表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

305/314

第305話 ハゲと過保護

 フランスがいる観覧席に、まあまあボロボロになった姿であらわれた勝者は、イギリスだった。


 赤い竜と青い竜の闘いは、馬上槍試合のためにつくられた、数々の設備を破壊しつくしながら、繰り広げられた。


 イギリスが、ヴラドの顔目がけて炎を吐いたと思ったら、ヴラドが吐き返すと言った具合で、いつもの喧嘩が観衆の前で繰り広げられ、最終的に、ヴラドのスタミナ切れで、イギリスの粘り勝ちみたいになった。


 フランスは、イギリスと、そのうしろにいるヴラドに目をやって言った。


「ふたりとも……、すごいことになっているわね……」


 竜の姿になっている時って、服見えなくなっているけれど、ちゃんと攻撃は効いているのね。


 どちらも着ている鎧と服が、引き裂かれたり、焦げたり、散々な状態になっている。


 イギリスが、フランスの前に来て言った。


「あなたに、勝利を捧げます」


 しっかりと騎士らしい仕草に、ちょっと緊張してしまう。


 フランスは背をただして言った。


「騎士様の勝利に、贈り物をさせてください」


 フランスは用意していた花を、心をこめてイギリスに贈った。


 イギリスが花をうけとり、顔をフランスの前に差し出すようにする。


 フランスは、その頬にキスした。

 ちょっと、いつもより、気持ち唇に近い位置にキスした。


「とっても、かっこよかったわ」


 フランスがそう言うと、イギリスが得意そうな、嬉しそうな顔をした。


 かわいい。


「フランス~」


 イギリスのうしろから、ヴラドが情けない声で言う。


 あんまりボロボロな様子に、フランスは心配になって言った。


「ヴラド、怪我してない?」


「なんか、後頭部がすーすーする」


「エエッ⁉ ちょっと見せて‼」


 ヴラドの後頭部を確認すると、一部、毛が……なくなっていた。



 な、なんてこと……。



 ヴラドが、弱弱しい声で言う。


「フランス……、どうなってる?」


「は……」



 はげてる。



 いや、どうしよう。


 ちょっと一部毛が抜けているけれど、他の毛でまぎらわせば、別に目立つほどじゃない。


 教えないほうがいいか……。


 すると、トンミムが、フランスの肩から、ヴラドの後頭部をのぞきこんで、無邪気に言った。


「はげてる‼」


 トンミムぅッ‼


 ヴラドが絶望したみたいに小さく「ぇっ」と言った。


 フランスは焦って、ヴラドの腕をなでながら言った。


「大丈夫よ、ちょっと毛が抜けちゃっている部分があるけど、大したことないわ。普通にしていたら見えないくらい」


「……うぅっ……」


 本気で泣きそうな顔のヴラドを見て、かわいそうだけど、ちょっと笑ってしまいそうになる。


 フランスは唇をかんで耐えた。

 ウリムとトンミムは容赦なく笑っていた。


 ヴラドが涙目で言う。


「勝負に負けて、花もキスももらえないうえに、おれは……はげて……」


 ああああ、かわいそおおお。


「ヴラド、あなたの分の花もあるわ!」


 フランスはもうひとつ用意していた花をヴラドの前に差し出した。


 ヴラドが、花を受けとってから、まだ泣きそうな顔で言う。


「キスは?」


「キスも、あげるあげる! かっこよかったわ!」


 フランスは急いで、ヴラドの両頬にキスした。


 あまりのことに、イギリスも今回は何も言わないようだった。


「髪も、けずれた部分が見えないように、結ってあげるから、元気出して、ね?」


 そのあとは、しょんぼりしてしまったヴラドを全員ではげましながら、皇帝専用の観覧席に移動した。


 イギリスとヴラドが着替えに行っている間に、ウリムとトンミムと一緒に皇帝用の席を先に堪能する。


 他の観覧席よりも高い位置にもうけられていて、見晴らしがいい。


 どうやら、この後は、剣での試合が続くらしい。

 用意されている美味しいお菓子とお酒をつまみながら、ウリムとトンミムとおしゃべりする。


 陽気な音楽もながれはじめた。


 もうお祭りね。

 たのしい。


 しばらくすると、イギリスとヴラドが帰ってくる。


 イギリスは手になにやらたくさん抱えていた。


「あら、イギリス、なにそれ?」


「フランス、そっちの席は椅子がかたい。こっちに座れ」


「え……。いやいや、それ、皇帝用の椅子でしょ。どう見ても」


 イギリスが指したのは、明らかにこの観覧席でひとつだけ妙に豪華なふっかふかの布張りの椅子だった。


「これが一番、やわらかいし、暖かいだろ」


「いや、でも」


 しぶるフランスの手をひいて、イギリスがフランスを無理矢理気味に座らせる。


 すると、イギリスがフランスの足を足置きの上にのせて、抱えて持っているありったけの布をフランスの上にかけながら言う。


「冷えると良くない」


 あ、月のものだから……。


「ありがとう、イギリス」


 でも、これ……。


 フランスは観覧席から、外をながめた。


 ここは試合がよく見えるように、席の前側は、大きく開け放たれている。一段他より高くなっているから、他の席のひとたちが、自然に視線をよこすような位置ではないが、見ようと思えば、いくらでもまわりからも見える場所だ。


 これ……、また、とんでもない悪女が皇帝をたぶらかしているって、うわさにならない?


 イギリスは、おかまいなしに、せっせとフランスの世話を焼いていた。


 フランスはふっかふかの椅子に座り、ありったけの布でぽっかぽかに温まった状態で、ヴラドの髪を結ってあげたり、午後の剣試合を観て楽しんだりした。


 剣試合を見て盛り上がる男たちの姿を見るだけでも、なんだか楽しかった。


 ヴラドが盛り上がって動くたびに、はげた部分が見えないかヒヤヒヤしながら、フランスも試合観戦を楽しんだ。


 来年は、アミアンとダラム卿も一緒に来なくちゃ。



 絶対、楽しいわ!





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ