二十八話
「時間がかかっちまったな。食事にしてくれるか?」
「はい、かしこまりました」
エドガーとのやりとりを聞いていたのか、玄関前でルウは待っていた。移動しながら調理用の竈に、小さい火種を飛ばした。少し寒さを覚えて、暖炉にまきを足しておく。木に燃え移った火が次第に大きくなっていくのをたしかめて離れた。居間のほうの椅子に座って、まだ乱れている感情を整理しようとしたが、難しい。
「あの、ご主人様」
顔を覆っていた手の隙間からちらりとのぞくと、目の前にいつの間にか側にルウがいた。
「どうかしたか?」
「どうぞ」
ちょこん、と正座するようにして、背中を向けて尻尾を傾けてきた。誘うようにふりふりした尻尾に、首をかしげてしまう。
「どうぞ」
いや、どうぞってなにが?
「ご主人様は、疲れていらっしゃるようですので、私の尻尾と耳を、心の赴くまま『もふもふタイム』をなさってください」
なん、だと?
「本気か? 正気か? マジか? 久しぶりすぎて我慢できない助詞不足の可能性ありぞしないぞいいのか途中でやめられないぞ」
どうしてこのタイミング? なんて疑問がそもそも出助詞不足の可能性ありないくらい衝撃的な提案だった。だって、『もふもふタイム』が、できる。それもルウからの提案で。
「気持ちが悪い反応なのでやはり撤回してよろしいですか?」
「殺生な!」
呼吸困難になるくらい息が荒くなって手が震える。目もきっと血走っているだろう。気持ちが悪いどころかこわいと自覚できるけど、それくらいになってしまうことだ。ええい、ままよ。辛抱できず、尻尾をがばっと抱きしめに飛びかかる。全身で抱きしめる。
ふわ・・・・・・ふわあああああああああああ・・・・・・・・・・・・。
「天国だ・・・・・・」
ふわふわの毛並み。顔に当たる感触。それだけで意識を失ってしまうくらいの快感。少しの間、それだけで満足できてしまっている。けど、欲張って頬ずりしたり手で擦る。
「本当に、ご主人様、には、困ったもの、です」
くすぐったいのか、それとも別の理由からか。途切れ途切れのなにかを我慢している、ルウの声が心地よい。思わず尻尾を味わい方にも熱が入る。
腕まくりをして、服をはだけさせて、少しでも接触面積を増やす。それだけでもう、幸せすぎて死にそうだ。摩擦で発火するんじゃないかってくらいに手と顔が動いてしまう。
「はぁぁぁ~・・・・・・」
「もう、人としての言語を使うこともできないの、ですか。そんなにもこの尻尾がお好きなのですね。最高に気持ち悪いです。ウェアウルフなのに鳥肌がたってしまいます。この行為をこれほどまで喜ぶような異常性癖者は、この世界にただ一人ご主人様だけでしょうね。ああ、気持ちが悪いです」
「ばああああ、ふふゅひいいいい・・・・・・ひひひ」
「もう会話すらできないレベルのようですね、本当に気持ちが悪いです」
次第に、艶っぽさと切なさを含んできてるルウの罵倒も、どうでもいい。もうこの尻尾なしの人生なんてありえない。
「早く・・・・・・終わらせて・・・・・・いただけませんか・・・・・・気持ちが悪すぎて、私も・・・・・・もう・・・・・・」
なにかがこみあげてくるのを必死で押さえている。ともすればあえぎにも嬌声にも似た声を、痙攣しながらあげる。それが、俺の感情をかきたてる。
そうだ。尻尾だけじゃなくて耳も触ってみよう。
「っ!?」
「おおっ」
一瞬、一際大きい叫び声。それに負けることなく耳を揉んでいく。徐々に強く、リズムカルに。尻尾とは違った感触に大きさ。楽しさと面白さが、耳にはある。
罵倒はなくなって、変わりに男と女の荒い息遣いだけが響く。いつ終わるともしれない『もふもふタイム』に、次第になにも考えないで没頭していく。時間も忘れて、ただ楽しみ続けた。




