五十一話
遺跡から脱出する前、俺はルウの遺体に縋すがりついて泣き続けた。散々泣き続けて、失ってしまったことの後悔から、ある仮説を思いついてしまった。もしかしたら、魔導書を使ってルウを生き返らせることができるのではないか?
魂という定義も形も曖昧で、しかしたしかに実在していると証明されているもの。それを魔導書の力で再現できるのでは? 魂は魔力の根源、生命力だ。それほど時間もたっていない。失ったルウの魂を復元することで、生前の状態のまま戻すことができるのでは?
大魔道士は死から人を蘇らせた。魔導書は魔法を別のなにかに変換できる。魔法を、魂に変換できれば――
魔導書を可能なかぎり読み解き、俺の仮説に当て嵌まる呪文を発動するため、発動できるだけの魔法を、そして自分に残されているあらゆる物を魔法の代用にし、補った。魔力が宿っているという自分の血液と俺の魔導具。
そして魔導書も使った。
そして、見事成功した。ルウを以前のまま生き返らせることに成功したのだ。
元々そのせいで義眼の魔法の反動で弱っていた俺は、最後のとどめのように魔力+血液不足に陥って死にかけたからまともに喜ぶこともできなかった。
後日、不思議がっていたルウに事情を説明すると、驚き、嘆いていた。俺を裏切ったということと、自分のせいで試験に必要だった魔導書を失い、夢を犠牲にさせてしまったと落ち込んでいた。だから、今現在俺の世話を焼いてくれているのだ。奴隷でなくなっても。
好意によるものではない。罪滅ぼし、罪悪感から生じているから、なんとも複雑だ。
けど、そんな一緒の生活も、ついに終わらせるべきときがきた。
「なぁ、ルウ」
「はい、ユーグ様。なにかご用でしょうか。なんでも命じてください」
命令じゃない。もう命令できない。そんな関係じゃない。それだけ伝えればいいのに、詰まってしまう。どこまでいっても、俺は変わっていないらしいことに、苦笑する。そんなことする
「ルウのおかげで、だいぶ傷も癒えてきた。一人で起きあがれるし、身の回りのことも、できるだろう」
それだけで、なんとなく察したのか。彼女は顔を伏せてしまった。
「どうすればよいのですか」
今にも泣き出してしまいそうな切羽詰まった声に、胸が痛む。
「私に、どうしろと? 私にはもうなにもありません。復讐も、あなたと一緒にいる資格も理由も。私のせいであなたは死にかけて、裏切って、そして極めつけに、夢を奪ってしまいました・・・・・・償えないではないですか・・・・・・」
償いなんて求めていない。魔導書なんてまた作れるし、試験だって今後ずっとある。そんなちんけな言葉じゃなにも慰めることができない。
「じゃあ一つ頼みがある」
「っはい」
瞬間的にあげたルウの頬に一筋の光が走っている。言うべき言葉をつい変えてしまいたい衝衝動を、ぐ、と唇を噛んで無理矢理耐えた。
「生きたいように生きてくれ。幸せになってくれ。償いとか、俺への気持ちとか一切除外して、ルウの思ったとおりに生きてくれ。俺のことはもう忘れて、自由に生きてくれ」
絶望しているのか悲しんでいるのか。突き放されたのか。ルウは感情を読みとれない不思議な面持ちになって、俺を見つめてくる。
間違っていた。俺たちの関係は。今更ながら好きになった子を奴隷にして一緒にいるという状況の異常さ、そして今のルウの心境。お互いを鑑みて、これまでのことを振り返って、清算しなければいけないときがきたんだ。
「かしこまりました。私も、今自分がなにをしたいのか、本当の意味で理解できた気がいたします」
立ち上がって、そのまま部屋を去っていく。手を伸ばしかけて、反対の腕で押し止める。顔にぐっと力を入れて、笑顔を作って浮かべ続ける。引き留めたい。好きだ。ずっといてくれ。伝えればきっと残ってくれるだろう。罪悪感と罪滅ぼしから。けど、それはルウが心から願ったことじゃない。俺のせいで、もうルウを縛ってはいけない。
ドアが開いて、そして閉じられた音がした。本当に、ルウがいなくなった実感がゆっくりやってきて、同時にベッドに寝っ転がった。
これでいいんだ。お互いのためにも。もう一緒にいる必要はない。別々に、やり直さないと前には進めないだろう。涙が出てくるほど、深い喪失感に苛まれながら、必死に言い聞かせる。




