第03話 あのラッキーな奴
「え? 俺、何かした?」
―― ラッキーボーイ
「あのラッキーな奴、また生きて帰ってきたぞ」
―― 冒険者ギルドの噂
四人パーティーの最初の依頼は、討伐だった。
森に出没する大トカゲの退治。
銅ランク向けの、まともな依頼……のはずだ。
「まずは連携の確認だ。俺が前衛で引きつける。アリアは後方から魔法で援護。リーナは俺のフォロー。カイトは——」
「突っ込む!」
「突っ込むな。後方で待機しろ」
「えー」
「えーじゃない。お前が動くと何が起きるかわからないのはゴブリンの時に証明された」
セイの目が据わっていた。
あの一件がよほど堪えたらしい。
森に入った。
セイが先行して痕跡を追う。
地面に残された爪痕を辿り、そして、大トカゲの足跡を見つけた。
足跡を慎重に辿り、距離を詰める。
「いたぞ。一体。あの岩場の上で日向ぼっこしてる。俺が正面から引きつけるから、アリアは詠唱を——」
「なあ、この蔓なんだろ」
「聞けよ!?」
カイトはセイの作戦を完全に無視していた。
足元に垂れ下がっていた蔓が気になったらしい。
「引っ張ったらどうなるかな」
「おい、やめ——」
カイトが蔓を引っ張った。
蔓は隣の大木に絡まっていた。
根元が腐っていたらしい。
大木がゆっくりと傾いた。
そして——大トカゲが日向ぼっこしている岩場の方へ倒れた。
轟音。
大トカゲの頭に、見事にクリーンヒットした。
白目を剥いて気絶した。
「…………」
「…………」
「戦闘データが取れました。有意義です」
アリアだけが冷静だった。
「え? 俺、何かした?」
カイトが振り返った。
セイは無言で剣を鞘に戻した。
「……作戦会議の時間を返してくれ」
---
それから数件の依頼をこなした。
採取依頼では、カイトが地図を逆さに読んで森ではなく湖に着いたと思ったら、目当ての薬草が湖の周りに群生していた。
討伐依頼では、カイトが「弓矢を試してみたい」と放った矢が明後日の方向に飛んでいったと思ったら、隠密型のモンスターにクリティカルヒットした。
運搬依頼では、カイトが荷物を落として中身をぶちまけてしまって、依頼失敗だと思いギルドに報告したら、中に禁制品が混じっていて依頼人が逮捕された。
共通するのは二つ。
カイトが毎回何かをやらかすこと。
結果だけは毎回うまくいくこと。
「怒ればいいのか褒めればいいのか分からないのが、常識的に一番つらい」
セイは悟りを開きつつあった。
「四人パーティーになってから、偶然の発生頻度が上がっています。興味深いデータです」
アリアがノートをめくった。
「あたしの胃がもたない」
「同感だ」
---
連携が——連携と呼べるかどうかは甚だ怪しいが——ある程度形になった頃、護衛依頼を受けた。
商人の荷馬車を隣町まで護衛する。
報酬はそこそこ。
四人で受けるにはちょうどいい依頼だった。
「今度こそ作戦通りにやるぞ。俺が前、リーナが後方、アリアが荷馬車の横。カイトは荷馬車の上で動くな」
「えっ、何もしないのか?」
「お前が動くと何が起きるかわからない。じっとしてるのが最善だ」
「常識的に正しい判断ですね」
「ひどくない?」
「ひどくないわよ。自覚して」
街道を半日ほど進んだが、ここまでは何事もなかった。
そして、森の区間に入った。
そこは木々が街道の両側から覆いかぶさるように茂っていた。
「ここだ。警戒しろ」
セイが剣の柄に手をかけた。
カイトは荷馬車の上で欠伸をした。
---
案の定、出た。
「止まれ! 金目のものを置いていけ!」
木の上から盗賊が飛び降りてきた。
その数、五人。
全員が武装している。
「護衛がいるのか。ガキばかりじゃねえか」
盗賊のリーダーが笑った。
リーナが叫んだ。
「セイ!」
「分かってる」
セイが剣を抜いた。
前方の盗賊二人に踏み込む。
一人目の棍棒を横に弾き、返す刃で腕を打つ。
二人目が突っ込んできたが、セイは半歩横にずれて懐に入り、柄で腹を突いた。
二人が地面に転がった。
「アリア!」
「はい」
アリアが杖を振った。
後方から回り込もうとしていた盗賊の足元に氷の壁が突き出す。
盗賊が躓いて転倒した。
二発目の氷が手足を固定した。
「リーナ!」
「任せなさい!」
リーナが横から飛び出してきた盗賊に正面から突進した。
盗賊が剣を振り上げる。
リーナは構わず懐に飛び込んだ。
拳が顔面に入った。
盗賊が吹き飛んだ。
残りはリーダー一人。
四人の仲間が倒された。
斧を構えて後退している。
「て、てめえら——」
その瞬間、リーダーの足元が陥没した。
「うおっ!?」
モグラの巣だった。
盗賊のリーダーは腰まで地面に埋まった。
斧を振ろうにも、腕が地面に挟まっている。
「…………」
セイが剣を鞘に戻した。
「あれ? 終わった?」
カイトが荷馬車の上から顔を出した。
欠伸をしていた。
「お前は何もしてない」
「だってセイが動くなって」
「……そうだったな」
---
ギルドに戻った。
受付嬢が依頼の完了処理をしながら、いつもの笑顔で聞いてきた。
「カイトさんのパーティー、また依頼達成ですね。……今回は何が起きたんですか?」
「盗賊のリーダーがモグラの巣に落ちました」
「…………」
受付嬢はもう驚かなくなっていた。
「あと、そろそろパーティー名を決めてはいかがでしょうか? いつまでも『カイトさんのパーティー』では、依頼書の記載にも困りますので」
「パーティー名?」
カイトが目を輝かせた。
「考える! 俺が考える!」
「嫌な予感しかしないわ」
「よし! じゃあ……『最強パーティー』!」
「却下」
「『無敵の冒険者たち』!」
「却下」
「『ラッキースター』!」
「自分で言うな! 却下!」
「『カイトと愉快な仲間たち』」
「誰が愉快よ! 却下!!」
「えー、じゃあ何がいいんだよ」
「あたしに聞かないで! あんたが考えなさいよ!」
「『俺たち最高!』」
「名前ですらないわ! 却下!」
セイが口を開いた。
「普通でいいだろ。『カイトパーティー』とか」
「普通すぎるわよ」
アリアが手を挙げた。
「提案があります。『観測対象と愉快な——』」
「却下!!」
全員が叫んだ。
しばらく揉めた。
受付嬢が困った顔で待っている。
リーナがテーブルを叩いた。
「もう面倒くさい。あたしが決める。『フォーチュン・カイト』。あんたの名前とラッキーを合わせただけ。文句ある?」
「おお、いいじゃん!」
「……悪くはないな」
「語呂は良いですね。記録しやすい」
受付嬢が微笑んだ。
「では、パーティー名『フォーチュン・カイト』で登録しますね」
---
酒場では、今日の護衛依頼の話がもう広まっていた。
「あのラッキーな奴、また生きて帰ってきたぞ」
「パーティーのメンバーも大変だな。胃薬が手放せないだろ」
カイトは気にしていなかった。
リーナは胃を押さえていた。
セイは二杯目の水を飲んでいた。
アリアはノートに書き込んでいた。
いつもの光景だった。
「あのラッキーな奴」——カイトの通称は、もう王都のギルドで知らない者はいなかった。
それから数日で、通称は変わった。
「あのラッキーな奴」から「フォーチュン・カイト」へ。
依頼を重ねるたびに噂は広がり、ギルドの外——商人や旅人の間にまで名前が届き始めていた。
セイは「なんで俺まで『あのパーティーの常識人枠』って呼ばれてるんだ……」と嘆いた。
リーナは「あたしなんか『ラッキーの嫁』よ。嫁じゃないっての……」と頭を抱えた。
——否定しながらも、その通称をわざわざ訂正して回らないあたり、満更でもないのかもしれない。
本人は絶対に認めないが。
---
そんなこんなで、「フォーチュン・カイト」の名をギルド界隈で知らない者はいなくなった頃。
「カイトさん」
受付嬢がカイトを呼び止めた。
手に封書を持っている。
「指名依頼が届いています」
「指名依頼?」
「はい。『フォーチュン・カイト』を指名した依頼書です」
カイトが封書を受け取った。
リーナ、セイ、アリアが覗き込む。
「何だろう?」
「開けてみなさいよ」
封を切った。
中の依頼書を読む。
「……父の呪いを解くための、伝説のアイテムの回収?」
「伝説のアイテム? 怪しすぎない?」
「依頼人が明日、直接説明に来るそうです」
受付嬢がそう言った。
しかし、カイトの目が輝いていた。
「伝説のアイテム! 面白そうだな!」
「あんたの『面白そう』は大体やばいのよ……」
「依頼の詳細を確認してからだ」
「依頼人のデータを取りたいですね」
四人はそれぞれの反応を見せた。
だが全員が、同じことを感じていた。
パーティー「フォーチュン・カイト」の物語が、ここから本当に始まる。
ここまでがプロローグになります。
次の話から本格的に本編に入っていきます。
ちなみに初日のみ4話連続掲載中で、4話目は21時に公開予定となっています。
気になる方は、本編のはじまりとなる第4話まで、お付き合い、よろしくお願いします。




