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無自覚主人公がやらかしました ― ダンジョンで殺されるはずだったのに、なぜか攻略してしまう  作者: 智信
第三部

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第25話 下層へ

「アイテムの場所? 禁則事項により、お伝えできません」

―― 最深部への試練

 カイトとセイが先頭を歩き、リーナがメイスを肩に担いでそれに続く。

 その後にアリアがノートを片手に続き、メルがナビゲーターを肩に乗せて、一番後ろを歩いている。


 五人と一妖精。

 ナビゲーターの案内で、中層の通路を進んでいた。


『止まってください。この先に、下層への入口があります。左の壁に隠し扉です』


「隠し扉?」


『はい。通常のルートでも下層には行けますが、皆さんの速度ですと二日はかかります。なので、この近道です』


「また隠し通路か。このダンジョン、隠し通路だらけなのか?」


 セイが呟いた。


「カイトが壁を壊さなくても、ちゃんと入口があるんですね」


 メルが安堵した声を出した。


「え、壊すのもありだと思うんだけどなぁ」


「やめてください」


 カイトが左の壁沿いに歩きながら、手で壁を確かめていた。


『その辺りです。壁面に模様がありませんか?』


 セイが壁を見た。

 言われてみると、石の並びが不自然な箇所がある。


「ここか?」


 カイトが壁を押した。


 ガコン。


 壁の一部が奥にずれた。

 隙間から、下に続く階段が見えた。


「開いた!」


「カイトさんが普通に開けた……!」


 メルが驚いている。


「普通に開けたことに驚かれるカイトって……」


 リーナが呆れた。


「記録します。カイトが正規の手順で扉を開けた件。これは初めてのケースです」


「アリア、それ記録する必要ある?」


「あります。異常な事態ですので」


 アリアの目が輝いていた。

 ノートに猛烈な勢いで書き込んでいる。


「カイトが隠し通路への扉を、壊さずに開けた。これは異常です。記録しなければなりません」


「普通のことが異常扱いって、どうなのよ……」


---


 隠し通路は長い、長い下り階段だった。

 中層から下層へ、ゆっくりと深くなっていく。


 階段を降りきると、通路が広がった。

 中層と同じ石造り。

 同じ壁の模様。

 同じ構造。

 だが——空気が違った。

 重い。

 冷たい。

 中層よりも、はっきりと。


「中層より深い分、気温が低いですね。湿度も高い」


 アリアが記録している。


「モンスターの気配も濃い。全員、警戒しろ」


 セイが大剣の柄に手をかけた。


『下層のモンスターは中層より強力です。ご注意ください』


「どれくらい強いんだ?」


 カイトが聞いた。


『中層のモンスターを基準にすると、体格は一回りから二回り大きい。体表の硬度も上がっています。中層で苦戦した方々には厳しい戦いになるかもしれません』


「中層で苦戦した方々って、あたしたちのことよね……」


 リーナが渋い顔をした。


「中層のやつでもきつかったのに……」


 リーナがメイスを握り直した。

 腕の痺れはアリアの回復魔法で和らいだが、完全ではない。


「大丈夫だ。今度は全員揃ってる」


 セイが言った。


「カイトのラッキーもあるしな」


「それ頼みってのが問題なのよ……でも、ないよりはマシか」


 メルが目を丸くした。


「リーナさん、それ認めちゃうんですか?」


「認めざるを得ないのよ。六体と戦った後だと……」


 リーナの声には、六体のモンスターと戦い抜いた疲労がにじんでいた。

 カイトなしで戦うことの過酷さを、体で覚えた顔だった。


---


 下層の通路を進んでいると——前方から唸り声が聞こえた。


「来たか」


 セイが大剣を抜いた。


 モンスターが一体現れた。

 中層で戦ったものと同じ灰色の体表。

 だが一回り大きい。

 背中の突起もより鋭い。


「でかい……!」


「中層のより明らかにでかいわね……」


 リーナがメイスを構えた。


 アリアがノートに書き込みながら呟いた。


「下層モンスター、初遭遇。体格は中層の約1.3倍。突起の数も多い」


「頼りにしてるぞ、アリア。弱点が見えたら教えてくれ」


 セイが大剣を構えた。

 モンスターが突進してきた。

 通路が揺れる。

 中層のモンスターとは段違いの圧だった。


「散れ!」


 セイが叫んだ。

 全員が左右に散った。

 メルがナビゲーターを肩に乗せたまま壁際に退避した。


 セイが正面から大剣で受け止める。

 衝撃が腕を突き抜けた。

 中層の時より明らかに重い。

 足が石畳の上で滑った。


「パワーも硬さも上がってる……! 中層の比じゃない!」


 リーナが右から回り込んだ。

 メイスを振るう。

 ガン、と音がした。

 効いている——が、中層のモンスターほどよろめかない。


「メイスでもこの程度!?」


「体表の硬度が中層より高いです。打撃の衝撃が吸収されています」


「じゃあどうすんのよ!」


 アリアが魔法を撃ち込んだ。

 モンスターがひるんだ。

 その隙にセイが側面から斬りつける。

 浅い傷だが、確実に入った。


「連携で削るしかない! 一人では無理だ!」


「カイトさん! 後ろに隙があります!」


 メルが叫んだ。

 壁際から見ていたメルが、モンスターの背後の動きを読んでいた。


 カイトがモンスターの後ろに回ろうとして走った。

 が、なぜかその拍子に足元の石を蹴っ飛ばしてしまった。

 そして、勢いよく飛んだその石がモンスターの後ろ足に当たった。

 意識の外からの衝撃に、モンスターの気が一瞬そちらに向いた。


「今だ!」


 リーナがメイスで腹部を殴りつけた。

 セイが大剣を振り下ろした。

 アリアの魔法が傷口に直撃した。


 モンスターが崩れ落ちた。


「……倒した」


 全員が息を吐いた。

 中層のモンスターより明らかに手強かった。

 だが——全員が揃っている。


「カイトのラッキー、下層でも健在だな」


「石を蹴っ飛ばしただけなんだけど……」


「それだけで勝てちゃうのがおかしいのよ!」


「記録します。下層モンスター初戦闘。討伐時間——中層の約二倍。ただしカイトのラッキーにより短縮」


「データ取ってたの!?」


「当然です」


 メルがほっとした顔をした。


「皆さんが揃っていると……やっぱり安心します」


「カイトが一人で戦ってた時と違うもんな」


「あの時は叫ぶしかできなかったんですけど……今は、皆さんがいますから」


「メル、お前も立派な仲間だぞ。声で援護してくれるし」


 メルが顔を赤くした。

 もう、いつものことだった。


---


 セイがみんなを見回した。


「さて。鍵を探しながら進むか」


『最初に探すべきは封印の鍵です。「守られた場所」にあります』


「で、その鍵はどこにあるんだ?」


『アイテムの場所? 禁則事項により、お伝えできません』


「アイテムって、もしかしたら鍵って名前だけど鍵でもないのかもしれないのか……」


『禁則事項ですので』


 リーナが腰に手を当てた。


「守られた場所ってヒントだけじゃ、どっちに行けばいいか分からないわよ」


『方角はお伝えできます。禁則事項ではありませんので。この通路を真っ直ぐ進んでください』


「方角は教えてくれるのか! じゃあ最初からそう言ってよ!」


『聞かれなかったので』


「……この妖精、本当に禁則事項と常識の区別がつかないわね」


『区別はついています。言うタイミングを選んでいるだけです』


「性格悪くない?」


『性格の善し悪しは禁則事項には含まれていません。ですが、否定はしません』


 呆れたようにリーナは肩を落とした。


「……開き直った。でも、方角を教えてもらえるなら探索は楽になるわね。ヒントだけよりずっとマシよ」


 カイトが笑った。


「いいコンビだな、リーナとナビゲーター」


「コンビって言わないで!」


 セイが苦笑しながらナビゲーターに尋ねた。


「ナビゲーター、他に教えられることはないのか?」


『この先に何があるかの概要についてはお伝えできます。ただし鍵の具体的な取得方法は禁則事項です』


「方角と概要は教えてくれるけど、道順や攻略法は教えてくれないってことか」


『そういうことです。不便ですが、仕方ありません』


「お前が言うな」


---


 ナビゲーターの案内で、下層の通路を進んでいく。

 五人と一妖精。


「なあ、ナビゲーター。鍵を三つ集めたら、最深部の扉が開くんだよな?」


『はい。三つ揃えば、最深部への大扉が開きます』


「その先に、メルの父ちゃんを助ける方法がある?」


『禁則事項です』


「だよな。まあいい、行けば分かる!」


 カイトが笑った。

 メルが小さく微笑んだ。

 根拠もなく前に進むカイトの背中を、安心した目で見ていた。


「よし! まずは一つ目、封印の鍵だ!」


 カイトが拳を突き上げた。


 封印の鍵——「守られた場所」。

 その場所が、この先にある。

 三つの鍵を求める、下層の探索が始まった。

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