二十五話
「ははは、君はこの花よりも美しいね。こんなあばら屋という泥の中でけなげに咲く、可憐な愛らしいな花さ」
「お上手ですね。誰に対しても同じせりふをおっしゃっているんでしょう」
「手厳しいね。けど、僕はうそをつかないよ? 真実しか伝えない。奴隷であろうとなんであろうと、美しさと女性であれば、例を尽くして忠誠を誓うのが騎士だからね。もちろん、君が許してくれるのであれば僕は君だけの騎士になろう。今すぐにでも・・・・・・ね?」
「まぁ」
「俺の許可は?」
ナチュラルにルウを口説いているシエナに、『紫炎』を発動して迫る。
人の片思い相手に、なにふざけたことしいやがるんだこいつは。
「おやユーグ、お帰り」
「お帰りじゃねぇこの間男」
残業してくたくただってんのに。俺の言葉を本気と受け取っていないのか、胸ぐらをつかまれていてもこいつはにこにこ笑顔を崩さないでいる。焼いてやろうか。ルウもなんか嫌がっていないみたいだし、だったら嫉妬で親友の顔を焼いてもかまわないだろう?
「ご主人様、お待ちください。シエナ様はご主人様にご用があったのでお待ちいただいていたのですよ」
「そうそう。それでルウ嬢にお茶を入れてもらって世間話がてら、ちょっとね」
「ちょっとでなんで口説く流れになってんだごら」
「ん~、くせで?」
ウインクなんて、男にされても嬉しくない。逆に似合っているぶん怒りが倍増する。
「それで? なんの用事だってんだ?」
「まぁちょっと相談したいことがあってね」
意味ありげにルウのほうをチラ見したのと、雰囲気からおそらく騎士の役目なんだろうと察せられた。さっきまでのどうしようもない怒りが急速に失せていく。思い返せば、こいつが女性に甘い言葉をかけたりするのはいつもどおりだし、ただ相手がルウだったってだけ。それにこいつは一線を守れる。親友の片思い相手を本気で口説くつもりはない。今までそうだった。誰かの相手と関係を持ったことはない。というかそうであってほしい。
「ルウ、食事の準備をしてくれ」
かしこまりました、と頭を下げるとすぐにルウは台所のほうへ向かった。
「いい子だね。あの子。君が好きになるのも理解できるな」
ルウが行ったほうを眺めたまま、穏やかな笑みを浮かべている。それにつられて、俺もつい同意してしまう。
「そうだろう。あまり自己主張が強いタイプじゃない。感情的ってわけじゃない。けど本当は美味しいものとかが大好きで奇麗好きで、それでいて意地が強い部分もある。ちょくちょくメンタルが傷つくレベルで罵倒されるけど、そんなところもかわいいし好きだし、なにより――」
「それよりこれなんだけどね?」
まだルウの魅力の十分の一も語っていないのに。不承不承にも、シエナが机に置いた小瓶を観用する。
「こいつは?」
「商人とか貴族が被害を受けているっていう。例のアレさ」
あと何個か取り出した。中身はどれも違う。生き物の皮、臓器、頭、植物の茎、葉。事件の証拠なんだろう。
「騎士団には、魔法薬に詳しい人がいなくてね。どんな成分で作られているのか調べほしい。どんな材料か知れればどこで購入したのかも調べられる。犯人逮捕に近づける」
「なら研究所に依頼すればいいんじゃないか?」
小瓶を傾けて角度を変えながら少し観察してみる。魔法薬の成分を調べるなんてことは必要な材料と道具、知識があれば簡単にできる。といっても騎士団が無能というわけじゃない。どちらかといえば騎士というのは戦ったり護衛したり実際に調査を行う役目を主にしているから、魔法に関する知識が必要とされない。だから今回のようなときには研究所に調査を依頼する。今までそうだったし俺も何回か仕事として携わったことがある。
「時間がかかるんだ。手続きとか書類とか許可とか。それで実際に研究所に依頼して引き受けるまで半月はかかる。そうなると被害は増す一方だし、犯人は逃げるかもしれないからね」
「俺も暇じゃないんだがな」
ルウとの生活も仕事もある。スランプは脱しきれていないが魔道士になるための研究も並行してやらなければいけない。そこへ、こんなことをするってなると本当にきつい。
「ちなみに協力してくれたら金一封が騎士団から授与されて――」
「しょうがねぇな。ちょっと待ってろ」
「わぁ。さすがユーグだね」
最近はいろいろ金の減りが早い。ルウは節約して安い食材を使って料理しているけど、今まで一人でかつかつのせいかつだったんだから、二人に増えれば自然の流れだろう。
「ご主人様、夕食の件なのですがシエナ様もご一緒していただきますか?」
台所のほうから顔だけ出してたずねてくる。そんなしぐさが愛おしくてたまらない。
「はぁ・・・・・・かわいい」
「ご一緒いただきますね」
感動している俺を無視して、調理に戻っていった。こんなやりとりがもはや当たり前になっているから、もうルウも慣れてしまったんだろう
「汗臭くてむさ苦しい騎士団にいるからかな。羨ましいよユーグ。本当、あんな子が僕の側にもいてくれたらなぁ」
「やらん駄目だ諦めろ決闘も辞さない」
「冗談だよ。そんな戦争の兵士にふさわしい切羽詰まっりた顔して魔法使おうとしない助詞不足の可能性ありでよ。本当、君はあの子が好きなんだね」
「好きなんてものじゃない。愛している」
それからルウが夕食を持ってくるまでの間、ルウがどれだけ素晴らしいかどれだけ癒やされているか。そんなルウと一緒にいられてどれだけ幸せか語って聞かせた。
「ユーグは、変わったね。あの子がいなくなったら死んじゃうんじゃない?」
引きつった笑顔のシエナに、なにをそんなこと。あるはずがないって意地になって、さらにルウを称える言葉に熱が入った。




