第27話 探索の鍵
『こちらの方角です』
「方角だけね。いつも通り」
リーナがため息をついた。
『はい。いつも通りです』
「見つけにくい場所ってことは、簡単には見つからないってことよね……」
「そのまんまだな」
セイが呟いた。
「ナビゲーター、何かヒントは?」
アリアが聞いた。
『禁則事項です。ただ、方角はお伝えできます。今のところ、この方向で合っています』
「方角だけで見つけにくい場所を探せっていうのが無理あるのよ……」
「方向さえ合っていればそのうち見つかるだろ!」
カイトがいつも通り先頭を歩いている。
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下層の通路は入り組んでいた。
分岐が多く、似たような石造りの壁が続いている。
分岐点でカイトが一瞬立ち止まった。
「こっちだな」
迷いなく左の通路に入った。
壁沿いに歩きながら、何気なく壁に手を触れた。
カコン。
壁の一部が動いた。
「……また?」
セイが呆れた顔をした。
壁の奥に、小さな隠し部屋が現れた。
「隠し部屋だ!」
カイトが中に入った。
部屋の中には古い木箱が一つ。
開けてみると——古びた道具が入っていた。
「鍵は?」
「ない。道具だけだ」
「……次、行きましょう」
アリアが記録しながら先に進んだ。
次の分岐。
カイトが右の壁にもたれかかった。
ガコン。
壁がずれた。
また隠し部屋だった。
「お前、隠し部屋センサーか何かか?」
セイが天を仰いだ。
中には宝箱があった。
開けると——古い金貨が数枚。
「金貨は嬉しいけど、鍵じゃないわね」
「記録します。カイトによる隠し部屋発見、二件目。中身は金貨。鍵は含まれていません」
「アリア、なんで嬉しそうなの?」
「隠し部屋の発見頻度のデータが取れるからです」
「それ今いるデータ?」
「すべてのデータはいつか役に立ちます」
さらに進んだ。
カイトが通路の角を曲がった。
足がもつれた。
壁に手をついた。
ガコン。
「……三つ目」
セイがもう驚かなくなっていた。
隠し部屋の中には、古い装飾品がいくつか。
鍵はない。
「カイトさん、隠し部屋ばかり見つけますね……」
メルが感心しているのか呆れているのか分からない顔をしていた。
「見つけたいのは隠し部屋じゃなくて鍵なんだけどな」
「ラッキーの方向性が違うのよ……」
リーナが額を押さえた。
「いつもは欲しいものが見つかるのに、今日は隠し部屋しか出てこない。カイトのラッキーにも得手不得手があるのかしら」
「得手不得手って……ラッキーに得意分野があるのか」
セイが呆れた。
「データ的には、カイトのラッキーは本人が意識していない時の方が精度が高い傾向があります」
「意識してないって……じゃあ今は意識してるのか?」
「鍵を探そうとしてるからな。意識してるだろ」
カイトが腕を組んだ。
「お、じゃあ探すのやめたらいいんじゃないか?」
「探すのをやめたら探索にならないでしょ!」
リーナがツッコんだ。
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四つ目の隠し部屋を見つけた時、さすがにカイトも首を傾げた。
「なんで隠し部屋ばっかり見つかるんだ? 鍵は全然ないのに」
『当然です。探索の鍵は隠し部屋にはありません』
「……最初に言ってよ」
『聞かれなかったので』
「そのパターン本当にやめて!」
リーナが叫んだ。
「じゃあ、鍵はどこにあるんだ?」
『禁則事項です。ただ——一つだけ言えることがあります』
ナビゲーターが間を置いた。
『見つけにくい場所、というのは——物理的な場所とは限りません』
「物理的な場所じゃない?」
セイが眉をひそめた。
「どういうことだ? 隠し部屋でもなく、通路でもなく——」
「……概念的な隠し場所」
アリアが呟いた。
目の色が変わっていた。
「物理的な空間に隠されているのではなく、別の方法で封じられている。たとえば——魔法で何かの中に封じ込めるとか」
「魔法で? 物の中に鍵を入れるってことか?」
「鍵そのものを別の形に変えて隠す方法もあります。古代の封印魔法にはそういう技術があった」
アリアが周囲を見回した。
通路の壁面に目を走らせる。
床。天井。通路全体を観察している。
「何か魔力の痕跡が——」
「あのぉ……壁に何か描かれています」
メルが恐る恐る指を差した。
そこには通路の壁の一面に、古い壁画があった。
隠し部屋ばかり見ていて、壁画には誰も気づいていなかった。
「全員、壁を押すことしか考えてなかったわね……」
「カイトさんのせいですよ……」
カイトが肩を落とした。
「俺のせい!?」
メルが満面の笑みで頷いた。
「はい!!」
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壁画は広かった。
通路の壁一面に、古い絵が描かれている。
だが——色が薄い。
端の方はほとんど消えかけていた。
まるで、時間と共に少しずつ消えていくように。
「何の絵だ?」
「祭壇のようなものが描かれています。その周りに人の姿と……文字」
アリアが壁画に顔を近づけた。
「……あった」
アリアの声が変わった。
「壁画の中に、鍵の模様が描かれています。絵ではありません。魔法で封じ込められた実物です」
「壁画の中に封じ込める!?」
「周囲の魔法文字が封印の役割を果たしています。あの石の扉に刻まれていたものと同じ系統に見えます」
「解析できるか?」
「時間をいただければ」
アリアが壁画の文字を解析し始めた。
今度はカイトも大人しく待っていた。
二度目は学習したらしい。
「カイト、触らないのか?」
「さすがに学んだ」
「学んだって言い方がもう……」
リーナがため息をついた。
セイが壁画の周囲を警戒しながら、大剣の柄に手をかけていた。
「ゴーレムが出てこないといいが」
「やめて。フラグ立てないでください!!」
メルが体を抱きしめるようにして縮こまった。
そして、確かめるように——ふと、壁画に目がいった。
「って、あれ? あ、見てください! 鍵の輪郭が——薄れてませんか!?」
「うわ、本当だ!」
カイトが壁画を覗き込んだ。
リーナとセイも駆け寄った。
確かに、鍵の模様の端がぼやけ始めている。
壁画そのものが、少しずつ消えていっていた。
「このまま消えたら、取り出せなくなる!?」
リーナがアリアの方を振り返った。
「大丈夫です。落ち着いてください。後もう少しで構造の解析が完了します」
アリアがノートをめくった。
古代の魔法文字を確認しながら、壁画に手をかざした。
「構造は分かりました。扉の時に解読した配列の法則が、ここでも使われています」
「あの時の法則が役に立つのか!」
「はい。配列の法則は無駄ではありませんでした」
アリアの目に光が宿っていた。
扉では活かせなかった法則が、ここで活きる。
アリアが詠唱を始めた。
淡い光が壁画を包み込み、そして壁面の鍵に集約されていく。
壁画の鍵の模様が、ゆっくりと浮き上がってきた。
光が収まった時——アリアの手の中に、小さな鍵があった。
「……取り出せた」
「アリア、すごい!」
メルが声を上げた。
「さすがだな。これはアリアにしかできなかった」
セイが感心した声を出した。
「法則の解明、無駄じゃなかったわけね」
「ええ。あの法則がなければ、この封印は解けませんでした」
アリアが小さく微笑んだ。
珍しい表情だった。
「記録します。探索の鍵、入手。取得方法——壁画内封印の解除。扉の解析データが決め手」
「自分の活躍もちゃんと記録するのね……」
「事実ですので」
『これが、急いでいただきたかった理由です。もう少し遅ければ、間に合いませんでした』
「それ、もっと早く言えなかったの?」
『理由の説明は禁則事項でした。急いでくださいとしか言えなかったのです』
「……不便な立場よね、本当に」
リーナが呟いた。
ナビゲーターは何も言わなかった。
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「ねえ、ここにも文字があります」
メルが壁画の端を指差した。
鍵が封じられていた場所とは別の部分に、小さな文字が刻まれていた。
「読めるか、アリア?」
「はい、これは魔法文字とは違った古代語ですね……断片的ですが。『封印を——司る者——勇者の——選択を——』」
アリアが眉をひそめた。
「文章が途切れています。ただ、封印と勇者という言葉が出てきます」
ナビゲーターが黙っていた。
「ナビゲーター、この文字について何か知ってるか?」
『禁則事項です』
いつもの返答だった。
だが——いつもより、間があった。
「……まあ、先に進もう。三つ目が先だ」
セイが話をまとめた。
『あと一つ。勇気の鍵です』
「勇気の鍵は『恐ろしい場所』だったわよね」
『はい。……正直に申し上げると、三つの中で一番面倒なものです』
「面倒?」
『力が必要です。それも——かなりの』
ナビゲーターの声が、珍しく重かった。
「よし! 面倒でも何でも、取りに行くぞ!」
カイトが拳を握った。
封印の鍵と探索の鍵。
二つの鍵が手の中にある。
残り、一つ。




