんじね。
王も臣下もその家族も、一緒くたになっての宴会だった。
昔はこんな感じだったんだ。
今じゃ、考えられないくらいの距離感ね。
人と人との距離感が、より近しい感じがある。
イギリスがフランスのとなりにぴったりとくっついて、次々と人を紹介してくれる。
すっごく、たよれるお兄ちゃんって感じね。
実際、お兄ちゃんだし。
弟のエールは、どうやらイギリスにべったりのようだった。かなり仲の良い兄弟で、エールはずっとイギリスにくっついてまわっている。
ことあるごとに、兄上、兄上と慕ってついてくる様子が、ほっこりする。
フランスは、エールに向かって聞いた。
「エールは、何歳なの?」
「ぼく、十二歳だよ」
ほほ~。
イギリスとは三つ違いなのね。
エールが興味津々の顔で聞いてくる。
「フランシスは何歳なの? 兄上よりちょっと上くらいに見えるけれど」
「わたしは、何歳かわからない」
「えっ、そうなの?」
「そう。長く存在しすぎていてわからない感じかな」
「そうなんだ、すごいね~」
すごいよね~。
トンミムにさっき部屋で聞いておいて良かった。
これは、トンミムの身体だから、そっちで答えるのがいいわよね。
フランスのもとに挨拶に来た人は、みんな笑顔で歓迎してくれる。大体みんな同じようなことを言うようだった。
「妖精が、この城に来てくれるとは、縁起の良いことです!」
「どうぞ、できるだけ長くすごしてください! 妖精が留まる場所には幸福が訪れるといいますから!」
「どうぞ、よろしければ、わたくしの屋敷にも訪れてください!」
ほんとに、妖精が訪れるのは縁起がいいことなのね。
すごい歓迎っぷりだわ。
これは、食いっぱぐれることはなさそう。
トンミムと混ざっちゃったのは、良かったのかも。
挨拶も終わり、食事も楽しんで、まわりの様子もずいぶん落ち着いたころ、ダラムが近くにやってきて、礼儀正しく言った。
「イギリス殿下、エール殿下、それにフランシス様」
ああ、なるほど。
大人が近くにいるときは、きっちりとわきまえた話し方をするのね。
友だち同士でいるときだけ、イギリスとエールに対して砕けた話し方なんだわ。
さかしらな感じが、フランスのよく知るダラム卿と重なって、なんだか微笑ましい。
「もう腹も満ちたようですし、どうでしょう、フランシス様に夜の城の案内をしてみるのは」
ダラムの提案に、イギリスが、気真面目そうな顔を、ちょっとワクワクさせて言う。
「いいな。もう、あとは大人たちが酒を飲むばっかりだしな」
エールがすかさず言う。
「ぼくも行きたい!」
四人で席をたって大広間を出る。
イギリスが、礼儀正しい様子で言った。
「フランシス様は、なぜ旅をしているんですか?」
「急に、どうしたの、喋り方」
「さっき、すごく年上だって言っていたから、そうしたほうがいいのかと」
イギリスが大真面目にそう言うのを、フランスは感心して見ていた。
真面目だな~。
フランスは、にっこり笑って、気楽に手を振りながら言った。
「いいよ、今まで通りで。ずっと堅苦しいのはしんどいし。それに、見た感じはさほど年もはなれていなさそうに見えるし。ともだちになってよ」
エールが嬉しそうに言った。
「いいの⁉」
そんなに喜ばれると照れる。
エールが、無邪気に言う。
「うわー、妖精のともだちなんて、すごい! 大人たちでも、きっと、そうそういないよ!」
フランスは、気になって聞いた。
「最近は妖精を見ることも少ないんだね?」
イギリスが、真面目に答える。
「そうだな。大人たちが子どもの頃は、まだすこしは見られたらしいけれど、今はほとんど。たまに出てきたら、大騒ぎだ。きっとフランシスのことも、あっという間にうわさになる」
「そうなんだ」
イギリスたちが案内してくれるブレナム宮殿は、大枠のつくりはフランスが知るものと同じような形をしている。
ただ、庭園は、さほど美しく整えられているわけではない。
実用性重視という感じだった。
馬車や荷車が置かれていたり、なにやら荷物が積み上げられていたり。生活感がある。
そして宮殿の裏側まで行くと、こちらはずいぶん形が違った。
フランスは、見慣れない建物のなかで、手すり越しにその先をのぞきこんで言った。
「これ、泉の上に建物を作っているの?」
目の前には泉がある。
エールがすかさず答えてくれる。
「そうだよ。これが、生活するための重要な水源だからね」
「なるほどね」
フランスの目の前にあったのは、おそらく、イギリスとフランスが一緒に金貨を後ろ向きに投げた泉だった。
泉の姿は変わらないが、まわりには、壁があり、屋根がある。
まあ、そっか。
これが生活の要になる泉なら、屋根があったほうが都合いいわよね。
雨の日も毎日使うんだし。
さらに夜の城を、庭園に出て歩き回る。
歩きながらダラムが言った。
「明日、四人で町に出てみないか?」
「町に?」
いいな。
行ってみたい。
イギリスが暮らした町を見てみたい。
ダラムがにやっとして言う。
「フランシスを連れて行ったら、女の子が寄ってくると思わないか?」
エールが笑いながら言う。
「また、女の子と話したいんだ」
「話したいだろ、そりゃ。それ以外、したいことあるか?」
「あるでしょ、他にも」
ダラムがイギリスに向かって言った。
「な? 女の子と話したいよな?」
「……まあ」
押しに弱いわね、イギリス。
それに、女の子と話すことにはまんざらでもない表情だった。
かわいいわね。
ダラムが、フランスに向かって、懇願するように言う。
「フランシス、お願いだ。女の子と話す機会なんて滅多にないんだ。助けると思って」
ちょうど、異性に対して興味のある年頃かしら。
面白そうだし。
ここは……。
「もちろん、行こう!」
女の子に声かけまくっちゃうわよ!




