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第306話 いつもと違うふたりの秘密の時間

 フランスはあんまり居心地の良い皇帝用の椅子で、意識が朦朧としてきた。


 だめだ。


 暖かい上に、月のもののせいで眠いし、まわりできこえる人々のざわめきって、すごく居心地が良い。


 良すぎる。

 ねむい。


 ああ……、白目むいちゃいそう……。


 イギリスが、フランスの顔をのぞきこんで言った。


「大丈夫か、フランス?」


「居心地よすぎて、眠たさがすごい……。ちょっと、散歩でもしたら目がさめるかな」


「行くか」


「うん」


 すると、試合に目をむけていたヴラドが、こちらを振り向いて言った。


「ウリムとトンミムは見といてやるから、ふたりで行ってこいよ」


 するとイギリスとヴラドが、お互いのこぶしをぶつけるみたいにした。


 ほんと、いつの間に、そんなに仲良くなっているのよ。

 最高ね。


 男友達ってかんじ。


 フランスが立ち上がろうとすると、イギリスがフランスにかけられている布ごと抱き上げる。


「わ、ちょっと、イギリス。どうするつもり?」


「歩いて足先が冷えると、良くない」


「ねえ、そのぐらい大丈夫よ」


 イギリスは、おかまいなしにそのまま観覧席を裏側に降りて、すたすた歩きはじめる。


 これじゃ、眠気覚ましにならないんじゃないの。


 と、思いつつ、月のものでだるい身体がしんどいのは間違いないので、力をぬいてイギリスの胸にもたれかかる。


 せっかくなので、できるだけイギリスにくっついて甘えてみる。


 悪くないかも。


 皇帝用の観覧席の裏側は、ひらけた草地になっていて、すこし先に森があった。

 イギリスは、その森に向かって歩いてゆく。


 左側に、大きな川が見える。馬に乗っていけばすぐの距離だ。川をはさんで向こう側に、城が見えた。


 フランスは遠目に見える立派な城を見ながら言った。


「あれ、ブレナム宮殿ね」


「ああ」


「あなたが、小さいときも、こんな景色だった?」


「そうだな。ここは、ほとんど変わらない。あの宮殿は昔よりずいぶん大きくなったけどな」


「そうなんだ」


 イギリスも宮殿のほうに目を向けながら言う。


「ここらへんでよく、ダラムと遊んだ」


「ダラム……、あなたの親友の、ダラム卿のご先祖様?」


「そうだ。あの家は、代々、跡継ぎがダラムの名を受け継ぐんだ」


「そうだったのね」


 ふたりの少年が遊んでいるところを想像する。


 フランスは、ここからまあまあ距離がある宮殿を見ながら言った。


「でも、遊ぶにしてはちょっと宮殿から離れすぎていない?」


「馬に乗ってぶらぶらするのが好きだったんだ。よく脱け出して、ここらへんで転がったり、隠れたりしていた」


「隠れる?」


「気に食わない授業をさぼったりな」


「楽しそう!」


 イギリスが、にやっとして言う。


「隠れてみるか?」


「いいわね!」


 イギリスは、そのまま森の中へと進んでいった。森の中に入って、すこし行くと、上り坂になっている。どうやら一部が小高い丘になっているようだ。


 イギリスは丘の上にある大きな木の近くでフランスをおろした。


「ここが、おなじみの隠れ場所?」


「ああ。まわりが見渡せる上に、あたりに低木も生えているから、敵が来ないか見張りつつ隠れるのにぴったりだろ」


「敵って、さぼった授業の先生とかでしょ」


「そう」


 ふたりでわらう。


 フランスは、さっきまで自分たちがいた場所をながめた。


 ここからだと全体が見渡せる。


 遠くにブレナム宮殿があり、その手前に川が流れ、こちら側には、狩りのために集まった人々の天幕や、試合会場がある。


 試合会場の様子も、使用人たちや護衛の騎士たちが裏側でせわしなく働いている様子も、すっかり見えた。


 フランスは、振り向いて、背後にある大きな一本の木を見上げた。

 立派な木だった。


「この木は、ずいぶん大きいわ」


「昔からあるな、この木は」


「ここで遊んでいた時のイギリスは……、このくらいかしら?」


 フランスは、自分の背よりも低い位置の木の幹にふれた。


 イギリスがその手にふれて、位置をかえる。

 フランスの背よりも高い位置に。


 フランスは笑って言った。


「ほんとに? 授業をさぼっているころって、もっと小さいときじゃないの?」


 フランスはくすくす笑って、イギリスの返事を待った。


 だが、返事は返ってこない。



 ん?



 イギリスの返事がなくて心配になり、振り返る。


 思ったよりも近い位置で、イギリスと目が合った。


 イギリスが、位置をかえるためにふれていたフランスの手に、自分の指をからませるみたいにした。


 大きな手に握り締められて、急に意識してしまう。


 じっと見つめられて緊張する。


 イギリスは、笑っていなかった。

 妙に、艶っぽい目つきに見える。


 キスされる。

 頬に。


 ただ、フランスが、勝者に贈ったキスのように、ほとんど唇をかすめるほど、きわどい位置へのキスだった。


 イギリスが、それ以上に近づこうとした気配を感じて、フランスは身を引いた。


 すぐうしろにある大きな木に、背がふれる。


 いつもとは違う雰囲気のイギリスと目が合った。


「イギリス。なにか、分からないけれど、いけないこと考えてる?」


「わたしが、これ以上近づくのは、いやか?」


「嫌じゃないけど。ダメよ」


 イギリスがフランスに顔をよせてきたので、フランスはとっさに横をむいた。


 あぶなーい!

 絶対、キスするつもりよ!


 よければあきらめるかと思ったが、イギリスは、顔をそむけたフランスの頬や、耳の近くや、首元に、何度もキスする。


 なにするのよ!


 フランスは思わず、イギリスの胸を、にぎられていないほうの手で押して強めに言った。


「やめて、イギリス!」


 多分、今、顔が赤いわ。


 身体が熱い。

 はずかしい。


 変なところに唇を押し付けられると、ぞわぞわする。


 またイギリスと目が合う。


 目の前にいるイギリスの、どの要素がそう感じさせるのかは分からなかったが、フランスは彼が興奮しているんだと、なんとなく感じた。


 それは、イギリスだけでなく、自分にも押し寄せる波のようだった。


 まずい!


 これは!

 教えてもらったやつよ!



 ムラついてるってやつだわ‼



 どうしよう‼



 股を……打つしかない⁉





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