☆15話:ドキミンとは何ぞや?
軟禁生活が始まってから、丸五日が経過した。
相変わらず情報収集を行っていたが、何の成果も得られなかった。
それどころか、あたしは食事の度にドキミンが溢れるほど溜まり、肝心の食事が中々喉を通らなかった。
(毎度毎度、あたしを楽しませるために誘惑してくるなんて……胸焼けしちゃうわ)
給仕をする『美男』たちの甘い言葉や、過剰なおもてなしにさらされるたび、あたしの身体は勝手に反応してしまう。
もうお腹いっぱいより先に胸がいっぱいなのだ。
外につながる窓は固く閉ざされ、外の状況を知る手がかりは何一つ得られていない。
パパ、そしてミハイルたちが必死に捜索してくれているはずだと信じたいが、ここがどこなのかすら分からない以上、ただ待つことしかできないのがもどかしかった。
(このままでは本当にただ捕まっただけになってしまうわ……!)
歯噛みしながら、現状への焦りをじりじりと募らせる。
そして、とうとうこの日に、相変わらずの下卑た笑みを浮かべた隣国の貴族が私兵を連れて屋敷にやってきた。
「生活にはご満足いただけましたかな?」
相変わらず何の目的か分からない。
結局はこいつから直接情報収集をするしかない。
あたしはグッと奥歯を噛み締めると、弱みを見せないように背筋をピンと伸ばし、微笑みを貼り付けて立ち上がった。
「ええ、とっても快適ですわ。でも不思議だわ……この国には贅沢をさせるためだけに隣国の貴族を呼ぶ余裕なんて無い筈よ。そろそろ私に求めている役割を教えてくださってもよいのではなくて?」
隣国の貴族、家名を『メシャン』と名乗った男から、直接目的を聞き出すつもりだ。
そのためには弱みを見せず、対等の貴族として堂々と振る舞う必要がある。
あたしの問いに対して、顎に手を当てて少し考え込んだメシャンは、『まあいいでしょう』と呟いた。
「直にすべてを知ることになるのです。では、私に付いてきなさい」
メシャンはそう告げると歩き出し、部屋から出て行く。
私兵たちに囲まれ、あたしはその後に従うほかない。
厳重な鍵がかかっている地下室の入り口でメシャンは止まった。
私兵に鍵を開けさせ、湿ったような匂いがする地下室へ繋がる階段を降りていった。
あたしも意を決してついていく。
(ちょっと、一人で踏み込み過ぎたかも……。ううん、ダメ! 弱気になってはダメよ!)
そのまま階段を降りきると、頑丈な鉄でできた扉がある。
扉を私兵に開けさせて更に奥まで進んだ。
足を踏み入れたそこは、元は牢屋であったのであろう。
無機質な石壁で囲まれたこじんまりとした空間であった。
「さて、ここなら会話をしても良いでしょう。丁度、測定する頃合いでしたから、こちらも都合が良い」
そう言って懐から『計測機』と呼ばれていた物を取り出した。
メシャンはその機械をあたしに向け、数値を確認するように目を細めた。
「ふむ。想定よりも十分溜まっていますね。この安定した状態ならもう眠らせて運んでも、魔力を生み出し続ける器になれそうだ」
またも、気持ち悪い目でウットリとあたしを見つめてきた。
「『魔力を生み出す』とは何のことかしら? 私は貴族ですが、残念ながら魔法は使えなくってよ」
あたしの質問に対して、余程おかしいのか、メシャンは大きな声で笑いだした。
「遅れた国ですね……いや、我が国が遥かに進んでいるのか。あなたにもきっと持病があるのだろう? そう、ドキドキしなければ調子を崩すという奇病が」
(あたしの特殊な恋愛体質のこと? ドキミンを分泌して身体に巡らせなければ死ぬという病気……)
動揺を隠しながら、あたしは凛とした声で問いかけた。
「ドキミンが必要な体質のことを言っているの?」
メシャンはあたしが『ドキミン』と言っただけで、またもや笑いが止まらなくなったようだ。
「そうですよデリール嬢。あなたは『ドキミン』……いや正式名称は『魔力』を過剰に分泌し、それを対外に放出できる貴重な体質です。『魔力欠乏症』の発作はさぞお辛かったでしょう」
メシャンはニヤツキながら言う。
「あなたは役割を知りたがっていましたね? これからあなたは特殊な装置で昏睡させて、血液から魔力を抽出される生体資源となって頂きます」
とうとう笑いを止めたメシャンは言い切った。
「そして、その魔力を使うことで古の魔法を使い、あなたの豊かな国をいただく計画だ!」
あたしは『ドキミン』の正体が、まさか国家を揺るがすほどの『魔力』ということに驚いた。
そして、自分がその戦争の道具として、自国に戦争を仕掛けるための生体資源にされようとしているという残酷な事実に絶望した。
ここまで話をしたからには、あたしはもう助からないのだろう。
(パパ……間に合わなかったね。あたしは貴族の務めとして敵国に利用される前に死を選びます)
震える手で懐に隠し持っていた小さな短剣に手を伸ばそうとした、その時だった。
「おい、猿ぐつわをして手足を縛れ! だが、絶対に血の一滴も流させるなよ? 貴重な資源だからな」
直ぐに慣れた手つきで私兵があたしを拘束した。
背後から腕を掴まれ、分厚い縄でガチガチに縛り上げられていく。口元には分厚い布の猿ぐつわが無理やり押し込まれた。
(そんな、自害もさせてくれないなんて……!)
今まで気を張っていたが、とうとうあたしの瞳から涙が零れ落ちた。




