第311話 ふたりの少年との出会い
フランスは、あらためて自分の姿を見下ろした。
裸ね。
何度見ても、男の裸よ。
でも、ちょっと人間とは……ちがう見た目をしているわね。
自分の体つきをあらためて見ると、少年と青年の間くらいだろうか、基本的なかたちはそのくらいの人間のように見える。
股にはしっかり男らしいものがぶらさがっていた。
フランスは、そのぶらさがっているものを、ちょいっと指でつついて言った。
「男になっちゃったわ」
すると、頭のなかに、トンミムの声がひびいた。
『男じゃないよ』
「エッ⁉ ウリムとトンミムって、男の子でしょ? お股のあれがあるもの」
『ぼくもウリムも、人間のような男と女のくくりには入らないかな。どちらの要素ももっているから』
「え、どっちもあるんだ。男性の形も、女性の形も?」
『そうだよ。でも、形だけね』
「どういうこと?」
『子供を作ったりはできない』
「そうなの⁉ じゃあ、なんでどちらの器の形ももっているの?」
トンミムがくすくすわらう声が、フランスの頭の中にひびいた。
『なんでだろうね? そもそも同じ種がいなかったから、繁殖はできなかったと思うよ』
同じ種がいない?
たしかに、ウリムとトンミムはそれぞれに全く異なる姿をしている。
それぞれが、他では見たことのない、独特の姿を持っていた。
人間って、みんな同じような姿だし、子どもを産んで増えるから、それが当たり前みたいな気がするけれど、そうじゃない場合もあるのね。
フランスは、ふと思いついて言った。
「ねえ、全然関係ないんだけど、前から聞きたいことがあったのよね」
『なあに?』
「ウリムとトンミムの言葉って、わたしが知っているどの言葉とも違う。でも、何を言っているのかはわかるの。これって、なぜ?」
『ああ。多分だけど、神様が言葉を分ける前から使っている古い言葉だからかな。古くからいる天使たちも、同じようにこの言葉を使えるよ。人間たちにはもう使えなくなってしまったけれど』
「へええ、そうなのね」
なんだか、すごい。
フランスはトンミムと話しながら、自分の身体を見た。
上半身も腕も手も、人間と同じような形だった。
だが、大きく人間と異なる部分が、いくつかある。
尾がある。
尻から、トンミムが持っていたのと同じような尾がのびていて、先には明けの星の輝きをもつ炎がゆれていた。
尾をゆらしてみる。
くねくね動いた。
フランスの意思通りに動いたり、勝手に動いたりする。
変なの。
そして、顔は、さわった感じ人間っぽい。
だが、耳があきらかに人間とはちがった。
トンミムがもっていたような耳が、大きく左右にのびている。片側に三つずつ。合計六つの耳があった。
一番上にある耳が大きくて、それ以外はちょっと小さい。
下におさえつけてから離すと、ぴこん、とはねあがる。
たぶん、この動きはかわいい。
見えてはいないけれど。
これ、混ざるのがウリムじゃなくて良かったかも。
ウリムと混ざっていたら、目が顔に六つも並んでいたかもしれない。
想像すると、ちょっとこわい。
耳に、馬がかける音が聞こえてきた。こちらに近づいている。話し声もわずかに聞こえた。
男の子……、の話し声かしら。
フランスはまわりを見た。
だいぶ遠い場所に、二頭の馬がかけているのが見える。
すごい。
あんなに遠くの馬の音と、そこにいる人間の話し声まで聞こえたのかしら。
トンミムの耳って、本当にすっごく聞こえるのね。
とりあえず、あの馬に乗っているひとに声をかけてみるか。
でもなあ……。
どうするか。
ここで、全裸待機していていいものか!
悩む~!
とんだ変態野郎だと思われるかもしれない……。
でも、ここで出会った誰かに助けをもとめて、服を調達するしかないような気もする。それに、大人よりも子供のほうが、優しくしてくれるかもしれない。裸の不審者にも。
フランスはちょっとの間、全裸でしっかりとその場に立ち、考えた。
……。
まあ、全裸の男なんて、たまにそこらへんに転がっているものよ。
酔っぱらって、すっからかんになってね。
何度か見たことがある。
全裸で、男が外でいることは……、普通よ!
このさい、そういう勢いでいよう!
フランスは、堂々とかけてくる馬にむかって手をふり叫んだ。
「おーい!」
馬上の人は、すぐに気がついたのか、こちらに向かってまっすぐにかけてきた。近づいてくると、馬上の人物の姿が、だんだんとはっきりとしてくる。
溌溂とした雰囲気の男の子が、こちらを見て叫んだ。
「おわー! すごい! 妖精⁉」
となりで馬を走らせている、気真面目そうな顔をした男の子も、驚いたように言う。
「こんなところに? 裸で?」
すみません。
裸で。
それよりも、フランスはふたりの少年の姿がはっきりとするほどに、その姿に目が釘付けだった。
おそらく、年のころは、十三か十四歳くらいだろうか。
まだ青年というには幼さの残る雰囲気をもつ彼らは、完璧に似ていた。
溌溂としている少年は、ダラム卿に。
そして気真面目な雰囲気のある少年は、イギリスに。
うわあ、想像していた通りというか、なんというか!
少年たちが、フランスの側に馬をとめて、なれた様子で馬をとびおりる。
フランスはふたりに向かって、笑顔で手をふって言った。
「やあ、こんにちわ」
おそらくダラム卿のご先祖様だろう少年が、わくわくした顔で言う。
「こんにちわ! すごい! 妖精久しぶりに見た!」
妖精ね。
まあ、この姿じゃそう思うわよね。
良かった、開口一番、変態バケモノとか言われなくて。
そして、多分イギリスっぽい少年が近づいてきて、ちょっと警戒した表情で挨拶する。
「こんにちわ」
どうする。
これはとりあえず自己紹介よね。
何をどうでっちあげればいいのよ。
うーん。
溌溂とした少年が、フランスの両手をぎゅっとにぎって、ぶんぶん振りながら言った。
「おれは、ダラム。で、こっちの、仏頂面がイギリス!」
「あ~、わ、わたしは……」
名前をそのまま言うのは、問題あるか?
フランスは、とっさに言った。
「わたしは、フランシス!」
ダラムが無邪気に言う。
「フランシス! へえ! こんなところで裸でなにしているの?」
「ちょっと、服がなくて……困ってた」
イギリスが、同情するような顔で言った。
「追い剥ぎされたのか?」
フランスはすぐさま、その言葉に乗ることにした。
「そう! そうそう! それ!」
ダラムも、同情した様子で言う。
「そっかあ、災難だったな。妖精の国なら追い剥ぎなんかないんだろうな」
「まあ、そうだね」
そうかな?
追い剥ぎするほどの服を着ていないから、ないわよね、多分。
ダラムが、ぱっと顔を明るしくて言った。
「あ、ちょうどいいや。イギリス。そのズボン、フランシスにやれよ。ちょうど股がさけているし、フランシスの尾を出すのに丁度良さそう」
「ええ、父上の衣装だぞ? 怒られる」
父上の衣装を着て、股をやぶいて、何していたのよ、この少年たちは……。




