第02話 パーティー結成
「あんたはもうちょっと反省しなさい!!」
―― 幼馴染のゲンコツ
カイトとリーナの二人パーティーは、一週間で限界を迎えた。
「だーかーらー! そっちは崖だって言ったでしょ!?」
「でも近道だろ?」
「近道じゃない! 崖よ! 崖!」
「崖の下に何かあるかもしれないじゃん」
「ないわよ!!」
依頼は何とかこなしていた。
問題は、カイトを止められないことだった。
リーナが叫んでも、怒鳴っても、殴っても、カイトは気にせず突き進む。
そしてなぜか結果だけはうまくいく。
採取依頼では別の森に迷い込んだが、そこで依頼品の三倍の薬草を見つけた。
配達依頼では道を間違えたが、間違えた先が目的地への近道だった。
討伐依頼では対象と違うモンスターを追いかけたが、そのモンスターが対象の巣に案内してくれた。
「もう限界! あたし一人じゃ絶対無理」
リーナは頭を抱えていた。
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ギルドの掲示板の前で依頼を選んでいると、声をかけられた。
「失礼。少しいいか?」
声をかけてきたのは、同年代の少年だった。
短い黒髪に、使い込まれた大剣を背に負っている。
目つきは鋭いが、声は落ち着いていた。
「いいけど。誰?」
「セイ。剣士をやってる。お前がカイトだな?」
「そうだけど。何か用?」
「お前の噂、聞いてる。初日に崖崩れで大蜘蛛を討伐した新人」
「偶然だよ。崖が勝手に崩れて——」
「普通はそれを偶然とは言わない。何かあるはずだ」
セイは向かいの椅子を引いて座った。
その動作には無駄がなかった。
「確かめさせてくれ。一回だけ一緒に依頼をやりたい」
「いいけど、何を確かめるんだ?」
「お前のラッキーが、実力なのか偶然なのか。冒険者として気になる」
リーナが顔を上げた。
「あんた、まともな人?」
「……まともかどうかは知らないが、常識はあるつもりだ」
「常識! 常識のある人! 人手が欲しかったのよ! こいつ一人だとあたしの胃が保たないの!」
「……常識があるだけでそこまで喜ばれるのか。どんなパーティーだ」
「聞きたい?」
「聞きたくなくなってきた」
「昨日なんて崖から落ちかけたのよ。そしたら崖の途中に生えてた木に引っかかって、その木にレアな果実がなってて——」
「待て。崖から落ちかけて、結果的に得をしてるのか?」
「そう! そういうことが毎日起きるのよ!」
「……それは確かに常識では説明がつかないな」
カイトは首を傾げていた。
「俺のこと話してる?」
「あんたのこと以外に何を話すのよ!」
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セイを加えた三人で、討伐依頼に向かった。
依頼内容は、森の中のゴブリン退治。
初心者向けの、何の問題もないはず……の依頼だった。
森に入る前に、セイが足を止めた。
「ゴブリンは群れで行動する。数は五、六体だろう。見つけたら俺が正面から引きつける。カイトは右から回り込め。リーナは左から——」
「わかった!」
「……最後まで聞け」
森に入った。
セイが先頭で慎重に進む。
そして……カイトが茂みの向こうに動く影を見つけた。
「あ、いた!」
カイトが駆け出した。
「おい!? まだ距離が——」
「カイト!!」
が、一歩目で木の根に足を引っかけた。
それはもう盛大にすっ転んだ。
その拍子に、手から剣が抜けた。
剣は弧を描いて飛び、そして……ゴブリンの群れの中に落ちた。
——リーダーの頭部に、見事にブッ刺さった。
静寂。
セイが固まった。
リーナが固まった。
ゴブリンたちが固まった。
リーダーが倒れた。
数秒後……残りのゴブリンがパニックを起こした。
「今だ!」
セイが最初に動いた。
剣を抜き、混乱するゴブリンに斬り込む。
リーナも我に返って突進した。
ガッツだけの前衛が、ゴブリンを殴り飛ばしていく。
「いちちち……」
カイトが地面から起き上がった。
膝を擦りむいていた。
「あれ? ゴブリンは?」
「全部倒した」
「え?」
「お前の剣がリーダーに刺さって、俺たちが残りを片付けた」
「……俺、転んだだけだけど」
「転んだだけでゴブリンのリーダーを仕留めるか?」
「仕留めた?」
「……仕留めた、な」
リーナがカイトの後頭部をはたいた。
「あんたはもうちょっと反省しなさい!!」
「いてっ!? 何で!?」
「転んで剣を飛ばすな! 当たらなかったらどうしてたのよ!」
「でも当たったじゃん」
「結果論で話すな!!」
セイは空を仰いだ。
「確かめたいって言ったの、撤回していいか」
「え?」
「こいつはただのラッキーだ。理由なんかない。純粋な、理不尽な、ラッキーだ」
リーナが腕を組んだ。
「でしょ? わかった?」
「わかった。わかりたくなかったが、わかった」
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依頼を終えてギルドに戻った。
酒場で、セイが難しい顔をしていた。
「で、あんたはどうするの? 確かめたかったんでしょ? 確かめたら去るの?」
リーナが聞いた。
「……いや。逆だ」
「逆?」
「こいつの近くにいたら、退屈しなさそうだ」
「退屈しないどころか胃が痛くなるわよ」
「それでもいい。剣士としちゃ、毎日変わり映えのしない日常ってのが一番つまらないからな」
セイが手を差し出した。
「パーティーに入れてくれ。ツッコミ担当で」
「ツッコミ担当って何よ」
「お前一人じゃツッコミが追いつかないだろ」
「……否定できない」
カイトがセイの手を握った。
「よろしく、セイ!」
「ああ。よろしく。……常識が壊れないといいけど」
リーナがセイの肩を叩いた。
「ようこそ、この地獄へ」
「地獄って」
「三日で分かるわよ」
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三人パーティーになって一週間。
ギルドの酒場で、一人の少女が近づいてきた。
銀色の髪に、眼鏡。
ローブを纏い、手に分厚いノートを抱えている。
表情は涼しげだが、目だけが異様に真剣だった。
「あなたがカイト?」
「そうだけど。誰?」
「アリア。魔法使い」
「何か用?」
アリアはノートを開いた。
びっしりと数字が書き込まれている。
「あなたの活動記録を分析しました」
アリアがノートのページをめくった。
「冒険者登録から十日間。依頼達成率100%。負傷率0%。遭遇した危機的状況——十二回。全て偶然によって回避。偶然による解決率——94%」
「……なんで俺の記録を?」
「ギルドの酒場であなたの噂を聞いたのが最初です。初日に大蜘蛛を討伐した新人がいると。気になって公開記録を調べました」
アリアの目が光った。
「そして驚きました。統計的にありえない。あなたの存在は、世界の法則から外れています」
セイが呟いた。
「法則から外れてるって言われてるぞ」
「外れてるのか? 俺」
「数字の上では、そうなります」
アリアが眼鏡を押し上げた。
「お願いがあります。あなたのパーティーに加えてください。近くで観測し、この異常値の原因を解明したい」
「観測って、俺を?」
「はい。あなたは研究対象として極めて興味深い」
リーナが割って入った。
「ちょっと待って。こいつを研究対象って……」
「不快でしたか?」
「不快っていうか……まあ、間違ってないんだけど」
「ですよね」
「否定できないのが悔しいわ……」
カイトはアリアを見た。
「魔法使いか。攻撃とかできるのか?」
「攻撃魔法と支援魔法、一通り使えます」
「すげえ! パーティーに魔法使い、いなかったんだ! よろしくな!」
「……あっさり」
セイが苦笑した。
「こいつはこういう奴だ。慣れろ」
「慣れるのに何日かかりましたか?」
「三日で諦めた」
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四人パーティーが結成された。
「じゃあ、役割分担を決めよう」
セイが仕切った。
「俺が前衛。リーナも前衛。アリアは後衛で支援と攻撃。カイトは……」
「何でも屋?」
「災害だろ」
「災害!?」
「冗談だ。……半分は」
リーナが手を挙げた。
「あたしはこいつのストッパー兼前衛ね」
「ストッパーって、止められたことあるの?」
アリアが聞いた。
「……ないわ」
「では、ストッパーではなくダメージコントロール担当ですね」
「言い方!」
カイトが笑った。
「みんなよろしくな! 楽しくなりそうだ!」
「楽しい、ね……」
リーナが遠い目をした。
セイがため息をついた。
アリアが四人を見回した。
「一つ確認ですが、このパーティーの方針は?」
「依頼をこなして、冒険者として成長する!」
「こいつを止める!」
「常識を守る」
三者三様だった。
アリアはノートに書き込んだ。
「パーティーの統一見解なし。カオス。記録価値、極めて高い」
「褒めてないわよね、それ」
「褒めていません」
酒場のあちこちから、視線を感じた。
冒険者たちがチラチラとこちらを見ながら、小声で何か話している。
「……あのラッキーな……パーティー……四人……」
「……物好きも……」
聞こえてきた断片に、リーナの眉がぴくりと動いた。
「……なんであたしたち、もう噂になってるのよ」
「お前の彼氏が目立ちすぎるんだ」
「彼氏じゃない!!」
アリアがノートに書き込んでいた。
「パーティー結成。構成員四名。観測体制、整いました」
「観測体制って言うな!」
初日のみ4話連続掲載中で、3話目は18時に公開予定となっています。
気になる方は、まずは4話目までお付き合い、よろしくお願いします。




