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第303話 魔王の故郷へ

 フランスの目の前で、ダラム卿がてきぱきと言う。


「フランス、あなたの五日間の衣装も、アクセサリーも、その他のこまごまとしたものも、すべて完璧に用意してありますので、ご心配なく」


「はい」


「それに、アミアンのことは、わたしが完璧にお世話いたしますので、こちらもご心配なく」


「はい」


「それと、狩りでの行事のすべてのことは、午後に予定を組んでいます。午前中は、とくに誰かと会う必要も、陛下の身体で仕事をする必要もありません」


「午前中にも狩りはありますよね?」


「陛下には、午後だけ狩りに参加していただきます」


 さすが。

 ぬかりなしね。


 ダラム卿が、たよりになる笑顔で言う。


「荷物は先に出発させてありますので、フランスは、陛下と一緒に今日中に移動して下されば問題ありません」


「泊まるのは、ブレナム宮殿でしたっけ?」


「ええ。陛下が幼少期から暮らしておられた宮殿です。とても美しいですよ」


 イギリスの故郷ね。


 その日、フランスは、イギリスと身体がいれかわる正午まで、アミアンの部屋で過ごした。


 数日会えなくなるので、しっかりアミアンの側でアミアン成分を摂取しておく。

 イギリスの姿なので、アミアンの隣にもぐりこんで一緒に横になるのは……、我慢しておいた。


 アミアンのまわりで、ヴラドとウリムとトンミムと、四人でカードゲームをしてすごす。


 くそ。


 フランスは、心の内で舌打ちした。


 儲けようと思ったのに、すっからかんで終わってしまった。

 もう払えるものすらなくて、右側の靴だけ、トンミムに取り上げられる始末だった。


 正午に入れかわってから、イギリスに右足の靴だけなくなっているのを見とがめられて、あきれた顔をされる。


 フランスは、負けこんで、ぶすっとしたまま、イギリスに向かって言った。


「ごめん。あなたの靴、売っぱらちゃった」


 イギリスが、とがめるような顔で言う。


「フランス」


「ほんとのお金をかけてしてたわけじゃないわよ。手持ちのコインがなくなったから!」


「人の靴を勝手に売っぱらうな。不良聖女」


「はい、すみませんでした」


 トンミムが、右の靴を人質にして、イギリスから金貨を一枚巻き上げていた。


 おそろしいわ、トンミム!


 そうやってほのぼのしたまま、午後は、竜になったイギリスの背に乗って、ブレナム宮殿に移動する。馬車だと数日かかるらしいが、竜の背に乗れば、あっという間だった。


 しかも酔わない。

 最高よね。


 フランスは、まだ明るいブレナム宮殿に降り立った。


 早くに着けたし、あとで、もうひと勝負して、負けた分のコイン全部とりかえしてやるわ。


 あ~、これが、もしかして充実した休みってやつなの?


 ここ、蒸し風呂あるかな。


 ゲームして、蒸し風呂。

 これこそが、完璧な休日かも。

 ほんと最高かもしれない。


 竜になったイギリスが降り立ったのは、美しい宮殿の中央にある広場だった。

 赤い竜と青い竜が、同時にそこにいても余裕の広さがある。


 町の広場ぐらいあるわよ。


 その広場をぐるりと囲むように、宮殿の建物がある。


 大きな宮殿ね。

 すごい。

 とんでもなく広そう。


 見て回るだけでも一日ものね、きっと。


 フランスは自分にわりあてられた部屋を見て、思わず「わあ」と言った。


 いかにも、帝国って感じ。

 この、ちょっと重ための、伝統的な、古い内装!


 いいわね。

 なんだか、帝国に来た~、って感じがする。


 あら、そう考えると、イギリスが用意してくれていたあの城ってもしかして……。


 フランスは、帝国に来て以来すごしている城の様子を思い出した。


 あれって、ちょっと教国っぽい内装だったかも。

 もしかして、寂しくならないように、イギリスが気をつかってそうしてくれていたのかしら。


 なんだか、そんな気がしてきた。


 そういうところ、とっても素敵な人よね。


 フランスが、あちこち調度品をたしかめていたら、扉をたたく音がした。


「はい」


 フランスの返事に、イギリスの声が返ってくる。


「フランス、良かったら城の中を歩かないか」


 フランスは扉をあけて言った。


「あら、もう馬の確認は終わったの?」


 イギリスとヴラドとウリムとトンミムは、宮殿についた途端、馬上槍試合で乗る馬を見にとんでいった。


 そういうとこ、男の子って感じがする。


 馬に興味がないフランスだけ、さきに部屋に案内してもらっていた。


 イギリスが、ちょっと楽しそうな顔で言った。


「ヴラドとウリムとトンミムは、しばらく馬に乗って遊ぶらしい」


「楽しそうね」


「こっちも、楽しまないとな」


「あなたの、お家でしょ」


「そうだ」


「色々見たいわ!」


 ふたりで笑ってくっつく。


 とりあえず、タイターニアのことは悩ましいけれど、この狩りの間だけは、何も考えずに楽しんでみよう。


 そういうことも大事よ。


 イギリスが、いつもより饒舌に説明しながら、宮殿のなかを案内してくれる。


 今のイギリスの部屋をのぞき見したり、幼少期から騎士叙任を受けるくらいまでいた部屋からの景色をながめたり、食堂や、書庫や、厨房までのぞき見する。


 使用人から見えない場所から、こっそり厨房をのぞきながら、フランスは小声で言った。


「なんで、厨房なの」


「昔は、よくここで食べ物を盗んでいた」


「ええ。ごはんたっぷり出るのに?」


「成長期の男は、ずっと腹が減るんだよ」


「そうなんだ。修道士ってみんなかゆとか野菜スープしか食べていないけれど、育ちざかりじゃ過酷すぎるわね」


「さすがに、修道騎士は食べているだろ」


「そっか」


 あれ。


 でも、シトーって、そんなに食事の量多くなさそうなのに、なんであんなに筋肉質なのかしら。


 草食べても、ムキムキになるタイプ?


 どんどん歩き回って、城の裏庭まで出る。


 そこには、城の雰囲気にはあまり合わない、自然なままの泉があった。

 他の水場はすべて美しく装飾のほどこされた噴水だったのに、ここは、ただ、ありのままの姿の泉のように見える。


 ただ、その水は、何もないように見えるほど透き通り、美しい。底から砂を吹き上げて湧き出している様子が、はっきりと見えていた。

 水底の青い石が、つるりとまるで宝石のようにも見える。


 オーベロンとタイターニアが幸せな時間を過ごしていた場所にあった、思い出の泉と似た美しさがある。


 帝国には、こういう泉がたくさんあるのかしら。

 

「すっごく綺麗な泉ね」


「うしろを向いて金貨を投げ入れると、願いがかなう」


 どこにでもあるわね。

 そういうやつ。


 しかし、そういうのは、したくなるわ。


 フランスは、イギリスのほうを振り向いて言った。


「イギリス、ちょっとその場でとんでみて」


 イギリスがぴょんぴょんやった。

 フランスは、にやっとして言った。


「右のポケットに入れてるものを出しなさい」


「不良聖女」


 イギリスがフランスの手の上に、右のポケットから出した金貨をおいた。


 フランスは、その金貨を見ながら言った。


「あの日みたい」


「大公国の?」


「そう。綺麗な水場って、大体願いをかなえてくれるわね」


 ふたり並んで、泉に背をむけ、金貨をほうりなげる。


 ぽちゃんとふたつ音がした。


 今回は、ぶつからなかったわね。


 イギリスと、ずっと仲良しでいられますように。

 お互いにずっと、好きでいられますように。


 フランスは、ちょっと恥ずかしい自分の願い事をごまかすように、急いで言った。


「この泉も古いの?」


「ああ、城ができる前からある。この泉のおかげで、この宮殿は水に困ることがない」


 フランスが美しい泉の水をじっと見つめていると、イギリスがフランスの肩を抱いた。



 ふたりでくっついて、しばらくじっと水をながめつづけた。





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 おまけ 他意はない豆知識

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【ブレナム宮殿】

ブレナム宮殿は、イギリスの世界遺産。

イギリス・バロック様式の屋敷は部屋数200以上、敷地は2,000 エーカーほど。2,000 エーカーは、USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)約18個分くらい。広い!

美しい噴水、庭園と湖、シークレット ガーデンにローズ ガーデン、そして最大規模の壮大さを誇る宮殿です!





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