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魔導士志望者と奴隷ウルフ  作者: マサタカ
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五十話

「肝を冷やしたさ」

 ミイラさながらの包帯塗れで寝ている俺に、シエナが笑いかける。わずかに微笑んで応えるも、それさえも傷に響く。あの後、到底動ける身ではなくなったので、シエナが運んでくれた。自身もボロボロで魔法もろくに使えなかったというのに。根性でなんとかしたとなにげなしに言うのでおそれいる。

「いやしかし、ユーグがあのとき、あの魔法を使わなかったのを迷ったのは殺したくなったけどね」

 うんうん、とうなずくシエナに、苦笑いを浮かべる。

「それで? あの魔導書の能力というのは、結局なんだったんだい? 見当はついているんだろう?」

「ああ、魔法を変換する力ってところだろう」

 魔導書は、そのまま研究所に予定通り提出し、今も解析が進められている。定期的に届く情報だと俺の推測と同じく変換の力であると予想をたてている。それでも、解析していく間にも現代に開発されたものも含めてこの世のすべての魔法に対応できることを古代に完成させられていた、それも魔導書の呪文を詠唱するだけで可能であるとは、改めて大魔道士の偉大さを実感させられている。

「しかし、よく見抜けたね。感心感心」

「誰にだってできる」

 ヒントはあった。エドガーは最後まで知らなかったが、俺の攻撃に使った魔法のみに効果があって、肉弾戦を仕掛けたシエナにはなにも影響が出なかった。まだ魔導書を扱いきれていなかったからだと思ってたが、そうじゃなかった。違和感がして、肉弾戦をしたときに確信した。それから魔法を媒介にして、なにか別の形に組み替える――すなわち変換しかないと結論したのだ。

「あんな状況で、よくそこまで分析できるね。本当にこわいなぁ」

「なんだよ、人を化け物みたいに」

「まさにそのとおりじゃないか。なのに自身の異常さを理解できていないときた。たまに君のことが本当にこわくなるよ」

「おまえは俺を買いかぶりすぎだ。友人だから色眼鏡がかかっているんだよ。昔の魔道士達なんて、一生の間に何十冊魔導書を遺しているか知っているか? それに、おまえだって俺と同じ立場だったら――」

「まぁもういいさ。しかし、これにて一件落着。僕はエドガーを殺し事件を終わらせることができた。そしてユーグは予定通り魔導書を手に入れられた」

「・・・・・・全部落着ってわけじゃない」

「あ~。たしかに、そのとおりかな」

 失言してしまったからか、シエナは気まずそうに頬をかいてぎこちない愛想笑い。そう、全部うまくいったわけじゃないのだ。失ってしまったことのほうがはるかに大きい。特に俺にとっては。

「あ――しかし、あれだね、うん。落ち込むなというのはおかしいか。ドンマイ。また次がある」

 元気づけようとしてくれてはいるんだろうが、言葉を選んでほしい。

「残っているものが、あるでしょ? それを糧に、前みたいに生きる。戻るだけだと、割り切ってみたら?」

「・・・・・・難しいことを」

 失ったものを、割り切れたわけじゃない。そう簡単には癒やせない。

「失礼いたします。ユーグ様、お食事を持って参りました」

「おう、ありがとうルウ」

 ルウが以前と同じように食事を持ってきてくれ、思考が中断する。以前みたいに、素直に好意的に受け取れず、ぎくしゃくしたかんじになってしまう。

「・・・・・・では僕はこれで帰ることにしよう。またな、ユーグ」

「ん、ああ」

 シエナは、あんな事態の一端を担っていたルウに、いい感情を抱いていない。だから、今も避けている。決して言葉を交わすことも、同じ空間にいようとしない。ルウはそれを悲しむことはなく、黙々と受け入れている。頭をさげ、あいさつを述べるのみだ。

「マット様が、早くユーグ様によくなってもらって、また売り上げに貢献してもらいたいとぼやいていました」

「そうか」

 何気ない会話も、長く続かない。お互いが、ぎくしゃくしてしまっている。

「それでは、ユーグ様。お口をあけてください。あーん」

 こうやってかいがいしく世話をしてくれ、食べやすいように用意してくれたミルク粥は、どこの高級料理にも勝てない極楽浄土にいると錯覚させるほどの味だ。

「それでは、体をお拭きいたします」

「いや、そこまでは」

「駄目です。昨日できなかったので、汚れているはずです。清潔にしなければ完治が遠くなります」

「しかし、そんな汚いこと、ルウにしてもらうのはさすがに――」

 ごにょごにょと、恥ずかしさも相まってうまく説明できない。徹底的に、全身くまなく拭かれるのだ。恥ずかしくないほうがおかしい。

「これくらい、なんともありません。お願いですから、させてください。そうでもしなければ、私は・・・・・・」

 そうやって無理にでも世話を焼いてくれるルウには、感謝と愛情と、そして胸の痛みを覚える。

 どうしてここまでルウが俺の世話をしてくれるのかを、俺は理解しているから。罪悪感。自己嫌悪。そして償い。ルウだけのせいじゃない。俺にも責任がある。

 俺が、そこまで考えないでルウを生き返らせてしまったのだから。


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