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強制☆恋愛体質〜私をドキドキさせてくれる殿方募集中!  作者: 毛布 繰丸


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☆8話:決戦は三本勝負! 剣術馬鹿を釣る甘い罠

 放課後の夕暮れ時。茜色に染まる特別科の空き教室は、まるで戦略本部の様相を呈していた。


「――では皆様、バリー様攻略のための緊急作戦会議を執り行いますわ!」


 リリーの宣言とともに、取り巻きの少女たちが「「「パチパチパチ」」」と可愛らしい拍手を鳴らした。


 あたし、デリール・インノクトの仕事は、彼女たちが提出する自由奔放なアイデアを精査し、至高の作戦へと昇華すること。

 いつも取り巻きたちには『馬鹿らしい内容でも良いから、思いついたことは何でも意見を言いなさい!』とお願いしてある。数打てば当たる、アイデアの質は量から生まれるのが我がインノクト家のモットーなのだ。


「まずは、わたくしからよろしくて!?」


 真っ先に手を挙げたのは、重度の恋愛妄想小説マニアであるアンだ。その瞳は興奮でギラギラと輝いている。


「バリー様が休日に街へ出たタイミングで、デリール様をカッコよく助けるシチュエーションというのはいかがでしょうか! インノクト家の使用人に暴漢の変装をさせ、デリール様を襲わせるフリをさせるのです! 危機に駆けつけるヒーロー……完璧なシチュエーションですわ!」


 あたしはパチンと扇子を鳴らし、即座に却下した。

 リリーが代弁する。


「アン、ダメよ! 侯爵家の令嬢が護衛も連れずに一人で街中をフラフラ歩いていたら、それこそ家柄の品格を疑われて呆れられるわ! ……それに、仮にその作戦が成功したとして、助けられて相手に惚れるのはデリール様の方になっちゃうじゃない! 逆になってどうするの!」


「あっ……た、確かに! 私がキュンキュンする展開を優先してしまいましたわ!」


「でしたら。街中ではなく学園内で、デリール様にしつこく言い寄る『ウザい貴族令息』をわざと用意して利用するのです。デリール様にしつこくナンパする男の前へ、剣の稽古帰りのバリー様が偶然通りかかるように仕向けるのは……」


「だから! 結論は同じだし、学園というみんなが注目する公の場で、わざわざ侯爵令嬢に言い寄る嫌われ役を引き受けてくれる奇特な令息なんて存在するわけないでしょ! デリール様の名誉にも傷がつくわ!」


「お、おっしゃる通りで……!」


 頭を抱えて撃沈するアン。

 だが、会議の熱気は冷めるどころか増す一方だ。


「では、デリール様が『剣術を教えてほしい』とバリー様にお願いするのはいかがでしょう! 師弟の絆から芽生える手取り足取りの恋……!」


「余程変わった趣味じゃない限り、剣術が趣味の侯爵令嬢なんて居ないわ! それにデリール様は、剣よりもその美しい扇子を武器にされる方が遥かにお似合いですわ!」


「バリー様の稽古を『見守り隊』として徹底マークするのは!? 毎日差し入れをして世話を焼き続ければ、すぐに胃袋と心を落とせるのではなくて!?」


「既に他の貴族子女がアピールのために差し入れやら何やらをしてますが、見向きもされていないわ! 昨日、塩対応されたばかりじゃないの!」


 あーでもない、こーでもないと、教室内に意見の海が広がっていく。

 あたしは一通り意見が出揃うまで、顎に手を当てて静かに耳を傾けていた。頭の中で、それぞれの案のメリットとデメリットを高速で精査する。


 その時、恐る恐るだが、今までとは方向性が違う意見がでてきた。


「……正面からの色香勝負はナシなのですか? デリール様の魅惑のボディの虜にすることはできませんかしら……?」


 チラリと、取り巻きたちの視線が一斉にあたしへと注がれた。

 あたしの顔、細い首筋、ほどよく発育した胸元、キュッと引き締まったウエスト、そして優雅なドレスのライン……。上から下まで一通り視線でなぞった後、彼女たちは何事もなかったかのように会議へと戻った。

 ノーコメント。無言の納得。


(ちょっと! 今の間は何!? 失礼しちゃうわ、あたしだってスタイルには自信があるのに!)


 内心でプリプリと怒っていると、別の意見が飛んできた。


「ね、ねえ! 物で釣るのはどうかしら!? インノクト領の最高級の美味しいお菓子や特産品を山ほどプレゼントするの!」


「それよりも名馬を贈る方が喜ばれるのでは!?」


「侯爵家からの『騎士団への推薦状』なんていかがでしょう!」と、一人の令嬢が声を上げた。「学生のまま王立騎士団の訓練に参加できる権利なんて、特別感が満載じゃないかしら!」


 これだ。

 物で釣る。いや、物ではない。『男の夢』で釣るのだ。


「全員、静かに」


 あたしが静かに宣言すると、騒がしかった教室が一瞬で静まり返った。

 机の上に『パシッ』と扇子を置く。


「決まったわ。『侯爵家からの騎士団への推薦状(特別訓練参加権)』にするわ」


「「「おおお……っ!」」」


「バリー様も卒業すれば自然と入団できるでしょうけど、学生のうちから王立騎士団の本隊の訓練に参加できる権利を用意するの。あの様子では、学園の同年代にはもう対等な訓練相手が居ないでしょうし、喉から手が出るほど欲しいはずよ」


(ふふん、それにね……あまりにも豪華すぎる名馬や宝飾品をプレゼントしてしまうと、相手もお返しに気を遣ってしまうでしょ? 権力を使った『機会の提供』なら、貸し借りとしても丁度いいわ!)


 完璧な配慮。我ながら、なんて相手の立場を考えられる優秀な侯爵令嬢なのかしら!


「でもね……」


 あたしはニヤリと、少し意味深で不敵な笑みを浮かべた。


「ただプレゼントを『ポイッ!』って渡して、相手の反応を待つだけなんてつまらないわ。条件を付けて、あたしを無礼にも追い払おうとした意趣返しもさせてもらうわよ!」


 取り巻きたちは一瞬ポカンとした後、「さすがデリール様!」「転んでもただでは起きない方だわ!」「どこまでもついて行きます!」と大絶賛の嵐となった。


「許可証の発行はパパに頼むから、引き続き条件を決めるわよ!」


 ◇


 数日後。


 作戦は順調に進行した。

 許可証は「どうしても必要なの! パパお願い!」と上目遣いで手を合わせたら、「我が愛しの天使の頼みなら!」と、翌日には『騎士団特別訓練参加・許可証』を王宮から発行させたのだ。パパ、本当にありがとう。相変わらず仕事が早くて娘に甘くて助かるわ!


 放課後、あたしたちは誰もいない空き教室にバリー様を呼び出した。


 扉が重々しく開き、そこに現れたのは、相変わらず大きな体躯をした赤い髪の男――バリー様だった。

 彼は不服そうに眉間に深いシワを寄せ、面倒くさそうに室内を見渡している。


「……デリール嬢。急にお呼びとのことで参上しましたが。一体何の用でしょう。私はこれから自主鍛錬の時間なのですが」


 あたしは優雅に椅子に腰掛け、淑女の微笑みを絶やさずに彼を迎え入れた。


「ごきげんよう、バリー様。わざわざ足を運んでいただいて感謝するわ」


 あたしが目線で合図を出すと、隣に控えていたリリーが、恭しい手つきで一枚の豪華な羊皮紙を取り出した。そこに書かれた王立騎士団の認可印を、バリー様の視線の高さにかざす。


「……ッ!?」


 それを見た瞬間、バリー様の目が丸く見開かれた。

 それまでの不機嫌そうな顔が一変し、驚愕と、底知れぬ情熱がその瞳に宿る。


「これは……王立騎士団の、学生特例訓練参加の許可証……!? なぜそれを君が……!」


 思わず、引き寄せられるように手が伸びてきたバリー様。

 しかし、彼の手が許可証に触れる直前!

 さっと素早い動作でリリーが紙を遠ざけた。


「あっ……!」

 手が空を切り、拍子抜けした顔をするバリー様に、リリーがツンと澄ました顔で告げる。


「バリー様。こちらは、より充実した訓練ができるようにと、デリール様が特別にご準備された物でございますわ」


 バリー様は伸ばした手をゆっくりと引き戻すと、ハッと自我を取り戻したように咳払いを一つした。

 鋭い瞳であたしを睨みつけてくる。流石は副騎士団長の息子、ただの脳筋ではないらしい。こちらの意図を察したようだ。


「……タダでこれを譲ってくれるわけではない、ということですね。……それで、どのような条件があるのでしょうか」


「話が早くて助かるわ!」


 あたしはパッと扇子を広げて胸を張った。


「条件はこちらです!」


 あたしの合図とともに、両脇に控えていた取り巻きたちが、威風堂々と一枚の大きな紙を広げて掲げた。

 バリー様は書かれた文字を読み上げた。


「……貴族三本勝負?」


「ええ! ルールは単純よ。『地理』『歴史』『ダンス』『模擬戦』『乗馬』の五つの項目から、バリー様が好きなものを三つ選択してちょうだい! その三本勝負で、二つ先取して勝利した方が勝者よ! 判定はそれぞれの専門の教師に依頼するわ!」


「ほう……」


 バリー様の口元が、ニヤリと肉食獣のように歪んだ。


「私は一学年上ですよ? 座学でも不利でしょう。それに、こちらが三つとも種目を選んで良いとは……デリール嬢、あなたは勝つ気がないのでしょうか? それとも、ただの暇つぶしですか?」


「ふふん、舐めないでちょうだい!」


 あたしは腰に手を当て、自信満々に胸を張って一歩前へ出た。


「侯爵家の長女としての教養を甘く見てもらっては困るわ! どの種目をとっても、あたしが負ける要素なんてないもの! ……あ、ただし!」


 あたしは一つだけ条件を付けた。


「『模擬戦』が選ばれた場合に限り、あたしのような可憐な淑女が直接剣を振るうわけにはいかないでしょ? だから、この学園の生徒から代理人を立てさせてもらうわ!」


 代理人――そう、もちろんミハイルのことだ。あたしが頼めば間違いなく頑張ってくれる。問題ない。


 あたしの提案を聞いたバリー様は、鼻で「フッ」と笑った。

 彼にしてみれば、願ってもない条件のはずだ。自分が一番得意な分野を選び放題で、勝てば念願の騎士団への推薦状が手に入るのだから。


「いいでしょう。その勝負、受けさせていただきます」


 バリー様は不敵な笑みを浮かべ、即座に三つの種目を指差し、宣言した。


「では――『ダンス』『模擬戦』『乗馬』でお願いします」


(……勝った!!)


 きっと、今のバリー様の頭の中はこうだわ。

『模擬戦』は当然自分が圧倒的勝利。『乗馬』も騎士の嗜みとして負けるはずがない。そして『ダンス』は負けてもよいが、元々得意な方だ。勝機はある……と。


 だが、甘いわ! 蜂蜜よりも甘すぎるわバリー様!

『ダンス』は、あたしが幼い頃から完璧に叩き込まれた得意分野! 『模擬戦』の代理人には、あたしの頼みを無理してでも叶えてくれるミハイルがいる! そして、『乗馬』はいつでもスムーズに視察ができるように身に着けたあたしの切り札よ! 騎乗するのも当然名馬!

 勝負なんてものはね、勝てると思ったから吹っ掛ける物なの。 ギャンブルなんてごめんだわ。


 あたしは扇子の陰で、「ほーほっほっほ!」と悪役令嬢のような高笑いを噛み殺した。


「交渉成立ね! 決戦は来週よ、覚悟なさるといいわ!」


 こうして、あたしの命とプライド、そして新たな恋の行方を賭けた『貴族三本勝負』の火蓋が、切って落とされた。

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