三十九話
朝食が終わったあと、すぐに工房へとこもった。例の魔法と義肢がもう少しで完成しそうだったので本腰を入れたかったのだ。それと、エドガーのこととかルウのこととか、少し考えたくなかったってのもある。ほどなくして、魔法は完成した。しかし魔導具のほうは、予定していたより材料が足りなくて、未完成になっている。
工房にあったはずの素材全体が少なくなっていたのだ。たまにこんなことがある。自分で思っていたよりも用意していた素材と実際の数が違ってしまう、失敗を繰り返してしまう。マットの店に買い足しに行って調達したかったけど。
「ご主人様の野望のためならば致し方ありません。しかし昨夜お酒を飲みにいかれたことや研究のためのお金にご主人様のお給料は半分以上消えてしまったのです。買い足してしまうのでしたら今後食事量が大幅に減ることになるでしょう。そもそもご主人様の見通しの悪さやお金にルーズなところがこのような状況を生み出したのですが。もちろん奴隷である私は塩や砂糖といった調味料で飢えを満たす所存でございますご主人様にはきちんとした食事を用意して――」
諦めた。健気なルウに負担はかけたくない。しかし、もう少しで完成させられそうなんだ。だから、もやもやした状態で過ごしながらなんとかならないかと悩み続けた。
そして、名案が浮かんだ。帝都の外にある森に出かけて、素材を直接調達しようと。森は誰の所有物でもないし、必要な素材はありきたりなもの。
さっそく出掛けることになったけど、ルウも付いて行くことになった。本当は一人がよかったけど、致し方ない。森はうっそうと木々や草が生い茂っていて、太陽の光が入ってこない。まだ昼前なのに暗く、うっすらとした寒さすらある。商人や旅人もこの森を通るので大体整備されているが、それでも帝都の舗装された石畳に慣れきっている俺には歩きにくいしキツい。逆にルウは帝都で過ごしているときよりもどこか伸び伸びとしている。
「私の住んでいた村は、ちょうどこのような場所でした。ですから、このような場所のほうが慣れていたのです」
そのせいか、どこかテンションが高めだ。表情に変化はないが尻尾はずっとリズムよくや歩き方や進み方もいつもと違う。ルウに素材の説明をして、二人で探す。時折、ついでのように発見した花や食べられる野草を取ってきて、すらすらと説明を聞きながら食べる。村にいたとき、よく家族でこうやって野草を探していたと懐かしそうに教えてくれた。そのときの幸せな光景を、容易に想像できて頬がゆるんだ。
灰汁抜きしなければ苦いとか油で揚げるだけで美味しいとか。そのときのルウとのやり取りが、すごく穏やかで、ずっとこんな日々を送れたらな。
――彼女を優先するか貴様を優先するか――
「っ」
――そのときがきたのではないかということだ――
「こちらのは天日干しにして塩漬けにすると保存食として――ご主人様、聞いていらっしゃいますか?」
「ああ。そうだな。今度はあっちに行こう」
不意にシエナの言葉を思い出してしまって、ルウといるのが後ろめたくなる。こんなことをしている場合なのかと。もっと先にしなければいけないだろうと、自責の念に襲われる。
「ご主人様っ」
柔らかい感触と小さくない衝撃がきた。後ろから抱き着かれているらしい。うほっ。一瞬喜んだけど、すぐになんで? と驚いた。
「ご主人様、昨日の匂いがします」
昨日。すぐにピンときた。商人の庭の、死体の匂い。ならこの森にも死体があるということか。警戒するようルウと示し合わせる。匂いがどこから漂っているか、探ってもらう。そうするうちに、どんどん森の奥深くまでやってきてしまっている。人が決していないような、なんの手入れもされていない道に草木。しかし、次第に動物や魔物の死骸が転がりだす。死臭のせいだろう、ルウがうぷ、と小さくえずいた。
広けたところに出た。そこは明らかに人が住んでいる痕跡がある。熾火に小さいテント。生活用品。それから見慣れた道具の数々。魔法薬を作る材料がそろっている。ここで魔法士が実験を繰り返しているのか。だとしたらなんの?
縛られて地面に放置されている植物や動物が生きているのか死んでいるのか、わずかに身じろぎしている。所々に液体が入った小瓶。机の上には人間の腕、足。そして開かれた上半身。血だらけの机。ろくな実験じゃないとイメージができる。とにかくこのまま捨て置くことはできない。騎士団に知らせなければ。
「誰だ!」
突如としてかけられた大音声に水魔法。字とっさに『紫炎』を発動して四方形に伸ばし盾にする。『紫炎』の盾に当たり続ける水魔法は、接触するたびに蒸発。貫通力を増すため七日、先が鋭く、全体が細くなった。それだけでなく、他の箇所から連続で巨大な水のつぶてが飛んでくる。盾をそれぞれ形成して防ぐが、瞬時に霧ができて視界が覆われる。そのまま視界が自由をなくし、後から強い打撃を受けてしまう。まるで石だ。水魔法なんだろうけど、受け続けたらただじゃすまない。
「ご主人様」
鼻がいいからか、魔法士の位置を探知しているらしい。五感が発達して体術が得意なルウと、魔法しか使えない魔法士の戦闘音が響いている。
けど、相手は一人ではなかったのか、音が増した。ここで下手に魔法を使えばルウを巻き添えにしてしまう。致し方なし、と俺は完成させたばかりの魔法を発動する。
放たれた魔法が一ヶ所に留まり、不安定なまま形をなしていく。犬、もしくは狼にも似た特徴的な四つ足と耳、尻尾のシルエットが成される。それが遠吠えをして駈け表ていく。不安はあったが、どうやら想定していたとおり機能している。俺が操って指示を与えることなく己の意志で行動する、生物そのものを模した魔法。
名付けて『炎獣』。完成させたばかりの、学生時代におもいついた魔法の一つだ。
『炎獣』はそこら中を駆け回り、敵を探している。時折なんらかの攻撃を受けているようだが、やはり簡単には消えない。『炎獣』の遠吠えが響いた。敵を見つけた合図。『炎獣』はそのまま攻撃し始めたらしい。魔法士の悲鳴。
そのまま魔法士がいるであろう場所へ『炎球』を連続で放つ。どちらもまともに当たってはいないが、当たりをつけて徐々に移動する。時折『炎獣』が遠吠えで相手の位置を教えてくれる。魔法士からすれば一度に二人相手にしなければいけない。それも知らない魔法なのだから慌てている。
戦ってみてのことだが、敵の魔法士は素人。戦争中にいた兵士とか傭兵とか、戦いを生なりわいにしていない。今もただ闇雲に水の矢や強力な魔法を戦略もなくでたらめに打ちまくっている。
霧が晴れてきて、相手のシルエットを確認できた。足に発動させた『発火』で飛んで距離を詰める。爆発音で俺の所在に気気づいたのか、魔法士が慌てながら魔法を発動させる。飛びながら『紫炎』で、剣を形成する。骨を一撃で断てるほどの威力で、防御のためであろう水の剣ごとそいつの腕を切り落とした。
悲鳴と地面を転がる音。肉が焦げる匂い。『炎縛』で、そいつを捕らえてこちらまで引き寄せつつ、片手で巨大な『炎球』を操り、周囲の霧を追い払っていく。とどめを刺すつもりだった。何故なら。俺の予想どおりなら、こいつ。!
霧が晴れ、顔をじかにたしかめられる至近距離まで引きずってこれた。正体が判明した瞬間、やはりという怒りでカッ! と熱くなる。
「エドガー、おまえか!」
苦痛と憎悪と汗に塗れたかつての友人の顔が、そこにあった。
「ここでなにをしていやがる! 帝都でのことも全部おまえの仕業なんだろう! ええ、おい!?」
胸倉を乱暴に揺すりながら、無理やり起きあがらせる。エドガーは悔しそうに汗をにじませるのみ。
「おい答えろ! 一体どういうつもりだ!」
「黙れ裏切者! おまえにそんなこと言う助義理なんてない! 俺はただ準備をしていただけだ!」
「こいつ!」
勢いあまって、地面に転がす。立つつもりなのか。しかし片手を失ったためにまともに動けないらしい。よろけて倒れてを繰り返している。
「ご主人様!」
反射的に声のほうを振り向く。ルウが何者かに拘束されていた。おそらくは死体。小型の『炎球』を指の先に三つ発動して狙い撃とうにも、脅すように力を加えるのがルウの苦悶の声でわかった。
「どうなってもいいのか!? ああ!? このルウとかいう奴隷はおまえにとって大切な存在なんだろう!?」
仕方なく魔法の発動をやめた。死体は、ルウを拘束したまま決して俺に背中を見せず、そのままゆっくり移動して、焼けた肩の傷口を押さえているエドガーと合流する。
「忘れないぞ、ユーグ。おまえももう、絶対に許さん!」
「これでおあいこだ。いまだにおおまえが奪った右目が疼うずくんだぞ。お得意の魔法薬で右腕を生やしたらどうだ?」
エドガーは血管が浮かぶほど顔に力を入れる。どうやら怒ったらしい。そのまま懐から取り出した小瓶の中身を地面に垂らす。
おそらく魔法薬。それが落ちた場所だけ不自然に光りだし、明滅を繰り返している。地面からいきなりぼご。ぼご、ぼご、ぼご、と何かが出現する。所々欠け無残だが、どうやら腕らしい。続いて胴体、足と人に似たシルエットが次々と地面から誕生していく。数えるのが馬鹿らしくなる死体の大軍。一体どれだけの死体を掘りおこし、墓を荒らしたか。しかし、エドガーが以前語っていた死体を操る魔法薬が、少しは形になったのだろう。俺目がけ助詞不足の可能性ありてゆっくり行進してくる。挙動が、以前よりよくなっている。
「おまえにはこれで十分だ。おまえは、ここで魔法が使いにくいだろう」
舌打ちする。俺が使えるのは炎系統の魔法だけで、死体達を燃やし尽くすことができる。だが、下手をすれば森に引火して大火事、甚大な被害が出る。大きな魔法は使えない。加えて倒しきるのに手間がかかる死体、それも軍。
「せいぜいここで死にやがれ!」
捨て台詞をはいて、走り去って行く。すぐにルウを助けに向かい、走りながら拘束している死体を力いっぱい蹴りとばす。顔が、首からちぎれて吹き飛んだ。首の断面から血は流れることもなく、腐った骨と肉が露出している。そのまま腕を振り回してくる死体を『炎縛』で上空へ飛ばして一息に小型の『炎球』を斉射して行動不能にする。ルウの無事を確認して、そのまま手を引いて走った。そのまま『炎獣』を二体ばかし遺して逃げる。
「ご主人様、戦われないのですか?」
「無理だ。数が違いすぎる」
死体達の移動速度はまばらだ。おそらく骨が折れて肉体が腐ってしまっているのはのろのろと、逆にそうじゃないのは生者とは比べるべくもない速さで追ってくる。時折交戦するが、死体は痛みもないし、こちらの攻撃で怯むことがない。ちぎれた手足だけが動いて尋常じゃない握力を発揮し、失った胴体でぶつかってくる、とにかく手に負えない。
加えてこちらはまともな攻撃ができない。『発火』で一体一体確実に行動不能助詞不足の可能性ありにするしかない。不可能だ。圧倒的に不利。とにかく全力疾走で森を抜ける。無理に戦って死ぬリスクを冒す必要はない。
「ご主人様,置いていってください、私を、ここで」
死者に拘束されたときにどこか痛めたのか、いつもよりルウが遅い。そして、そんな泣き言を漏らした。
「馬鹿言うな! そんなことするくらいなら俺もここで死ぬ!」
絶対にルウだけでも守ってみせる。
「ぐぉ!?」
なにかに、突然足をつかまれた。植物の蔦。おそらくエドガーの魔法薬の影響なのだろう。所々黒く変色してドロドロになって気持ちが悪く、異常な太さと長さで足を縛っている。それのせいで盛大に転んでしまった。しかも一つではない。まるでこの森自体が敵になってしまったかのように、そこら中の木々、地面から蔓が伸びてきて体に絡んでくる。葉が舞い、刃物そのものの鋭さで咲いていく。そして、小さい小型の魔物の死体達が群がってきて、その小さい歯で、爪で、嚙んでくる。
「逃げろ、ルウ!」
火力と範囲を弱めた魔法を全身に一瞬だけ発動する、それを繰り返してなんとか対処しながら、倒れた拍子に遠くに放ったルウに、叫ぶ。ルウは、ただぼうぜんとして立ち尽くしている。
魔法が間に合わず、死体が殺到する。大軍に飲み込まれ、自分がどうなっているのかわからない。ただ、とてつもなく痛みを感知できるだけ。人間がしないであろう原始的で動物的なもの。
魔法を放つ余裕がなくなり、もがく。いつしかそれもできなくなった。ここで死ぬのか。それもいいかもしれない。ただ、ルウは逃げてくれただろうか。それだけが心残りだ。生きてくれるといいな。そして、どうか幸せになってくれればいい。
俺以外の男と結ばれるなんて殺したくなるくらい嫌だけど。そしてできれば時々俺を思い出してほしい。そして叶うなら俺の墓を作ってほしい。月一なんてぜいたく言わないから年に一度墓参りしてくれれば――
「おのれこの世ならざる亡者ども! 僕が地獄に送り返してくれる!」
ち、うるせぇなシエナの野郎。最後に託すことすら邪魔するのかあいつは。
「ってシエナ?」
聞き覚えのあるソプラノボイスが、響いた。次いで金属が激しく擦れ合い、武器で攻撃する音が殺到する。ただ漆黒に染まっていた視界が開けた。俺のすぐ側になにかが立っている。
太陽に反射して光り輝くダイヤモンドの甲冑に包まれた、子供の背丈の騎士達に囲まれている。それも、地面からポコポコと無限のように次々と出現。あっという間に死者達と互角であろう数に。『ゴーレム』シエナが得意とする土系統の魔法。
「やぁ、生きていたのかユーグ! なによりだね!」
「助けるなら、もう少し早く頼むぜ・・・・・・。それともどこかで二日酔いがぶりかえしていたのか?」
正直、死にかけているが、そんな軽口を言えるくらい嬉しかった。
「ふふ。それだけの皮肉なら、もう少し遅くてもよかったかな?」
得意のレイピア片手に、朗らかに笑う。そして突進しながら頭上に掲げた剣先を振りかざす。それが指揮を下す合図なのか、それとも単なるシエナの気分によるものか、ゴレーム達が一斉に突撃。雄たけびも歓声もなく、粛々と動く様は死者達とは趣が違った恐怖がある。
ゴーレムの槍が、剣が、矛が、斧が、蹂躙していく。死者達の体を吹き飛ばし、突き倒した後も迷いなく肉片になるまで細切れにしていく。敵の抵抗はダイヤモンドの鎧には通じない。ただ己の肉体を無駄に破損させてかん、と鎧をたたく空しい音を生じさせるのみだ。
魔物も動物の死体も植物の蔓も決して傷つけることはできない助。拘束したそばから逆にその膂力で粉砕されて大本である植物を囲んで引っこ抜き、ズタボロにしていく。襲い掛かる魔物・動物には避けることすらしない。 まれに倒されてしまうゴーレムもいるが、すぐに新しいゴーレムが生成されていく。
人間めいた動きやためらいが一切ない機械めいた集団の中で、一人だけ生の輝きを放ちながら戦っている。ただ敵を斬り、屠り、倒していく普段からは似つかわしくない騎士としての戦いは、童話や物語にはない血生臭さがあるけど、どこか美しい。
無駄のない洗練された剣さばき。ダンスしている優雅さをかもしながらレイピアを動かすたびに死者は倒れ、手足が斬り飛ばされる。それも人間と戦っているときとは違う死者を相手にしているからであろう、動きや攻撃の手段を完全に封じるための効率的な斬撃だ。
両断してさらに胴体を三回薙いで顔を斜めに斬って首を落とす。攻撃をいなしてかわしつつ斬撃を与え一つ一つ奪っていくという徹底ぶり。それも人間の視力では決して追えない、刹那的速度で。
そんな戦い方が少しの迷いも惑いもなく、すべて一瞬の間になされていることから、シエナは戦い慣れた本物の騎士なんだと実感する。
「ご主人様、ご無事で?」
息を乱したルウが駆け寄ってくる。労ろうとしたけど、全身傷だらけの俺を気遣って空中でとまったままの手に、苦笑いで応える。
「俺より、おまえは? どこか痛いところは?」
「私は大丈夫です。私よりもご主人様がぼろぼろではないですか」
それはなにより・・・・・・。しかし、あのエドガーの野郎、もし今度会ったら殺す。ルウに酷用字ひどいことをした仕返しをしなければ。
「しかし、なにゆえシエナ様が?」
「さぁな。事情は知らんけど、あいつが来てくれたならもう安心だ」
普段からは想像つかないけど、あいつは強い。剣術のみならず、魔法においてもだ。ゴーレムというのは土系統の魔法では一般的な部類に入る。初級的なもの。階級とでも呼べばいいだろうか、ゴーレムの完成度によって変わるのだ。一番下が土でできたゴーレムで、それから青銅、銀、金。それによって性能、つまり強さも変わってしまう。
通常、一番強いのは金のゴーレムとされているが、実はそれよりも上が存在する。それがダイヤモンドのゴーレム。ただでさえ、魔法で土から鉱石・宝石を作り出すのは一筋縄ではいかない。難しいのだ。見た目だけ同じにすることは容易でも宝石そのものに作り変えるわけだから、とてつもなく。
それは魔導士になるのと同じくらいだとされている。この世界で最も硬度があり、一番価値が高い宝石、つまりダイヤモンドを錬金で産み出し、なおかつそれでゴーレムを生成するのは。消費される魔力も必要な才能も、並みじゃ務まらない。
それを、こんな馬鹿みたいな数のゴーレムで実現できるなんて夢のまた夢。理論上は可能であると唱え、過去に何人もやろうとした魔法士はいたが、誰もそれを成し遂げられなかった。
「困ったことに、その成し遂げられたやつってのがあそこで暴れまわってんだよな」
シエナ。俺の親友。誇らしく嫉妬もするが、今は呆れるしかない。そりゃあそうだろう? だって誰もできなかったダイヤモンドのゴーレムをぽんぽんぽんと造作もなく、いとも簡単に出現させ続けているんだから。きわめつけは本人は戦いながら。
自分自身も戦いながら、大量のゴーレムたちを動かす。これは難しい。二つのことを同時に考えながらやる。無理だ。だから、精密性に欠けている。簡単な指示しか出せない。欠点といえばそこだけだろう。現に単純な動きしかできていない。
それは、魔法薬で操られている死者たちも同じで、指示を出すエドガーがいなくなったからかまとまりを搔いている。
「まだ未完成・・・・・・だとすれば俺の『炎獣』を応用すれば?」
「このような状況でもしや敵の魔法の分析していますか?」
「魔法じゃない。魔法薬だ」
「どちらでもいいです」
「きっと、おそらくは、エドガーが最後に地面に垂らした魔法薬。あの魔法薬で森全体が影響を受けているんだろう。死者たちだけじゃない」
「・・・・・・ご主人様?」
「この森の植物と魔物・動物の死骸が俺達用字俺たちに襲い掛かるような効果があった。あれの効果を消さなければずっと終わらない。シエナの体力と魔法がなくなるまで延々と戦い続けなければいけない」
「もしもし? この異常な状況で分析な続けるんですか? できるんですか?」
地面に沁染み渡っている魔法薬をどうにかする、もしくは消すなんてことは不可能。普通ならば。俺になら、なんとかできる。今すぐどうにかできる魔法を、使えるのだ。
「ご主人様」
すぐ隣にいる子を見て、迷いが生じた。この子に、あの魔法を見せる? この顔の傷を、呪いを――。
「あれ?」
立ち上がって一歩踏み出そうとした瞬間めまいがした。足がふらふらして立っていられない。視界が揺れて世界が回っている。顔になにか当たった。ルウの声が、遠くのほうから響いてくる。意識が保てない。俺は、倒れているのか? 動けない。まだ敵がいる。俺がなんとかしないと。ルウを守る。だからここで倒れるわけには――――。




