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魔導士志望者と奴隷ウルフ  作者: マサタカ
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二十七話

 給料日ということで、研究所内は盛り上がっている。酒を飲みに行こうとかそういう店に行けるとか、ツケを払えるとかそういう系の話で、皆うきうきだ。誘われたが、断った。以前の俺なら、仕方なく誘いにのっていた。けど、今はルウがいる。

 今日の夕食の献立はなんだろう。そんな風にぼんやりして歩いていると、とある店が目に入った。そこは御菓子が売られているお店で、夜が近いというのに女性客でにぎわっている。

 そういえば、ルウも甘い物すきだったっけ。一番はお肉だけど。お土産に買っていったら喜ぶだろうか。

『ご主人様、これはなんでしょうか? まぁ、甘い御菓子ですか? ありがとうございます。私、大好きです。でもどうして、え? ご褒美ですか? ご主人様・・・・・・お慕いしております。付き合ってください』

 よし、買って帰ろう。

 御菓子の種類が多すぎて、どれが一番喜ぶかわからないので全種類を一つずつ買っていった。まぁこれだけ買えばどれか一つくらい好みのものがあるだろう。

 こんな日々が続けばいい。そう願ったとたん、急に不安になってしまう。スランプを克服できていない。昔のような熱意や楽しさというのが、どうしても戻ってこない。いくつか簡単な魔法や魔導具、魔法薬を新たに創ることはできて、魔導書作りは進んだ。けど、しっくりこない。なにか違う。創ったものを眺めて、これが俺の創りたいものなのか? と疑問になる。

悪夢も見る。その悪夢のせいで研究に身が入らないときが増えている。その悪夢を見ると、研究したくなくなる。さっきまでのうきうき気分が嘘みたいだ。今日はせめて楽しく終わりたい。余計なことは忘れて、ルウと美味しい物を食べて。そう言い聞かせようと、でもと不安を消せない。

せめてルウには悟られないように。平静を装いながら扉を開いて、帰宅を告げる。もう何度も繰り返しているが、どうしてもこれだけは未だに緊張する。

出迎えてくれるルウがかわいくていとおしくて好きで。ああ、帰ってきたんだなって幸せになれる。本当は地面に転がって叫びながら喜びを表現したいけど、我慢してうなるだけに留めている。

「ただいま」

奥の部屋のほうで会話らしいものが聞こえる。誰か客が来ていて、その応対をしているということか。それなら仕方ないが、ルウとの時間と生活を汚されたことには違いないので腹立たしい。

 きっとまたシエナだろう。なにか俺に頼み事をしにきたのか。文句を二~三個用意しながら部屋に向かう。けど、どうやら違うらしい。シエナとは違う、野太くて乱暴な怒鳴り声だったからだ。こんな声の主に知り合いはいない。少し足を早めた。

「誰か来ているのか?」

 頭をさげているルウと、その対面に座っている男に、次いで視線を送った。息をのんだ。意外な人物すぎた。

「よぉ、遅かったじゃないかユーグ」

以前街で、ルウに乱暴していた男。できれば二度と会いたくもないと願っていたやつだ。

「エドガー、だよな」

「そうだ。ついこの間会ったばかりだろ」

懐かしい、下卑たにやけ顔でひひ、と笑った。その懐かしい笑い方が、今は嫌悪と怒りしか生まない。

「なんでおまえがここにいるんだ」

 自然と、声が固く低くなる。こいつに対して、良い感情を抱いていない。ルウにひどいことをしたというだけじゃなく、過去、こいつのせいで俺自身が痛い目にあった。

「まぁ、そんな顔すんなよ、自分の家じゃないか。そんなとこに立ち尽くしてないで、座ったらどうだ?」

「なんでここにいるんだって聞いてるんだ」

「まぁそれも合わせて、座って話そうじゃねぇか」

 舌打ちしたいのをこらえる。側に来て荷物を半分持とうとするルウとともに買ってきたものの整理をする。

「大丈夫か? なにかあいつにされなかったか?」

 荷物をしまいつつ、小声で尋ねる。

「はい、その、ご主人様に用があるとのことで、はい。いらっしゃいました。あの方は以前の・・・・・・あのときの人ですよね?」

 きっとルウの記憶にも新しいのだろう。不安になっているのだというのは声と尻尾、そして耳の細かな動きで判断できる。

「お知り合いだったのですか?」

「昔、学院で短い間過一緒だった」

「お友達なのですよね? あのかた、エドガー様がそうだったと」

「・・・・・・今は違う。そんなことなんかより、さっき怒鳴られていただろう。なにをされた」

「い、いえ、なにも。無茶用字むちゃなご命令をされたので、私は、ご主人様、ユーグ様の奴隷ですので、ユーグ様以外の命令は従いませんと応えましたら、お怒りになられまして」

 天使か。嬉しくて愛おしくてつい撫でそうになったけど、ルウの尻尾がだらんと力なく下がっている。不安になっているのか、それともエドガーへの態度が表情に出てしまっていたからか。

「あいつは、俺が相手をするから、そうだな。工房にいてくれ」

 できるだけこの子とエドガーを一緒の空間にいさせたくない。一礼してから、ぱたぱたと小走りで工房へと向かっていった。

「おまえ、奴隷なんて買ったのか。研究所に勤めてるからよっぽど金がいいんだろうなぁ。羨ましいぜ」

 自らポットでお茶をカップに注ぎなおす。おそらく、ルウが用意したものであろうに、味わいもせずにがぶがぶと勢いよく飲んでいるのはイラッとする。

「それにしても、久しぶりにあった友人の顔を、まさかいきなり焼いてくれるなんてなぁ」

 ぺ、ぺし。嫌みったらしく、軽く顔半分をたたいているが、どこにもやけどの傷跡なんてなかった。

「痛かったなぁ。ひどいじゃないかユーグ。親友にけがさせるなんて」

「ほざくな。おまえが昔、俺にしたことと比べたら安いものだ。それに、おまえの力なら、あんな傷どうことなだろう。現に治っているじゃないか」

 ひひひ、とまた一笑い。エドガーは俺と同じ魔法士で、学生時代から魔法薬を作るのが得意だった。家業がもともと魔法薬の売買に携わることだったから、こいつも学生時代自作のオリジナル魔法薬を売って小遣い稼ぎをしていた。

 傷薬や洗濯物の汚れが落ちやすい薬、香水。それから胃腸薬といった役立つ薬だけじゃない。惚れ薬や媚薬、他人の心をよみとれるなんて怪しい薬まで作って売っていたほど。

「ああ、ああ。確かに。傷は治ったよ。けど、皮膚用字肌の下の筋肉と血管まで消し炭になりかけていて。それを完治させるのに、路銀はすっからかんさ。そのせいで今俺がやっていることもできなくなった」

「それで俺に恨み言をぶつけるためにきたってのか? わざわざ?」

「まぁまぁそう焦るなって。懐かしい話でもしようや。学院時代のときなんかよく夜通し研究していただろう?」

「おまえと思い出話をするつもりはない。さっさと帰って二度と現れないでほしいくらいだ」

「冷たいなぁ。友達だろう?」

「字おまえは、自分がしたことを忘れたのか?」

 厚顔無恥とは、きっとこいつのことを指しているのだ。エドガーのぽかん、とした顔を焼き尽くしてしまいたいくらいの怒りを、抑えるのに必死だった。

「あ、あ~。もしかしたら、あのときのことを根に持っているのか? 悪かったよ。けど、俺だってなぁ苦労したんだぜ?」

「悪かったですむかっ」

「怒るなって。別に大したことじゃねぇだろ? なにをそんなにムキになってんだよ。ま、今日はもうけ話を持ってきたんだよ。それでチャラにしようや」

 あれだけのことをしておいて、そんなことだと? さすがにがまんできず、立ち上がってエドガーの襟をつかみあげる。そのまま魔法を発動しようとしたが、エドガーはニヤニヤしている。フリーになっている両腕にはそれぞれ水魔法が、喉元と頸動脈に触れられるまで伸びている。

 切っ先が鋭く、勢いよく回転をし続けている。ただの水ではなく、高速回転させている、薄く鋭い。剣よりも切断力が高いその魔法なら俺をいつもたやすく絶命させられる。

「おまえの炎、紫だったな。昔は普通の色だっただろう。オリジナルの魔法か? まさかまだ魔道士を目指しているのか? 変わらないなおまえは」

「てめぇにだけは言われたくねぇよ」

「魔道士になれるやつなんてのは、それこそ百年に一人のレベルだ。ここ十年ほどは、新しく魔道士になったやつはいないんだろう? そんな夢を追い続けるより、もっと現実的に楽に生きようぜ」

 どうやらエドガーは本題に入るらしい。下手にこいつを刺激すれば、昔みたいになにをするかわからない。不承不承ながらも、離れるとエドガーは満足そうに指を打ち鳴らす。

 どこからともなく布で覆われたなにかが床に出現した。魔法で見た目だけ隠していたのか不明だが、それは人一人ぶんくらいある大きさだった。それの包みをほどきはじめたエドガーに一応警戒をするものの、なにか嗅ぎ慣れた異臭が漂いだしたので、嫌な予感がした。

「どうだ? これがなにかおまえにわかるか?」

 布をとると、中から女性がでてきた。しかし、生きてはいないだろう。血色を失った肌と唇、そして頭から足先まで硬直しきった不自然さ。目に見える不自然さだけではない。生きている者に宿っている生命がかけらもかんじとれない。戦場ではありふれた、死体だ。

「この死体が、なんだってんだ?」

 いくら慣れていようと死体を持ってくるエドガーに強い不信感と嫌悪感を抱く。エドガーは気にするでもなく、死体を愛おしそうに撫でる。

「ただの死体じゃない。見ておけ」

 ひとしきり終えると、エドガーが床に伏せて呪文を唱える。死体のまぶたが突然開いて、瞳孔のひらいた瞳が出現する。ぎょろりぎょろり、と四方に眼球を動かし、俺の姿を捉えるように一点でとめた。また、エドガーが呪文を唱えた。そして生者が決してしないであろうぎこちない重く固そうな動きで、立ち上がる。まるで全身に付けられた糸で無理やり操られる人形。なまじ人間の姿をしているから余計違和感と不自然さが際立つ。

 死体が、起き上がった。立ち上がり、貴婦人のようにドレスの端を持ち上げてお辞儀をしている。しかし、決して蘇ったわけではない。あくまで人間のときのように動いているだけにすぎない。

戦争を体験し、研究所であらゆる奇跡に直面している俺であっても、死体が動いているおぞましさと恐怖には一瞬たじろいでしまう。エドガーが死体を動かせたわけを、直感で悟った。

「おまえ、死霊術に手を染めたのか・・・・・・!?」

 死体や霊魂を操る。あまりにも自然に反し、邪悪だとしてどこの国でも使用や研究は禁じられている魔法。一般人のもならず魔法士であるならば拒絶し、否定する禁断の古代魔法。

「違う。魔法ではない。ただ俺の魔法薬の効果で死体を動かして、従わせているというだけにすぎない。もし呼び名が必要なら、死霊薬だ」

死霊術は、魔法を用いて行われるもの。魔法薬は魔力と材料を用いて産み出されるもの。魔法薬が得意であるエドガーには、死霊術と一緒にされたことが不快だったのだろう。顔をしかめて鼻を鳴らした。もし本当なら、とんでもないことだ。魔法薬だけで死者を蘇生し、操るなんて誰もやったことがない。

「死後、三ヶ月は経過している」

 三ヶ月。通常であれば、もう腐敗が進んでここまでの状態は保てていない。それだけエドガーの魔法薬が優れているということなのか。死体特有嫌な匂いが微かにしてはいるものの、驚嘆すべきことだ。

「本当に魔法薬だけの力なのか? どんな材料で作った? 他の実験体との比較を表したものは? 夏と冬の違いは? どれだけの時間をかけて作った?」

 具に、死体を観用字見察し矢継ぎ早に疑問をぶつける。

「おいおい、そいつは秘密だ」

「いいじゃねぇかよ教えろよ」

「こいつは完成からはほど遠い。最終的には死者を記憶と意識、人格を生前のまま蘇えらせる。それも、まったくの死体のままでだ」

 だとすれば気の遠くなるような困難さだ。魔法薬だけでそんなことをしようだなんて、それこそ魔導書にできるレベルじゃないか。未知の現象を前に、どのようなものか知りたい。自分で編みだしたいというという欲望は、俺が研究者だからか。魔道士を志しているからか。

 そこではっとして口をつぐむエドガーの魔法薬の魅力にわれを失いすぎていた。ぶぜんとして、椅子に座り直した。急に態度を変えた俺に少し不審げになったが、すぐ元に戻ったエドガーは、嬉々として説明しだした。

「材料も金も、時間も足りない。だが、それらを全て解決できるかもしれん情報を手に入れたのだ」

「その情報って? なんだよ」

「遺跡だ。それもまだ誰もどこも発見されていない。そこに、ある遺物が眠っている」

 太古の昔、まだ国や魔道士、魔法というあらゆるものが制定されていなかった時代の建築物。内部には金銀財宝のみならず、魔法の知識や強力な魔導具が眠っている。遺跡は世界各地にあって、傭兵や物好き、俺のような研究者が調べることが往々にしてある。

 危険な魔法や結界、魔物や罠が存在していて命を落とすのが常な、危険な場所。その遺跡に侵入して、過去の遺物、貴重な宝を入手しようと。そして売ろうと。つまりはそういう話なのだろう。

「そうすれば、俺の目的も、夢も、一歩実現に近づく」

 夢。こいつにも夢があるのか。魔道士になるという夢を持つからか、エドガーへの嫌悪が薄らいでいく。

「おまえの夢ってのは、この魔法薬を完成させるってことか?」

「それは通過点、ただの途中にすぎない。そもそも、その魔法薬だって完成したらレシピを売る」

 もったいない。せっかくのレシピを売るだなんて。けど、そこに目くじらをたてる場合じゃない。

「じゃあ最終的な目的ってのは?」

「復讐だ」

 雰囲気が、一変した。それまで軽薄で気味が悪かったエドガーに、暗い影が。

 復讐。その言葉が、耳朶を震わせた。すとん、と自然と胸の中に入っていき、徐々に染み渡っていく。まるで俺の中に存在していたものが元の場所に戻ってきたってくらい自然と受け入れてしまった。

「復讐。そうか。そうだな」

 こいつにとっては、やはり俺と同じで、今もあの頃のことが原動力となっているんだな。なんだか感慨深い。

「忘れていない。ユーグだってそうだろう。おまえも、魔道士を目指しているのも、忘れていないからだろう?」

 そうだ。そのとおりだ。きっかけはそうだった。協力したいという願望が強くなっていく。その死霊薬を完成させてみたい。しかし迷ってしまう。

「それに、死体も足りないのだ。おまえならそれも解消できるだろう。研究所にいるだろう。だったら死体のストックなんて十分持ってこれるじゃないか」

 凄まじい偏見と決めつけに苦笑しかける。俺が勤めている研究所では、あくまで魔法の研究。死体を使う実験なんて皆無だ。

「おまえはどうやって死体を調達していたんだ?」

「まぁ、適当な街とか村とかの墓から盗んだり」

最低だな。たたられてしまえばいいのに。

「それから、戦場で手に入れていた」

「・・・・・・戦場ってちょっと前の共和国と帝国のか? おまえも戦争に参加していたのか」

「とんでもない! あんな馬鹿馬鹿しいこと誰ができるか。戦争が終わったあとに、死体を拾って集めていた」

「・・・・・・」

「しかし、激しい戦争だったみたいだな。まともな死体がほとんどなかった。必ず傷があったり体が欠けていたりし。しかし縫い合わせれば事足りたし、あれほど大量の死体を扱えたからここまで進められたのだ。またどこかでおこらないものかなぁ。そうすれば今度は――」

「やめろ」

 命を懸けて戦っていない。そんなやつが、また戦争がおこらないか、だと? あんな地獄を求めているのか? 

「おまえに、毎日土の上でわずかな時間寝る兵士のなにがわかる。同じ部隊だった顔見知りが毎日死んでいって、次は自分だという恐怖にさらされ続ける兵士が。満足に食事もとれず、敵の奇襲におびえて一睡もできない、瀕死の重傷を負って正気を保ったまま手足を切り落とされて治療される兵士が、それを忘れられない俺が。戦場で実際に殺し殺されかけて、善悪も卑劣もくそもない戦争で生き残った兵士が。なにを得意げに自慢げに。ふざけるなよ!」

 あぜんとしているエドガーを、にらみつけながらありのままぶつけ続ける。

「その口ぶりだと、お前用字おまえもあの戦争に参加してたのか。驚いた」

 吐き出したいことをあらかたぶつけると、もう会話をする気が完全になくなっていた。

「ひ、ひひひ。今日はもう帰るわ。まぁじっくり考えて決めてくれ」

 とても、見送る気になんてなれない。エドガーが通路に行こうとしたのと同時に、工房からルウが出てきた。もう話は終わった気配を感じ取ったのか。最初は俺に伺いをたてようとしたみたいだけど、律儀にエドガーの後に従った。優しい子だな。こいつを見送る必要なんてないのに。

「おまえ、ウェアウエアウルフだな」

 頭から爪先までを、舐め回すように睥睨されていても、ルウは動じていない。

「健康か? なにか病を患ったことは? 字けがをしていたり障害を持っていたりは?」

「いえ。そのようなことは一切ございません」

「ふぅ~ん。ふんふんふん。ひひっひひひひ」

 こいつは、なんだってそんなことを聞いている?

「いいな。実にいい。字おまえは使えそうだ。おいユーグ。この奴隷俺に譲らないか?」

「あ?」

「ちょうど新鮮な生きた実験体がほしかったんだよ。こいつは肉つきもいいし、亜人の実験もしたかったんだ。ひひっ・・・・・」

 こいつは、今なにを言った?

「なぁ、いいだろ? こいつをもらった分の金は、さっきのもうけ話のお礼と一緒に――

「黙れ」

 ルウに伸ばした手を、はたきおとす。そのままそのまま追い出した。

「二度と俺の前に現れるな」

 手首を擦っているエドガーは、想像していなかった台せりふに、面喰らっている。

「おいおい、なに怒ってるんだ。どうしたんだよ。たかが奴隷なんか。代わりはいくらでもいるだろう?」

 ・・・・・・どうやらこいつは徹底的に俺を怒らせる天才らしい。

「さっきの返答と、合わせて伝えておこう。断る。ルウは渡さないし、おまえとは組まない」

表情が凍りついた。空いたままの口からはこひゅ、という空気を取り込もうという音しか出ていない。

「は? おまえ、正気か? 復讐だぞ? それだけじゃない。一生使い尽くせない金が手に入るんだぞ?」

「一緒にするな」

 底冷えするような、殺気を含んだ声に焦りだしたエドガーが黙りこんだ。

「おまえとは、違う。一緒にするな」

昔は復讐心があった。こいつと同じだった。けど、今は違う。それだけじゃない。復讐は夢に変わった。己を焼き尽くして全てを捧げてかまわない覚悟と決意は忘れていない。

変わっただけだ。目指す先、理由。目的のための手段が、夢になった。それだけだ。エドガーの目指している

ものと、俺の目指していることは、決定的に違ってしまっている。

なにより、ルウがいる。ルウを実験体として要求した。物として扱おうとした。ルウにほれている俺からしたら、それだけで断る理由になる。迷いはない。こいつの死霊薬への未練も。

 手のひらが、パチパチと弾けている。感情が高まりすぎて、魔法が暴発してしまっている。けど、抑える気はなかった。逆にヒートアップしていく怒りに反応して、魔法の波動がはっきりとした形、『紫炎』となって示す。

 もう交渉も説得も無駄だと察したんだろう。親しさ。共有。明るい感情がなくなって、敵に対しているかのようなエドガーと真っ向から対峙する。

 ちらりと、エドガーは視線を少し下げて、俺に戻した。舌打ちをすると、身を翻して去って行く。

「裏切り者。後悔するなよ」

 裏切り者。あのときと同じ言葉が、突き刺さる。昔のように悲しくはなかった。背中が遠ざかっていく。かつて友だった、もう二度と会いたくもない男が、夜の闇に溶け込んでいった。


 

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