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第312話 兄王子と弟王子

 フランスは、イギリスが脱いだズボンをはかせてもらった。


 イギリスから渡されたズボンは、股のところがしっかりとやぶけている。ちょうど尾をだせて、なかなかいい感じだった。


 すーすーするけれど。


 なぜかイギリスは、ズボンを脱いだ後、背後にある森の中に入っていった。


 何しに行くのかしら。

 ズボンなしで。


 そっちは、たしか……。

 イギリスとダラムが、よく隠れていたっていう大きな木のある場所のほうね。


 フランスは、目の前にいるダラムに向かって聞いた。


「なんで、股がやぶけているの?」


「仮面舞踏会で女の子と踊ろうと思って忍び込んだんだけど、招待状なしなのがバレて逃げたんだ。で、塀をこえるときに、やぶれちまったらしい」


「ははあ。ふたりとも舞踏会に参加するにはまだはやい年っぽいものね」


 ダラムが、腰に手をあてて、胸をそらし言う。


「もう十五になった。十分大人だよ」


 十五歳だったんだ。

 けっこう、童顔。

 この年なら騎士の叙任は受けていないわね。


 フランスは、少年たちの冒険が気になって聞いてみた。


「女の子と踊れたの?」


 ダラムが、とたんに肩をおとして残念そうに言う。


「だめだった。もうちょっとで踊れそうだったのに……。おしかった」


「ダラム」


 森からイギリスが出てきて、ダラムに声をかけた。手にはなにやら袋を持っている。


 イギリスとダラムは、袋の中に入っている服に、その場で着替えた。

 派手な舞踏会用の衣装から、動きやすそうな服にかわる。


 フランスは、それを見て大体のことを察した。


「ははあ。どうにも大きさが合っていなさそうなさっきの舞踏会用の衣装は、父親のもので、もとの服はここに隠しておいたんだ?」


 ダラムが、にやっとして答える。


「そうそう。あとは、ばれないように衣装を戻せば、完了!」


「でも、わたしがこのズボンを着ちゃったら、ごまかせないんじゃない?」


 ダラムが、フランスの両肩をがしっとにぎって言う。


「フランシスは、急いでいるのか?」


「え、いや、急いではない」


 赤い竜が出てくるあたりまで、時間をすっとばして行きたいところだけれど、どうやって急げばいいのかも分からない。


 ダラムが、嬉しそうに言う。


「じゃあ、しばらくイギリスの城に滞在するのはどう?」


「城に?」


「ほら、すぐそこに見えてる、あの宮殿だよ!」


「立派な宮殿ね」


 フランスの視線の先には、ブレナム宮殿が見えている。

 ちょうど川をはさんで向こう側だ。


 イギリスが、怪訝な顔でダラムに向かって言った。


「ダラム、何するつもりなんだ?」


「妖精を招くのは縁起がいいだろ? おれたちが妖精をつれてきたらきっと、陛下は褒めてくださる! そうすれば、ちょっと衣装のひとつやふたつ盗み出したことは、おとがめなしだ!」


 そういえば、イギリスが『妖精があらわれるのは縁起が良い』って言っていたわね。


 それに、この二人の、妖精を見てもそこまで驚いてもいない反応……。

 この頃はまだ、たまに妖精が出ていたのかも。


 ちょうどいいわ。

 この勢いで城にもぐりこめれば、イギリスの近くにいられるし。


 ここから、どうやって赤い竜があらわれるところにたどりつくのかは問題だけれど、城に行けば当面の食事くらいは与えてもらえるかもしれない。縁起の良い生き物として。


 フランスは、にっこりして言った。


「わたし、城に行ってみたいかも」


 ダラムが手を打って喜ぶ。


 イギリスは、微妙な表情をしつつも、ダラムの押しに負けてうなずいたように見えた。


 この頃のイギリス、押しに弱めね。

 かわいい。


 イギリスとダラムに案内されてたどり着いたブレナム宮殿は、フランスがもと居た場所で見た姿とは、かなり違っていた。


 建物は、すっかり異なる様子をしている。

 中央にひろがる広場も、この頃はまだそこまで大きくはないようだった。


 城の中をどんどん進むイギリスとダラムについていく。


 そこかしこに、騎士や使用人や、下働きの者たちが働き回っている。

 活気があった。


 すれ違う者は、イギリスにたいして、気軽に挨拶をしたり、殿下と呼んだりしている。


 へえ、こういう雰囲気だったのね。


 なんというか、気安い雰囲気のある城内だった。

 今の格式高いブレナム宮殿とは、まったく違う雰囲気がある。


 そして、次々と会う人々も、フランスの姿を見て「珍しい!」という反応はするものの、妖精をはじめて見たという反応ではなかった。


 妖精たちと人間の関りが失われていない環境を実感する。


 するとうしろから、明るい声が聞こえた。


「兄上ー!」


 兄上⁉

 これは、まさか!


 フランスはその声に勢いよくふりむいた。


 わあ、かわいい美少年!


 走り寄って来たのは、イギリスよりも何歳か年下だろうか、明るい雰囲気の笑顔がかわいい少年だった。


「兄上、おかえりなさい!」


「エール、ただいま」


 走って来たエールを、イギリスが笑顔で迎えた。


 うわあああ、かわいい兄弟じゃない。

 ちょっと気難しそうなお兄ちゃんと、明るくて愛され系の弟って感じね。


 エールと呼ばれた少年が、フランスをまじまじと見つめた。


 フランスは笑顔で挨拶をした。


「こんにちわ」


「こんにちわ、妖精さん?」


 イギリスが、エールに向かって説明する。


「さっき知り合ったんだ。妖精のフランシスだ。今から父上のところに連れていく」


 イギリスが几帳面な感じで、今度はフランスに向かって言った。


「弟のエールだ」


「はじめまして、エール。よろしくね」


「うん。フランシス。すごく、きれいだね」


「そう?」


 正直、まだ自分の顔も姿も、ちゃんと確認できていないので、よく分からない。


 美男だったらいいな。

 せっかく男の姿になったのなら、美男がいい。


 エールも加わって、先へと進む。


 城の奥へと進むと、徐々に調度品が立派なものになり、壁にかけられているタペストリーも豪華なものになった。


 いかにも貴族らしいものが多くなる。


 ちょっと、緊張してきた。

 イギリスのお父様に会うってことよね。


 うわあ、気になる。



 似ているの⁉

 どうなの⁉





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 おまけ 他意はない豆知識

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【エール】

日本では多くの場合、アイルランド、または、アイルランド共和国と呼ばれる国。

アイルランド語でÉireエールです。

ブリテン諸島の一部であるアイルランド島にある国。北海道よりちょっと大きいくらいの島で、一部はイギリスに属する北アイルランドになります。イギリスのお隣さんです。




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