二十四話
「お待たせいたしました」
そわそわとした落ち着きのなさが最高潮に達した。最後にテーブルに置かれた料理に、感嘆が漏れてしまう。
手作りのドレッシングで彩られたサラダ、コーンスープ、マッシュポテト、ふわふわ生地のパン、メインディッシュとなる小さめのローストチキン。
決して見栄えがいいわけではない。所々焦げ助詞不足の可能性ありているし、ボロボロな部分もある。盛り付けの仕方のせいだろうか、あまりよくない。それでも、ジーンと胸の奥が温かくなる。
食卓には、久しぶりに人らしい料理が並んでいるという光景だけではない。豪華とはいかないが、誰かの手作りしてくれた料理・・・・・・それも女の子が、好きな子が作ってくれた料理だ。
この料理とこの時間を永遠に保存できる魔法があればいいのに・・・・・・というか創れないか?
「早くお召し上がりください」
もう少しまってほしい。この幸せにもう少し浸っていたい。
「お、は、や、く、ど、う、ぞ」
「・・・・・・はい」
物凄い圧に屈して断念せざるをえなかった。悔しいが。
というか、そもそもなんで今更料理を? そぶりすらなかったし、最初のほうで料理苦手とか言ってなかったか?作ってるときも慣れていなそうで、ハラハラドキドキしたし。
「お召し上がりにならないのでしたらお下げします。もったいない捨ててしまおうと」
「いただきますっ!」
勢いよく食べ始める。捨てるなんてさせられるわけがない。咀嚼用字消化を何十回としてしっかりして全身全霊で味わう。
「お味はいかがですか?」
「生きていてよかった」
それしかない。感動で打ち震え、油断すれば泣いてしまいそう。好きな子の手料理って、こんなに凄まじかったんだな。
「もういつ死んでもいい」
「人の話聞いていますか。私は味を聞いているのです。ご主人様の生き死になんてどうでもよいのです」
しんらつ。けど、それだけこの子が自分の仕事に一生懸命ってことなんだ。いとおしい。好き。
「味なんてこの際どうでもいいさ。食べられれば」
「具体的に仰ってください」
ぐいぐいくるなぁ。俺が美味しいかまずいか、そんなに重要なんだろうか。
「味か。正直・・・・・・・・・・・・美味しいよ」
「結構間がありましたが、本当ですか?」
曇りなき眼。まるでこちらの本心を見透かしていていながらなにかを訴えかけてきているようで、後ろめたい。
「そうだな。美味しい。けど、正直もうちょっと味とか火加減とか変えてくれたら嬉しい」
「味と火加減ですか。どのように?」
「もうちょっと濃いのがいいかな」
全部の料理に当てはまることだが、薄すぎる。火も焼き加減が甘くてもうこれ生肉なんじゃね? って具合。
けど、好きな子が作ってくれたのがポイントなんだ。あまり料理が得意じゃないっていうことは、今のルウの傷だらけの手と調理中の様子から察せられるし、俺にとってはルウが作ってくれたって事実だけが最高のスパイスであり、それさえあれば十分満足してる。
「濃くとは、どこまですればよろしいのですか? 火も、どこまで通っていればよろしいのですか?」
それからもすべての料理を食べるたびにどんどん細かい質問をして、詳細に説明し、それにふむふむとうなずく。
「かしこまりました。では次からはそのように心がけます」
向上心あるな。現状に満足しないで上を目指す志。好き。
「しかし、どうして急に料理なんてはじめたんだ? それだけじゃない。他にも、その・・・・・・変だっただろう?」
できるだけ言葉を濁したけど、ルウは訥々としている。
「それは・・・・・・そうですね。なにが原因であると問われるならば」
やはり自覚があったのか。
「それは、ご主人様にも原因がございます」
「俺にも、だって?」
驚いてつい口に食べ物を入れた状態でしゃべってしまったからか、責めるように身ぶり手ぶりで指摘される。
「それでついあのようなことになってしまうのです」
原因が俺にあるのなら、是が非でも知らなければならない。自分のせいで、この子に負担をかけたくない。
もし、嫌なところがあれば直す。体臭や口臭がキツいとかだったらそれを改善する魔法薬を。顔が嫌だったんならこんな顔捨て助詞不足の可能性ありてやる。同じ部屋で寝起きするのが嫌だったんなら、いっそのこと俺は外で寝よう。それくらいのつもりでいる。
「いえ、ご主人様ではどうすることもできない問題でございますから」
「は?」
なんだそれは。俺にも原因がある。なのに俺ではどうすることもできない? どういうことだろう。 それ以上説明したくないのか、ルウは黙りこんでしまったし。
「私でも、どうしようもないのです」
う~ん。シエナが教えてくれたように、種族的な風習とか習性とかか? それで、俺は知らず知らずのうちに負担を強いていたのか?他にもなにか言ってたような・・・・・・。
「そうか!」
合点がいった。バラバラだったものが綺麗にはまって、本来の形になって、すっきりした。
「なるほどなるほどなぁ。そういうことかぁ」
「ご主人様?」
「すまなかったな。俺の配慮が足りなかった」
「え、ええ?」
困惑しているが、あえて詳しく説明する必要はない。それはルウに、というか女の子は指摘されたら恥ずかしくて嫌なことだろうから。
ルウの最近の不可思議な変わりようの原因。それは、女の子特有の日。あのとき、シエナも言っていた。つらい人にとってはいつもと豹変するほどだとか一緒にいる相手のすべてがイライラするとか。それならば俺に原因があっても、ルウ自身にもどうしようもないという説明にも当てはまる。
「俺は、経験ないから。けど、つらいんだろうな」
そんな障りのない慰めしかできない自分が、無力さが恨めしい。
「え、ええ。しかし、私だけではないですし」
どうにも符に落ちない様子。というか困惑している。迷惑をかけるということが、申し訳ないと。それを俺が受け入れたのが納得できていないと。けど、それでいい。
男の俺が、どうこうできることでも口出しできることじゃない。それに、俺が女だったらよかったのにな。そういうとき、どうすればいいか書いてある本はないだろうか。今度本屋に行ってみよう。
この話題は、もう終わらせたほうがいい。
けど、気付けてよかった。今度からもっと余裕をもって対処できる。
「本当にご主人様はわかっているのでしょうか?」
ルウの独り言も、料理に舌鼓を打っている俺には届かなかった。




