第25話 下層へ
「アイテムの場所? 禁則事項により、お伝えできません」
―― 最深部への試練
カイトとセイが先頭を歩き、リーナがメイスを肩に担いでそれに続く。
その後にアリアがノートを片手に続き、メルがナビゲーターを肩に乗せて、一番後ろを歩いている。
五人と一妖精。
ナビゲーターの案内で、中層の通路を進んでいた。
『止まってください。この先に、下層への入口があります。左の壁に隠し扉です』
「隠し扉?」
『はい。通常のルートでも下層には行けますが、皆さんの速度ですと二日はかかります。なので、この近道です』
「また隠し通路か。このダンジョン、隠し通路だらけなのか?」
セイが呟いた。
「カイトが壁を壊さなくても、ちゃんと入口があるんですね」
メルが安堵した声を出した。
「え、壊すのもありだと思うんだけどなぁ」
「やめてください」
カイトが左の壁沿いに歩きながら、手で壁を確かめていた。
『その辺りです。壁面に模様がありませんか?』
セイが壁を見た。
言われてみると、石の並びが不自然な箇所がある。
「ここか?」
カイトが壁を押した。
ガコン。
壁の一部が奥にずれた。
隙間から、下に続く階段が見えた。
「開いた!」
「カイトさんが普通に開けた……!」
メルが驚いている。
「普通に開けたことに驚かれるカイトって……」
リーナが呆れた。
「記録します。カイトが正規の手順で扉を開けた件。これは初めてのケースです」
「アリア、それ記録する必要ある?」
「あります。異常な事態ですので」
アリアの目が輝いていた。
ノートに猛烈な勢いで書き込んでいる。
「カイトが隠し通路への扉を、壊さずに開けた。これは異常です。記録しなければなりません」
「普通のことが異常扱いって、どうなのよ……」
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隠し通路は長い、長い下り階段だった。
中層から下層へ、ゆっくりと深くなっていく。
階段を降りきると、通路が広がった。
中層と同じ石造り。
同じ壁の模様。
同じ構造。
だが——空気が違った。
重い。
冷たい。
中層よりも、はっきりと。
「中層より深い分、気温が低いですね。湿度も高い」
アリアが記録している。
「モンスターの気配も濃い。全員、警戒しろ」
セイが大剣の柄に手をかけた。
『下層のモンスターは中層より強力です。ご注意ください』
「どれくらい強いんだ?」
カイトが聞いた。
『中層のモンスターを基準にすると、体格は一回りから二回り大きい。体表の硬度も上がっています。中層で苦戦した方々には厳しい戦いになるかもしれません』
「中層で苦戦した方々って、あたしたちのことよね……」
リーナが渋い顔をした。
「中層のやつでもきつかったのに……」
リーナがメイスを握り直した。
腕の痺れはアリアの回復魔法で和らいだが、完全ではない。
「大丈夫だ。今度は全員揃ってる」
セイが言った。
「カイトのラッキーもあるしな」
「それ頼みってのが問題なのよ……でも、ないよりはマシか」
メルが目を丸くした。
「リーナさん、それ認めちゃうんですか?」
「認めざるを得ないのよ。六体と戦った後だと……」
リーナの声には、六体のモンスターと戦い抜いた疲労がにじんでいた。
カイトなしで戦うことの過酷さを、体で覚えた顔だった。
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下層の通路を進んでいると——前方から唸り声が聞こえた。
「来たか」
セイが大剣を抜いた。
モンスターが一体現れた。
中層で戦ったものと同じ灰色の体表。
だが一回り大きい。
背中の突起もより鋭い。
「でかい……!」
「中層のより明らかにでかいわね……」
リーナがメイスを構えた。
アリアがノートに書き込みながら呟いた。
「下層モンスター、初遭遇。体格は中層の約1.3倍。突起の数も多い」
「頼りにしてるぞ、アリア。弱点が見えたら教えてくれ」
セイが大剣を構えた。
モンスターが突進してきた。
通路が揺れる。
中層のモンスターとは段違いの圧だった。
「散れ!」
セイが叫んだ。
全員が左右に散った。
メルがナビゲーターを肩に乗せたまま壁際に退避した。
セイが正面から大剣で受け止める。
衝撃が腕を突き抜けた。
中層の時より明らかに重い。
足が石畳の上で滑った。
「パワーも硬さも上がってる……! 中層の比じゃない!」
リーナが右から回り込んだ。
メイスを振るう。
ガン、と音がした。
効いている——が、中層のモンスターほどよろめかない。
「メイスでもこの程度!?」
「体表の硬度が中層より高いです。打撃の衝撃が吸収されています」
「じゃあどうすんのよ!」
アリアが魔法を撃ち込んだ。
モンスターがひるんだ。
その隙にセイが側面から斬りつける。
浅い傷だが、確実に入った。
「連携で削るしかない! 一人では無理だ!」
「カイトさん! 後ろに隙があります!」
メルが叫んだ。
壁際から見ていたメルが、モンスターの背後の動きを読んでいた。
カイトがモンスターの後ろに回ろうとして走った。
が、なぜかその拍子に足元の石を蹴っ飛ばしてしまった。
そして、勢いよく飛んだその石がモンスターの後ろ足に当たった。
意識の外からの衝撃に、モンスターの気が一瞬そちらに向いた。
「今だ!」
リーナがメイスで腹部を殴りつけた。
セイが大剣を振り下ろした。
アリアの魔法が傷口に直撃した。
モンスターが崩れ落ちた。
「……倒した」
全員が息を吐いた。
中層のモンスターより明らかに手強かった。
だが——全員が揃っている。
「カイトのラッキー、下層でも健在だな」
「石を蹴っ飛ばしただけなんだけど……」
「それだけで勝てちゃうのがおかしいのよ!」
「記録します。下層モンスター初戦闘。討伐時間——中層の約二倍。ただしカイトのラッキーにより短縮」
「データ取ってたの!?」
「当然です」
メルがほっとした顔をした。
「皆さんが揃っていると……やっぱり安心します」
「カイトが一人で戦ってた時と違うもんな」
「あの時は叫ぶしかできなかったんですけど……今は、皆さんがいますから」
「メル、お前も立派な仲間だぞ。声で援護してくれるし」
メルが顔を赤くした。
もう、いつものことだった。
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セイがみんなを見回した。
「さて。鍵を探しながら進むか」
『最初に探すべきは封印の鍵です。「守られた場所」にあります』
「で、その鍵はどこにあるんだ?」
『アイテムの場所? 禁則事項により、お伝えできません』
「アイテムって、もしかしたら鍵って名前だけど鍵でもないのかもしれないのか……」
『禁則事項ですので』
リーナが腰に手を当てた。
「守られた場所ってヒントだけじゃ、どっちに行けばいいか分からないわよ」
『方角はお伝えできます。禁則事項ではありませんので。この通路を真っ直ぐ進んでください』
「方角は教えてくれるのか! じゃあ最初からそう言ってよ!」
『聞かれなかったので』
「……この妖精、本当に禁則事項と常識の区別がつかないわね」
『区別はついています。言うタイミングを選んでいるだけです』
「性格悪くない?」
『性格の善し悪しは禁則事項には含まれていません。ですが、否定はしません』
呆れたようにリーナは肩を落とした。
「……開き直った。でも、方角を教えてもらえるなら探索は楽になるわね。ヒントだけよりずっとマシよ」
カイトが笑った。
「いいコンビだな、リーナとナビゲーター」
「コンビって言わないで!」
セイが苦笑しながらナビゲーターに尋ねた。
「ナビゲーター、他に教えられることはないのか?」
『この先に何があるかの概要についてはお伝えできます。ただし鍵の具体的な取得方法は禁則事項です』
「方角と概要は教えてくれるけど、道順や攻略法は教えてくれないってことか」
『そういうことです。不便ですが、仕方ありません』
「お前が言うな」
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ナビゲーターの案内で、下層の通路を進んでいく。
五人と一妖精。
「なあ、ナビゲーター。鍵を三つ集めたら、最深部の扉が開くんだよな?」
『はい。三つ揃えば、最深部への大扉が開きます』
「その先に、メルの父ちゃんを助ける方法がある?」
『禁則事項です』
「だよな。まあいい、行けば分かる!」
カイトが笑った。
メルが小さく微笑んだ。
根拠もなく前に進むカイトの背中を、安心した目で見ていた。
「よし! まずは一つ目、封印の鍵だ!」
カイトが拳を突き上げた。
封印の鍵——「守られた場所」。
その場所が、この先にある。
三つの鍵を求める、下層の探索が始まった。




