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第309話 妖精王の計画

 フランスは、目をあけているのもつらいほどの強烈な風を受けて、耐えるようにじっとしていた。


 なんとか、どこへ向かって飛んでいるのか、あたりの目印になりそうなものを見たりするが、眼下の景色はあっという間に流れてゆく。


 オーベロンの竜の腕が、しっかりとフランスをつかんで飛んでいる。


 オーベロンはあっという間に、どこかに着地した。

 フランスも、そっと地面におろされる。


 もっと乱暴に放り出されるかと思ったが、気づかうように、そうっと降ろされた。


 おろされたのは、大きな岩の上だった。


 目の前には見たことのない景色が広がっている。きりたった崖のような場所で、まわりは海にかこまれていた。


 巨大な一枚岩がななめに地面につきささっているようにも見える大きな崖が印象的な場所だった。


 どこ⁉


 竜の姿をほどき、人の姿になったオーベロンがフランスの腕をつかんで歩き出す。


 フランスは、引きずられながら言った。


「オーベロン、待って! あなたに協力するから。お願いだから、元居た場所に一度もどして! 心配させたくないの!」


「……」


 オーベロンは、引き返すそぶりはなく、先へとどんどん進んでいく。


 何度かフランスが、戻してほしいと頼んでも、それを聞いてくれはしなかった。


 逃げられそうにないわ。


 フランスは、不安に思いつつも、抵抗するのをやめ、オーベロンに引っぱられるまま、ついていくことにした。オーベロンは、フランスが抵抗をやめると、つかんでいた腕が痛まない程度の力加減にかえ、フランスを支えるようにして進んだ。


 彼は迷いなく進み、崖の隙間にある影に向かって行った。


 影の中は暗い洞窟のようだ。

 近づいてみると、かなり大きい洞窟の入り口がそこにあった。内側にむかって冷たい風が吹き込んでいる。


 中に入ってすこし進むと、あっという間に、陽の光が届かなくなる。


 オーベロンはまるですべて見えているというように進んでいくが、すぐにフランスには何も見えなくなった。


 思わず、オーベロンの手をこちらからつかんで言う。


「オーベロン、待って。何も見えないわ」


 するとオーベロンは立ち止まり、フランスの目元に彼の手をあてた。


「目を閉じて、三度息を深く吸え」


 フランスは言われた通りにした。

 しばらくそのまま、オーベロンは動かない。


 彼の手は、あたたかく、フランスの瞳をしっかりとあたためるようだった。


 オーベロンが手をはなして言う。


「ゆっくりと目をあけろ」


 言われた通り、そっと、ゆっくり目をあける。

 何も見えないと思っていた洞窟の中が、ぼんやりと見えた。


 どうやら、かなりわずかだが、一部の石が光を放っているようだった。


 フランスは星空のようにも見えるその光景を見ながら言った。


「あなたの魔法?」


「いいや違う。きみの目が、よく見えるようにすこし補助しただけだ。足元は見えるか?」


「ええ、ぼんやりと見えるわ。ゆっくりなら歩けると思う」


 フランスがそう言うと、オーベロンはゆっくりと歩きはじめた。


 無理矢理に連れ去られたが、乱暴なことをする気配はないオーベロンの様子に、フランスは、肩の力をぬいて声をかけた。


「ここは、どこなの?」


「ゴーラムと呼ばれる古い場所だ」


「聞いたことがないわ。妖精の国にあるの?」


「いいや。ここは人間たちの国につながっている。さっき見ただろう。あの大きな崖は、一枚の大岩でできている。あれのことを、人間たちは『ヘラクレスの柱』と呼ぶらしい」


 うーん。

 聞いたことないわ。


 ずいぶん遠い場所なのかも。


 オーベロンは、複雑な形をした洞窟の中をどんどん奥へと進んでいった。


 奇妙な形の岩たちを通り過ぎる。

 巨大な空間もあれば、かがまなければならないほど小さな空間もある。乾いた場所もあれば、ほとんど水に沈んでいる場所もあった。


 かなり長い間、歩いたあと、オーベロンは大きくひらけた場所で足を止めた。


 暗くて分かりにくいが、先の方に大きな穴があるようだった。


 地面にあいた、大穴だった。

 その先には、闇がある。


 暗がりが、地面にはいつくばっているようだった。


 なかなか、こわい。


 フランスが、その穴の様子をじっとうかがっていると、両手を後ろ手につかまれる。引っ張られて、気づくとオーベロンの顔が目の前にあった。


 フランスは、つかまれている腕を引き抜こうともがいたが、オーベロンはフランスの両手を片手で拘束しているだけなのに、びくともしなかった。


「はなして!」


 オーベロンは、フランスの強い態度を気にするふうでもなく、淡々と言った。


「痛みはあるが、すぐ終わる」


 オーベロンが、フランスの腕をつかんでいるのとは反対の手で、フランスの片目をふさぐようにした。


 何するつもり。


 すぐに、フランスのふさがれた目に激痛が走った。


 まるで目の内側が焼かれているように熱くなる。


 針をさされて、えぐりとられているような、ひきちぎられるような、おそろしい痛みがあった。


 フランスの喉から、痛みに耐え切れず、声がもれる。

 暴れようとしなくても、身体は勝手にもがくように、はねるように動いた。


 オーベロンが、フランスの両手をおさえている手で、フランスの身体を自分の身体に引き寄せ、抑えつけるようにする。


 その痛みは、しばらくすると唐突に終わった。


 オーベロンがフランスの目をふさいでいた手をどける。

 目が合った。


 彼は、淡々と言う。


「わたしの目と、お前の目をとりかえた。これで、おまえが見たものを、わたしも見ることができる」


「……」


 フランスは、何か言おうとしたが、あまりの痛みの衝撃に、まだ何も言葉にできなかった。


 痛みに震える身体から、荒い息が吐きだされる。


 オーベロンは、つかんでいたフランスの手をはなし、倒れそうなほど震えるフランスの身体を支えるようにした。


 ひどい痛みを与えた男だとは思えないほど、優しく気づかうような仕草だった。


「おまえは、あの男と強く結びついている。これから、あの男の元へゆき、何があったのか、真実を見てこい」


 フランスは、息を整えて言った。


「あの男って、誰のこと?」


「わたしの妻を殺した男だ」


 オーベロンが、フランスの腕をつかんで、大穴のふちまで移動する。

 ギリギリの場所に立たされて、おそろしくなる。

 大穴の中は、ただ、闇だ。


 フランスは、オーベロンの身体につかまって言った。


「何をするつもりなの」


「ヘラクレスの柱が示す先に、何があったか知っているか?」


「いいえ」


「アトランティスと呼ばれる古い国があった。だが、一晩で消えてしまった」


「……」


 オーベロンは、大穴の先をのぞきこむようにしながら言った。


「アトランティスは魔術師の国だ。彼らは、色んな研究をしていた。そのひとつが、時の回廊の研究だ」


「時の回廊?」


「時をわたる道だ。だが、アトランティスは、その研究のせいで、時のはざまに沈んだ」


 フランスは、目の前にある、おそろしい大穴を見ながら言った。


「じゃあ、これは……」


「時の回廊の残骸だ。人の国ではヘラクレスの柱を『アトランティスの場所を示すもの』と伝えているが、実際はそうじゃない。あの大岩は、アトランティスの生き残りの魔術師が、時の回廊をふさぐために置いた巨大な石だ。だが、長い時間をかけて、ほころびができた」


 オーベロンが大穴をのぞいていた視線を、フランスに向けて言った。



「このほころびに、お前を落として何が見えるのかためしてみよう」





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 おまけ 他意はない豆知識

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【ゴーラム】

「ゴーラムの洞窟群」は、イギリスの海外領土ジブラルタルにある世界遺産。

ネアンデルタール人の文化痕跡を残している場所で、3万9000年前に刻まれた模様も見られます。

「ジブラルタルの岩」と呼ばれる標高426mの石灰岩の一枚岩が見られる場所でもあり、これはヘラクレスがカチ割った山の片方と言われ、「ヘラクレスの柱」とも呼ばれています。

プラトンによると、失われた王国アトランティスはヘラクレスの柱の向こうにあったとか、なんとか。





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