十六話
「ユーグは戦争が終わったらどうするんだ?」
焚火を囲んで暖をとりながら、小休止をしている。食事も終わったが眠ることはできない。いつまた出撃命令が下されても迅速に動けるため、待機していなければいけないのだ。
疲労困憊で、それでも、こうやって指がかじかんで必死に揉んで息を吐きかけ、他愛ない話をする。
「敵襲! 敵襲!」
緊張が走った。和やかな笑いに満ちた空気が消え去り、兵士に戻っていく。それぞれの武器を持って最早慣れた動きでそれぞれの行動をとっていく。
夜襲をしてきた敵の雄叫びが聞こえる。指揮官の命令を忠実に、しかし本能で戦っていく。
『紫炎』で、敵の武器を破壊して丸腰の敵に突貫する。押し倒してそのまま首を焼き切る。飛来する矢は上空に炎の壁を作って防御する。そのまま向きを変えて前方に突進。靴屋の店主だというジョニーに敵が二人覆い被さっている。狙いを定めて魔法を放ち、断末魔をあげている敵を突き飛ばして助けようと試みたが、事切れていた。
漁師だったコム、鍛冶屋のケンウェイが風の刃でバラバラになった。兵士を父に持つジムと二人で戦った。風魔法で『紫炎』の起動が逸らされ、ジムの槍が折られた。拳に『紫炎』を纏って殴打するが風の鎧を包まれているのかなかなかダメージが通らない。敵の身体から凄まじい烈風が吹いた。脇腹に鋭い痛みが走って堪らず仰向けに倒れる。ジムが後ろから羽交い締めにかかるが頭を掴まれて血と脳漿が飛び散った。『紫炎』で敵を囲み、周囲の酸素を消しにかかる。
そいつだけに構ってはいられなかった。次々とおそろしい形相の敵兵士が襲いかかってくる。
「俺は、やっぱり魔道士を目指すよ」
「ははは。お前は変わりもんだな。魔法なんてなにが楽しんだか」
「そうそう。俺は田舎に帰って女房に三日間突撃するね」
「俺は好きだった子に告白する」
「酒浴びるほど飲んで美味い飯たらふく食いてぇなぁ」
「飯か。いいなぁ。もう兵糧は食い飽きたよ。肉が食べてぇ」
「明日には補給部隊が到着するらしいぞ。肉があるらしい」
「まじか!」
「指揮官とか将軍とかお偉いさんが一番いいとこ最初に食うんだろ? 俺達は余り物さ」
「敵の大将の首とって出世して、貴族になりてぇなぁ」
「お前には無理だろ。びびりだし」
「昨日なんて隊長に無理矢理突撃させられてたじゃねぇか。泣きながら」
「う、うるせぇ!」
皆、生まれが違う。身分も年齢も職業も。それでも、生死をかけて戦い、死線を潜っているという連帯感が友情を芽生えさせている。戦争は嫌だけど、部隊の皆は嫌いじゃない。
「ユーグ。お前も結婚までいかなくても恋でもしてみたらいいんじゃねぇか? その年齢で研究一筋ってさみしいだろ」
「しようとしてできるもんじゃないだろ」
「ははは。たしかに。でもな、好きな子がいるっていいもんだぜ。それだけで死んでたまるかって、生きてやる、そいつのためならなんでもできるんだぜ」
「研究のためならなんでもできるけど」
「じゃあ魔法が恋人かよ。はは」
死んでいった戦友達との会話。つい先程まで生きていた人達との記憶が急に頭の中で流れてくる。
良い奴らだった。死んでほしくなかった。顔を斧が掠めた途端に、その記憶一つ一つを消していく。敵を殺すことだけを考えなければ生き残れない。死んでしまう。死にたくない。
「うわあああああああああああああ!」
どうして俺は戦っているんだろう。どうして生きたいんだろう。
夢だ。夢を叶える。魔道士。魔法。魔導書。そうだ、帰ったらあの魔法を作ろう。戦場で皆がアイディアをもらったとき閃いたんだ。俺に作れるだろうか。他にも創りたい魔法がたくさんある。




