表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無自覚主人公がやらかしました ― ダンジョンで殺されるはずだったのに、なぜか攻略してしまう  作者: 智信
第三部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/36

第27話 探索の鍵

『こちらの方角です』


「方角だけね。いつも通り」


 リーナがため息をついた。


『はい。いつも通りです』


「見つけにくい場所ってことは、簡単には見つからないってことよね……」


「そのまんまだな」


 セイが呟いた。


「ナビゲーター、何かヒントは?」


 アリアが聞いた。


『禁則事項です。ただ、方角はお伝えできます。今のところ、この方向で合っています』


「方角だけで見つけにくい場所を探せっていうのが無理あるのよ……」


「方向さえ合っていればそのうち見つかるだろ!」


 カイトがいつも通り先頭を歩いている。


---


 下層の通路は入り組んでいた。

 分岐が多く、似たような石造りの壁が続いている。


 分岐点でカイトが一瞬立ち止まった。


「こっちだな」


 迷いなく左の通路に入った。

 壁沿いに歩きながら、何気なく壁に手を触れた。


 カコン。


 壁の一部が動いた。


「……また?」


 セイが呆れた顔をした。

 壁の奥に、小さな隠し部屋が現れた。


「隠し部屋だ!」


 カイトが中に入った。

 部屋の中には古い木箱が一つ。

 開けてみると——古びた道具が入っていた。


「鍵は?」


「ない。道具だけだ」


「……次、行きましょう」


 アリアが記録しながら先に進んだ。


 次の分岐。

 カイトが右の壁にもたれかかった。


 ガコン。


 壁がずれた。

 また隠し部屋だった。


「お前、隠し部屋センサーか何かか?」


 セイが天を仰いだ。


 中には宝箱があった。

 開けると——古い金貨が数枚。


「金貨は嬉しいけど、鍵じゃないわね」


「記録します。カイトによる隠し部屋発見、二件目。中身は金貨。鍵は含まれていません」


「アリア、なんで嬉しそうなの?」


「隠し部屋の発見頻度のデータが取れるからです」


「それ今いるデータ?」


「すべてのデータはいつか役に立ちます」


 さらに進んだ。


 カイトが通路の角を曲がった。

 足がもつれた。

 壁に手をついた。


 ガコン。


「……三つ目」


 セイがもう驚かなくなっていた。


 隠し部屋の中には、古い装飾品がいくつか。

 鍵はない。


「カイトさん、隠し部屋ばかり見つけますね……」


 メルが感心しているのか呆れているのか分からない顔をしていた。


「見つけたいのは隠し部屋じゃなくて鍵なんだけどな」


「ラッキーの方向性が違うのよ……」


 リーナが額を押さえた。


「いつもは欲しいものが見つかるのに、今日は隠し部屋しか出てこない。カイトのラッキーにも得手不得手があるのかしら」


「得手不得手って……ラッキーに得意分野があるのか」


 セイが呆れた。


「データ的には、カイトのラッキーは本人が意識していない時の方が精度が高い傾向があります」


「意識してないって……じゃあ今は意識してるのか?」


「鍵を探そうとしてるからな。意識してるだろ」


 カイトが腕を組んだ。


「お、じゃあ探すのやめたらいいんじゃないか?」


「探すのをやめたら探索にならないでしょ!」


 リーナがツッコんだ。


---


 四つ目の隠し部屋を見つけた時、さすがにカイトも首を傾げた。


「なんで隠し部屋ばっかり見つかるんだ? 鍵は全然ないのに」


『当然です。探索の鍵は隠し部屋にはありません』


「……最初に言ってよ」


『聞かれなかったので』


「そのパターン本当にやめて!」


 リーナが叫んだ。


「じゃあ、鍵はどこにあるんだ?」


『禁則事項です。ただ——一つだけ言えることがあります』


 ナビゲーターが間を置いた。


『見つけにくい場所、というのは——物理的な場所とは限りません』


「物理的な場所じゃない?」


 セイが眉をひそめた。


「どういうことだ? 隠し部屋でもなく、通路でもなく——」


「……概念的な隠し場所」


 アリアが呟いた。

 目の色が変わっていた。


「物理的な空間に隠されているのではなく、別の方法で封じられている。たとえば——魔法で何かの中に封じ込めるとか」


「魔法で? 物の中に鍵を入れるってことか?」


「鍵そのものを別の形に変えて隠す方法もあります。古代の封印魔法にはそういう技術があった」


 アリアが周囲を見回した。

 通路の壁面に目を走らせる。

 床。天井。通路全体を観察している。


「何か魔力の痕跡が——」


「あのぉ……壁に何か描かれています」


 メルが恐る恐る指を差した。

 そこには通路の壁の一面に、古い壁画があった。

 隠し部屋ばかり見ていて、壁画には誰も気づいていなかった。


「全員、壁を押すことしか考えてなかったわね……」


「カイトさんのせいですよ……」


 カイトが肩を落とした。


「俺のせい!?」


 メルが満面の笑みで頷いた。


「はい!!」


---


 壁画は広かった。

 通路の壁一面に、古い絵が描かれている。

 だが——色が薄い。

 端の方はほとんど消えかけていた。

 まるで、時間と共に少しずつ消えていくように。


「何の絵だ?」


「祭壇のようなものが描かれています。その周りに人の姿と……文字」


 アリアが壁画に顔を近づけた。


「……あった」


 アリアの声が変わった。


「壁画の中に、鍵の模様が描かれています。絵ではありません。魔法で封じ込められた実物です」


「壁画の中に封じ込める!?」


「周囲の魔法文字が封印の役割を果たしています。あの石の扉に刻まれていたものと同じ系統に見えます」


「解析できるか?」


「時間をいただければ」


 アリアが壁画の文字を解析し始めた。

 今度はカイトも大人しく待っていた。

 二度目は学習したらしい。


「カイト、触らないのか?」


「さすがに学んだ」


「学んだって言い方がもう……」


 リーナがため息をついた。

 セイが壁画の周囲を警戒しながら、大剣の柄に手をかけていた。


「ゴーレムが出てこないといいが」


「やめて。フラグ立てないでください!!」


 メルが体を抱きしめるようにして縮こまった。

 そして、確かめるように——ふと、壁画に目がいった。


「って、あれ? あ、見てください! 鍵の輪郭が——薄れてませんか!?」


「うわ、本当だ!」


 カイトが壁画を覗き込んだ。

 リーナとセイも駆け寄った。

 確かに、鍵の模様の端がぼやけ始めている。

 壁画そのものが、少しずつ消えていっていた。


「このまま消えたら、取り出せなくなる!?」


 リーナがアリアの方を振り返った。


「大丈夫です。落ち着いてください。後もう少しで構造の解析が完了します」


 アリアがノートをめくった。

 古代の魔法文字を確認しながら、壁画に手をかざした。


「構造は分かりました。扉の時に解読した配列の法則が、ここでも使われています」


「あの時の法則が役に立つのか!」


「はい。配列の法則は無駄ではありませんでした」


 アリアの目に光が宿っていた。

 扉では活かせなかった法則が、ここで活きる。


 アリアが詠唱を始めた。

 淡い光が壁画を包み込み、そして壁面の鍵に集約されていく。

 壁画の鍵の模様が、ゆっくりと浮き上がってきた。


 光が収まった時——アリアの手の中に、小さな鍵があった。


「……取り出せた」


「アリア、すごい!」


 メルが声を上げた。


「さすがだな。これはアリアにしかできなかった」


 セイが感心した声を出した。


「法則の解明、無駄じゃなかったわけね」


「ええ。あの法則がなければ、この封印は解けませんでした」


 アリアが小さく微笑んだ。

 珍しい表情だった。


「記録します。探索の鍵、入手。取得方法——壁画内封印の解除。扉の解析データが決め手」


「自分の活躍もちゃんと記録するのね……」


「事実ですので」


『これが、急いでいただきたかった理由です。もう少し遅ければ、間に合いませんでした』


「それ、もっと早く言えなかったの?」


『理由の説明は禁則事項でした。急いでくださいとしか言えなかったのです』


「……不便な立場よね、本当に」


 リーナが呟いた。

 ナビゲーターは何も言わなかった。


---


「ねえ、ここにも文字があります」


 メルが壁画の端を指差した。

 鍵が封じられていた場所とは別の部分に、小さな文字が刻まれていた。


「読めるか、アリア?」


「はい、これは魔法文字とは違った古代語ですね……断片的ですが。『封印を——司る者——勇者の——選択を——』」


 アリアが眉をひそめた。


「文章が途切れています。ただ、封印と勇者という言葉が出てきます」


 ナビゲーターが黙っていた。


「ナビゲーター、この文字について何か知ってるか?」


『禁則事項です』


 いつもの返答だった。

 だが——いつもより、間があった。


「……まあ、先に進もう。三つ目が先だ」


 セイが話をまとめた。


『あと一つ。勇気の鍵です』


「勇気の鍵は『恐ろしい場所』だったわよね」


『はい。……正直に申し上げると、三つの中で一番面倒なものです』


「面倒?」


『力が必要です。それも——かなりの』


 ナビゲーターの声が、珍しく重かった。


「よし! 面倒でも何でも、取りに行くぞ!」


 カイトが拳を握った。

 封印の鍵と探索の鍵。

 二つの鍵が手の中にある。


 残り、一つ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ