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無自覚主人公がやらかしました ― ダンジョンで殺されるはずだったのに、なぜか攻略してしまう  作者: 智信
第二部

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第24話 最深部を目指して

 全員が揃った。

 五人と一妖精。

 ナビゲーターがメルの肩から、全員を見回した。


『では、改めて状況を整理しましょう』


「お前が仕切るのか」


 セイが呟いた。


『ナビゲーターですので。まず、皆さんの目的は——』


「メルの父親を救うこと」


 カイトが即答した。


「正確には、メルの父親を魔王城から解放する方法を探すこと、ですね」


 アリアが補足した。


『魔王城からの解放ですね。はい、その方法は、このダンジョンの最深部にあります』


「最深部に何があるんだ?」


『禁則事項です』


「……だと思った」


 セイがため息をついた。


『ただし、最深部に行けば解決の糸口は見つかります。これだけは保証します』


「保証するって、さっきから禁則事項で何も教えてくれないくせに?」


『教えられないことと、保証できることは別です。不便な立場ですが、嘘はつきません』


 ナビゲーターの声は相変わらず抑揚がなかった。

 だが、「嘘はつかない」という言葉だけは、はっきりしていた。


「……信じていいのか?」


『信じるかどうかは、皆さん次第です』


「俺は信じるぞ」


 カイトが言った。

 迷いがなかった。


「根拠は?」


「ない。でもこいつ、嘘つくような奴じゃないだろ」


「……カイト、お前は初対面の妖精を根拠なしで信じるのか」


「だってさ、嘘つく理由がないだろ。ここまで案内してくれたし」


「……それだけで信じるのか」


「それだけで十分だろ」


 セイが黙った。


「あたしたちを殺そうとしてた子まで信じた奴が言うと、説得力あるわね……」


 リーナが呆れた声を出した。


『……根拠がないのに信じるのは、なかなか珍しい方ですね』


「よく言われる」


---


『最深部に到達するには、三つの鍵が必要です』


「鍵?」


 カイトが首を傾げた。


『はい。封印の鍵、探索の鍵、勇気の鍵。……名称は私が命名しました。正式名称は禁則事項です』


「自分で名前つけたのかよ」


『正式名称が長すぎるので。利便性を優先しました』


「ナビゲーター、名前のセンスはあるんですね」


 メルが感心した。


『ありがとうございます。数百年間、暇だったので。名前を考える時間だけはありました』


 セイが呟いた。


「数百年かけて考えた名前……」


「重みが違うわね……」


 リーナも呟いた。


「で、その鍵はどこにあるんだ?」


 カイトが聞いた。


『禁則事項により——』


「お伝えできません、でしょ」


 リーナが先回りした。


『……先に言わないでいただきたい。私の数少ない台詞を奪わないでください』


「ごめん……」


『ですが、ヒントならお出しできます』


 セイが腕を組んだ。


『封印の鍵は「守られた場所」にあります』


「守られた場所?」


『探索の鍵は「見つけにくい場所」にあります』


 リーナが眉をひそめた。


「……そのまんまじゃない?」


『勇気の鍵は「恐ろしい場所」にあります』


「三つとも抽象的すぎるわよ! もうちょっと具体的に言えないの!?」


 リーナが叫んだ。


「場所のヒントとしては不十分ですね。ただ、鍵の性質を示しているとも読めます」


 アリアが分析を始めた。


「守られた場所は防御が強い。見つけにくい場所は隠されている。恐ろしい場所は危険が大きい。難易度の違いかもしれません」


「つまり順番に取っていけってことか?」


「その可能性はあります」


『なかなか鋭いですね。ただ、それについては禁則事項なので肯定も否定もできません』


「それ、肯定してるようなもんだぞ」


『気のせいです』


「……このパターン、もう何回目だ」


『私もそう思います。駄女神の設計ですので』


「…………駄女神?」


 全員が固まった。


『……何でもありません。禁則事項です』


「今、駄女神って言わなかった?」


『言っていません。禁則事項です』


「絶対言った」


「言いましたね。記録しました」


 アリアがノートに書き込んだ。


『……記録しないでいただきたい。私の失言を後世に残されるのは困ります』


「事実ですので。それに、駄女神という表現は非常に興味深い。女神の存在を示唆しています」


「アリア、深掘りしないで。ナビゲーターが困ってるわよ」


『……助かります。この方は、あらゆる禁則事項よりも手強い』


「それ、褒めてるんですか?」


 アリアが首を傾げた。


『褒めています。たぶん』


---


「まあ、ヒントはヒントだ。行けば分かるだろ」


 カイトが立ち上がった。


「行けば分かるって……三つも探すのよ?」


「三つだろうが十だろうが、探すしかないだろ。な、ナビゲーター?」


『はい。探すしかありません。ただし、鍵があるのは中層のさらに下——下層と呼ばれるエリアです。まずはそこまで案内します』


「下層? 中層の下にまだあるのか」


『はい。構造は中層と同じですが、より深い位置にあります。モンスターも中層より強力です』


「……さっきの連中より強いの?」


『はい』


「…………」


 リーナが黙った。


「まずは下層に降りることだな。鍵探しはそれからだ」


 セイが話を整理した。


「セイ、体は大丈夫か? 肩の傷」


「問題ない。アリアに回復魔法を頼めれば——」


「魔力はそれなりに回復しています。軽い治癒なら可能です」


 アリアがセイの肩に手をかざした。

 淡い光が傷口を包む。

 傷が塞がっていく。

 完全には治らないが、痛みは引いた。


「……助かる。さすがだな」


「回復魔法は得意分野です。攻撃魔法より効率がいいので」


「リーナの腕も診ますか?」


「お願い……メイス振りすぎて感覚がないの」


 アリアがリーナの腕にも回復魔法をかけた。

 痺れが和らいでいく。

 握る力が戻ってきた。


「……ありがと、アリア」


「どういたしまして。ただし、無茶はしないでください。回復にも限度があります」


「分かってるわよ」


「よし! じゃあ出発だ!」


「カイト、少しは休んでからにしない?」


「俺は元気だぞ?」


「……あんただけね。元気なのは」


「ラッキーだからな!」


「カイトさん、ラッキーと体力は関係ないと思います……」


「データ的には、カイトの体力消費は他のメンバーの三分の一以下と推測されます」


「アリア、データ取ってたの!?」


「合流してからずっと取っています。カイトの異常性を記録する機会は逃しません」


---


 五人と一妖精が歩き出した。

 ナビゲーターがメルの肩から方向を指示する。


『次の分岐を右です。その先に、下層へ続く通路があります』


「ナビゲーターがいると楽だな。迷わなくて済む」


「カイト不在時は分岐で迷いました。ガッツで選びました」


「ガッツ!? 誰が!?」


「リーナが」


「……言わないでよ」


 リーナが顔を赤くした。


「リーナさんもガッツで選ぶんですね……カイトさんとそっくり」


「そっくりって言わないで!」


『お二人は似ていますね。データではなく、印象ですが』


「ナビゲーターまで!」


 通路を進みながら、賑やかな声が反響している。

 カイトがいるだけで、空気が違う。

 さっきまでの重苦しさが嘘のようだった。


「ナビゲーター、一つ聞いていい?」


 メルが小さな声で聞いた。

 カイトたちの賑やかな会話に紛れるように、ナビゲーターだけに聞こえる声で。


「この先に行けば……本当にお父さんを助けられる?」


『……禁則事項です。ただ——』


 ナビゲーターが少しだけ間を置いた。

 メルの肩の上から、メルの顔を見上げた。


『諦めなければ、道は開けると思います。これは禁則事項ではなく、私の意見です』


 メルが目を見開いた。

 ナビゲーターが——初めて、「私の意見」を言った。

 禁則事項でも、データでも、案内でもない。

 この小さな妖精の、個人的な言葉だった。


「……ありがとうございます」


 メルの声が震えた。

 でも——今度は泣かなかった。


『お礼には及びません。ナビゲーターとしての仕事です』


「それ、仕事じゃないですよね。個人的な意見ですよね」


『……気のせいです』


 カイトが振り返った。


「何話してんだ? 二人で」


「な、何でもないですよ!」


「ナビゲーター?」


『禁則事項です』


「絶対違うだろ!」


 全員が笑った。

 五人と一妖精。

 全員が同じ方向を向いている。

 メルの父を助けるための、最深部への長い道が始まった。

これにて第二部は終了です。

第一部に引き続き、第二部までお付き合いいただき、誠にありがとうございます。

第二部ではメルの背景が明らかになり、ナビゲーターも新たにパーティーに加わりました。

明日からは第三部がはじまります

ぜひぜひ引き続き、第三部もよろしくお願いします。

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