第04話 指名依頼
「この冒険者を、指名します」
―― 指名依頼書
「お父さんを……助けたいだけなんです」
―― 依頼人の涙
翌日。
ギルドの面談室で、四人は依頼人を待っていた。
そして、約束の時間。
扉が開いた。
「フォーチュン・カイトの皆さんですか?」
それは小さな声だった。
受付嬢に案内されてきたのは、同年代の少女だった。
栗色の髪に大きな瞳。
華奢な体に旅装を纏い、両手で鞄の紐を握りしめている。
目が赤い。
泣いた跡があった。
「そうだけど。あんたが依頼人?」
「はい。メルと申します」
メルは深々と頭を下げた。
そして受付嬢に向き直った。
「改めまして——この冒険者を、指名します。お願いします」
「承りました。では、ごゆっくりお話しください」
受付嬢は一礼して、面談室を出ていった。
扉が静かに閉まった。
「俺がカイト。こっちがリーナ、セイ、アリア。よろしくな!」
「は、はい。よろしくお願いします」
---
メルが話し始めた。
「父が……呪いにかかってしまったんです」
「呪い?」
「はい。ある日突然、とある場所に転移させられてしまって……今もその場所から移動することができないみたいで。それが呪いによるものらしくて」
メルの声が震えていた。
「呪いを解く方法は?」
「父の書庫で古い文献を見つけたんです。とあるダンジョンの奥に、呪いを解く力を持つ伝説のアイテムがあると書かれていて……」
「文献に? 信憑性はあるの?」
リーナが聞いた。
「分かりません。でも、他に手がかりがなくて……」
メルの声が小さくなった。
藁にもすがるような表情だった。
「なるほど。文献だけが頼りか」
セイが腕を組んだ。
「それで、そのダンジョンの場所は?」
「王都から南に二日ほどの場所にある洞窟です。あまり探索されていない場所だと文献にはありました」
「南に二日……聞いたことないな。リーナ、知ってるか?」
「知らない。カイトは?」
「知らない!」
「知らないのに元気ね……アリアは?」
「私も把握していません。ギルドの記録にもそれらしい情報はなかったはずです」
アリアがノートを開いた。
「ただ、情報がないということは未踏に近いということです。データが取れますね」
「一つ確認していい?」
リーナが身を乗り出した。
「なんで『フォーチュン・カイト』を指名したの? あたしたち、まだ駆け出しよ?」
メルが少し俯いた。
「……噂を聞きました。初日に崖崩れでレアモンスターを倒した新人がいると。転んだだけでモンスターを倒したり、盗賊がなぜか自滅したり……とにかく、運だけで何でも切り抜けるパーティーがいると」
「それで指名を?」
「はい。それに……高ランクの冒険者に依頼するほどのお金は、用意できなくて。でも皆さんのランクなら依頼金も……」
「安いってことか」
「す、すみません……!」
「いや、事実だから怒ってないけど」
セイが苦笑した。
「それと……文献には、このダンジョンについての警告もありました。上層には多数の罠があり、中層には強いモンスターが棲んでいると」
面談室の空気が少し重くなった。
「普通の冒険者では難しいと思います。でも、あなたたちの運なら」
メルの瞳に涙が浮かんだ。
「お父さんを……助けたいだけなんです」
沈黙が落ちた。
カイトが立ち上がった。
「任せろ!」
「え?」
「お前の父ちゃんを助けるんだろ? 伝説のアイテムでも何でも、見つけてやるよ!」
「ちょっと、カイト。もう少し詳しく——」
「いいじゃん! 困ってる人がいるんだから!」
リーナが額を押さえた。
「……あんたはいつもそう。話を最後まで聞かないで決める」
「だって、こいつ泣いてるし」
「泣いてるから引き受けるの!?」
「ダメか?」
「ダメじゃないけど……もうちょっと考えてから答えなさいよ!」
セイが口を開いた。
「まあ、俺たちのランクにしちゃ報酬も悪くない。ダンジョン探索の経験も積める。受ける理由はある」
「同意します。未踏ダンジョンのデータは貴重です」
アリアが頷いた。
リーナがメルを見た。
「あー、もう分かったわよ。好きにしなさい」
「ありがとうございます!」
メルが深々と頭を下げた。
「あと、一つお願いがあるのですが……」
「何?」
「伝説のアイテムは、私にしか判別できないと思います。だから……一緒にダンジョンに入らせてもらえませんか?」
「戦えるのか?」
セイが聞いた。
「いえ……戦闘は、できません。足手まといになるかもしれません。でも、私がいないと、何が伝説のアイテムなのか——」
「いいぜ。一緒に来い」
カイトが即答した。
「カイト! また考えないで——」
「大丈夫だろ。守ればいいんだから」
「守ればいいって、あんたが言うと一番不安なのよ……」
「戦闘時は俺かリーナの後ろに。移動時はパーティーの中央だ。はぐれるな」
セイが具体的な指示を出した。
こういう時に頼りになるのがセイだ。
「は、はい! ありがとうございます!」
メルが何度も頭を下げた。
「あの……一つ聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「カイトさんの運って、本当にすごいんですか? 噂だけだと信じられなくて……」
「すごいっていうか……」
リーナが遠い目をした。
「見たら分かるわよ。嫌でも」
「この前なんか、蔓を引っ張っただけで隣の木が倒れてモンスターの頭に直撃したからな」
「えっ……」
「その前は、弓矢を明後日の方向に放ったら隠密型のモンスターに当たった」
「え……?」
「初日は崖を崩壊させてレアモンスターを討伐してます。偶然の生存率100%」
メルの顔色がみるみる変わった。
驚きではなかった。
何か、別の感情が一瞬よぎった。
「す、すごいですね……頼もしいです」
メルは笑った。
笑ったが——その目は、笑っていなかった。
リーナだけが、それに気づいた。
---
依頼が正式に成立した。
「じゃあ早速明日——」
「待て。準備がいる」
セイがカイトを止めた。
「未踏に近いダンジョンだぞ。装備の確認、食料の調達、情報収集。最低でも一日は準備が必要だ」
「えー、明日行こうぜ!」
「行かない。明後日だ」
「セイの言う通りよ。あんたはすぐ飛び出すんだから」
「アリアはどう思う?」
「準備なしで未踏のダンジョンに入るのは、データ収集以前の問題です。明後日に一票」
「三対一か……」
「多数決の結果よ。諦めなさい」
メルを加えた五人で、明後日の出発に決まった。
「出発までに、ダンジョンの情報を調べておこう。ギルドの書庫にあるかもしれない」
セイの提案で、面談室を出た後に書庫を確認することにした。
面談室の外で受付嬢が待っていた。
「メルさん、出発まではどうされます?」
「近くの宿を取ってあります。当日の朝、ギルドの前で合流でいいですか?」
「ええ、それで大丈夫ですよ」
「あ、メル。明日の夜、一緒に飯食わないか?」
カイトが呼び止めた。
「え?」
「出発前に、みんなでもうちょっと話しとこうぜ。一緒にダンジョン入るんだからさ」
「あ……はい! ぜひ!」
メルの顔がぱっと明るくなった。
「じゃあ明日の夕方、このギルドの酒場で」
「分かりました。楽しみにしてます!」
メルが頭を下げて、ギルドを出ていった。
その背中を、リーナがじっと見つめていた。
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ギルドを出たメルは、足早に宿へ戻った。
部屋の扉を閉め、鍵をかけた。
一人きりになった。
鞄の中から、小さな革袋を取り出した。
中身をそっと確認する。
指先が微かに震えていた。
「……ごめんなさい」
誰にも聞こえない声で、呟いた。
涙は、もう止まっていた。
代わりに、目の奥に冷たい光が宿っていた。
本話から本格的に本編の開始です。
ちなみに初日のみ4話連続掲載中で、すでに1〜3話は投稿済みです。
明日からは5月末まで毎日19時投稿の予定となっています。
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