第26話 封印の鍵
『もう少しですよ』
ナビゲーターの案内で、下層の通路を進んでいく。
「守られた場所って、もうちょっと具体的に言えないのか?」
セイが聞いた。
『禁則事項です』
「だろうな」
「何が待ってるかも分からないってこと?」
リーナが腰に手を当てた。
『禁則事項により——』
「お伝えできません、でしょ。もう分かったわよ」
『……先に言わないでいただきたい。何度も申し上げますが、私の数少ない台詞を奪わないでください』
「もう慣れたのよ」
『慣れないでいただきたい』
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通路の突き当たりに、巨大な石の扉があった。
高さはセイの背丈の倍はある。
重厚な石の扉に、古い文字と模様が刻まれていた。
「……これは」
アリアの目が輝いた。
ノートを開くのも忘れて、扉に駆け寄った。
「古代の魔法文字です。文字と模様が組み合わさった論理パズルになっています」
「解けるのか?」
「時間をいただければ。文字の配列にルールがあるようにみえます。これは正しい組み合わせで触れれば開く仕組みと推測できます」
アリアが扉の前にしゃがみ込んだ。
指で文字をなぞりながら、ノートに書き写していく。
目が完全に研究者のそれになっていた。
「アリアが本気出してるわね……」
「学者モードだな。こうなると止まらない」
セイが苦笑した。
「カイト、触るなよ。アリアが解析してる」
「分かった。待ってる」
カイトが扉の前で腕を組んだ。
待っている。
珍しく、待っている。
「……カイトが大人しく待ってる」
「珍しいですね……大丈夫ですか?」
「逆に不安よね……」
リーナとメルが小声で話していた。
アリアが文字を解読していく。
時間が過ぎた。
「配列の法則が見えてきました。左上から順に、対になる文字を——」
カイトが扉に手を伸ばした。
「カイト!?」
「いや、なんかこの模様、光ってる気がして——」
カイトの指が、扉の模様に触れた。
扉が——光った。
ゴゴゴゴ、と重い音がした。
扉が左右にゆっくりと開いていく。
全員が固まった。
「……なんで?」
アリアの声が震えていた。
「なんか光ったから、触っただけなんだけど」
「私の解析は……配列の法則は……」
「アリア、落ち着いて」
リーナがアリアの肩を叩いた。
アリアの顔が無表情になっていた。
感情が処理しきれない顔だった。
「……記録します。カイトが解析不要で扉を開けた件。上層の扉に続いて二回目です。しかも今回は配列の法則とは無関係に開きました」
「アリア……大丈夫?」
「大丈夫です。配列の法則は解明できました。それが必要なかっただけで」
「……それが一番つらいのよね」
アリアの目が潤んでいた。
本人は気づいていないようだった。
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扉の奥は、広い部屋だった。
天井が高く、四方を石の壁に囲まれている。
部屋の中央に、石の台座があった。
台座の上に、小さな鍵が光っている。
「あれが封印の鍵か」
セイが目を細めた。
『はい』
「守られた場所、だもんな。何かあるんだろ」
『禁則事項です』
カイトが台座に向かって歩き出した。
「待って! 罠があるかもしれないでしょ!」
リーナが叫んだ。
が、カイトはもう半分まで進んでいた。
カイトが台座に手を伸ばした。
指先が鍵に触れる——直前。
台座の周囲の床が割れた。
部屋の四隅から、石の塊がせり上がってきた。
石が動いている。
石が、形を成していく。
腕。足。胴体。頭。
石のゴーレムだった。
四体。
部屋の四隅に一体ずつ。
天井に届くほどの巨体が、台座を守るように立ちはだかった。
「でかい——!」
「四体!?」
リーナがメイスを構えた。
セイが大剣を抜いた。
『守護者です。鍵に触れようとする者を排除するために配置されています』
「先に言ってよ!」
『禁則事項でしたので』
「そのパターンやめて!」
ゴーレムが動いた。
一体がカイトに向かって腕を振り下ろす。
石の拳が床を砕いた。
カイトが横に跳んで避けた。
「こいつ全身石だぞ!」
「剣で斬れるのか!?」
セイが大剣を振るった。
石の腕に当たる。
火花が散った。
傷がつかない。
「……効かない。ただの石じゃないぞ、これは」
「メイスなら!」
リーナが別のゴーレムに殴りかかった。
ガン、と音がした。
石の表面が少し砕けた。
「効いてる——打撃なら通る!」
「リーナ、頼んだ! 俺の剣じゃ歯が立たない!」
アリアが魔法を撃ち込んだ。
炎がゴーレムの腕に当たる。
石が赤く焼けた。
「魔法は効きます! ただし、四体同時は魔力が保ちません!」
「一体ずつ崩すしかない! リーナ、集中しろ!」
「分かってるわよ!」
リーナが一体のゴーレムに張り付いた。
メイスを何度も叩きつける。
石が少しずつ砕けていく。
だが、四体を相手にしながらでは追いつかない。
他の三体が動いた。
リーナの背後からゴーレムの拳が迫る。
「リーナ!」
セイが大剣で受け止めた。
衝撃で腕が痺れた。
「カイトさん! 後ろ!」
メルが叫んだ。
別のゴーレムがカイトに迫っていた。
カイトが横に跳んだ。
足が滑った。
転んだ。
仰向けに倒れた——その真上を、ゴーレムの拳が通過した。
「あぶね!?」
カイトが即座に立ち上がろうとした。
その頭上に、ゴーレムの足が振り下ろされようとしていた。
「っん?」
足の裏の中央に、石の色が違う部分を見つけた。
小さな、丸い窪み。
カイトは反射的に剣を突き上げた。
窪みに、剣先が突き刺さった。
ゴーレムが——止まった。
そして、全身にひびが走り、そのまま、崩れ落ちた。
「……え?」
カイトが瓦礫の中から起き上がった。
「今、何が起きたの!?」
リーナが叫んだ。
「見ました!」
アリアの目が光った。
崩れたゴーレムの破片に駆け寄り、足の裏の部分を確認している。
「足の裏に核があります! ここを破壊すれば一撃で停止する!」
「足の裏!? そんなとこ狙えるわけないでしょ!」
「カイトは転んで刺しました」
「転んで刺したって言うな!」
「転ばせれば足の裏を狙えます! まずは一体ずつ!」
リーナが走った。
ゴーレムの正面に回り込み、メイスで膝を殴りつけた。
石が砕ける。
バランスを崩したゴーレムが、前のめりに倒れた。
「セイ!」
「おう!」
セイが倒れたゴーレムの足の裏に大剣を突き立てた。
核が砕けた。
二体目が崩壊した。
残り二体。
三体目がリーナに向かってきた。
同時に、四体目がセイの背後から迫る。
「セイ、後ろ!」
セイが振り返り、大剣で四体目の拳を受け止めた。
両手が塞がった。
「こっちは抑える! 三体目を先に!」
アリアが三体目の足元に魔法を撃ち込んだ。
石が焼けて脆くなる。
自重を支えきれず、ゴーレムが膝をついた。
リーナが回り込んだ。
メイスが足の裏の核を捉えた。
三体目が崩壊した。
残り一体。
セイが大剣で押し返しながら叫んだ。
「カイト! 一緒にやるぞ!」
「おう!」
カイトが正面から走り込んだ。
ゴーレムの拳が振り下ろされる。
カイトが横に跳んだ——ゴーレムの拳が床を砕いた。
その反動でゴーレムの体勢が崩れた。
セイが大剣の腹でゴーレムの足を薙いだ。
ゴーレムが倒れる。
「リーナ!」
「任せなさい!」
リーナがメイスを振り下ろし、最後の核が砕け散った。
最後のゴーレムが崩壊した。
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四体のゴーレムが瓦礫に変わった。
部屋に静寂が戻った。
全員が肩で息をしていた。
「……リーナのメイス、ゴーレムには相性がいいな」
「打撃武器で良かったわ……今日だけは」
「記録します。石のゴーレム四体。弱点は足の裏の核。討伐の決め手——カイトが転んで偶然核に剣を突き刺したこと」
「その書き方やめて!?」
「事実ですので」
カイトが台座に近づいた。
今度は、ゴーレムが起動する気配はない。
鍵に手を伸ばす。
光る小さな鍵が、カイトの手に収まった。
「……これが、封印の鍵か」
手のひらに乗るほどの小さな鍵だった。
古い金属で作られているが、不思議な温かさがあった。
「一つ目、ゲットだぜ!」
カイトが鍵を掲げた。
「メル、これで一歩前進だぞ!」
メルが頷いた。
小さく、でもしっかりと。
「はい……! ありがとうございます!」
『残り二つです。次は探索の鍵——「見つけにくい場所」にあります』
「見つけにくいって、また抽象的ね……」
『お急ぎください。禁則事項ではありませんが——早い方がいいです』
セイが眉をひそめた。
「急いだ方がいい理由は?」
『それは禁則事項です』
「……結局それか」
『ですが、嘘はつきません。急いでください』
ナビゲーターの声に、いつもの抑揚のなさとは違うものが混じっていた。
「よし! 次だ! 二つ目、探索の鍵!」
カイトが封印の鍵をしっかりと握って歩き出した。
五人と一妖精。
残り二つ。




