第23話 合流
ナビゲーターの案内で、カイトとメルは隠し通路を進んでいた。
『この先で通路が合流します。お仲間とは、ここで会えるはずです』
「マジか! もうすぐか!」
通路が開けた。
いくつかの通路がここに集まっている広い空間だった。
「ここで待ってればいいのか?」
『はい。別ルートで中層を進んでいれば、この場所に辿り着くはずです』
カイトが辺りを見回した。
まだ誰もいない。
「……カイトさん、そわそわしてますね」
「だってさ、みんな大丈夫かなって」
「心配してるんですか?」
「当たり前だろ。仲間だからな」
メルが小さく笑った。
通路の一つから——足音が聞こえた。
ふらついた、不規則な足音だった。
「来た!」
カイトが声を上げた。
暗い通路の奥に、三つの人影が見えた。
ボロボロだった。
一人は壁に手をついている。
一人は足を引きずっている。
一人はノートを抱えて歩いている。
「おーい! リーナ! セイ! アリア!」
カイトが手を振った。
三人が立ち止まった。
セイが——笑った。
疲れ切った顔に、安堵が広がった。
「……いたか」
アリアがノートを胸に抱えたまま、小さく息を吐いた。
「合流成功。記録します」
リーナは——何も言わなかった。
カイトを見た。
元気だった。
傷一つなかった。
一瞬——何かを堪えるような顔をした。
そして、走り出した。
---
「この——馬鹿!」
リーナがカイトの頭をぶった。
「いてっ!?」
そして、そのまま抱きついた。
「心配したんだから……!」
カイトが固まった。
「勝手に壁壊して、勝手に落ちて、勝手にいなくなって——!」
リーナが震えていた。
「二度とやらないで!」
「ごめんって! ごめん!」
カイトは、しがみつくリーナと目が合った。
リーナの目が、赤かった。
泣いてはいない。
泣いてはいないが、ギリギリだった。
「……あんたがいない間、大変だったんだから」
「大変? 何があったんだ?」
「モンスターと六体も戦ったのよ! あんたのラッキーなしで!」
「六体!? すげーな!」
「すごくない! 死ぬかと思ったわよ! あんたのラッキーがないとどれだけ大変か、身に染みたわ!」
「そんなに大変だったのか?」
「セイは肩に怪我してるし、アリアは魔力使い切りかけたし、あたしはメイス振りすぎて腕の感覚がないの!」
「……でも、勝ったんだろ?」
「…………勝ったわよ」
「じゃあすげーじゃん」
「…………」
リーナが言葉に詰まった。
しかし、悔しそうな顔ではなかった。
セイが追いついた。
「……カイト。無事でよかった」
「おう! セイも無事か!」
「無事だが、ボロボロだ」
セイが肩の傷を見せた。
浅いが、まだ血が滲んでいる。
「痛そうだな。大丈夫か?」
「ああ。これくらいなら問題ない」
「俺の方もモンスター出たんだよ。あいつら硬いよな!」
「そっちもか。やっぱり硬かったか」
「硬かった! 剣が全然通らねぇの!」
「こっちも同じだ。俺の大剣でも浅い傷しかつかなくてな。結局リーナのメイスが一番効いたんだ。打撃の方が衝撃が通る」
「へー。リーナすげーな。メイスで倒したのか」
「……すごいんだから。もっと褒めなさいよ」
「すげーすげー!」
「……もう……棒読みでいいのに」
リーナが顔を背けた。
耳が赤い。
「で、モンスター以外でそっちはどうだったんだ? メルと二人で」
「隠し通路を見つけたんだよ。壁の向こうに別の通路があって、そこを進んだ」
「隠し通路か……それで、メルとは……大丈夫だったのか? 二人きりで」
「大丈夫だったぞ。いいコンビだったよな、メル」
メルが顔を赤くした。
「コ、コンビって……」
「記録します。カイトとメルの二人行動中の関係性変化——」
「アリア、今それ記録する!?」
「貴重なデータです。カイト不在時のデータも取りましたので、カイト・メル間のデータも必要です」
アリアがカイトとメルに目を向けた。
「あとでしっかり聞かせてくださいね。二人とも」
「お、おう……」
カイトが気を取り直すように頭を掻いた。
「まあとにかく、メルが色々助けてくれたんだ。ナビゲーターの救出もメルのおかげだし」
「ナビゲーター? 救出?」
セイがメルの肩の上を見た。
『ナビゲーターとでもお呼びください』
「……喋った」
「セイさん、驚きますよね。あたしも最初驚きました」
『驚かれることには慣れております。数百年ぶりですが』
「またよく分からんのが増えたな……」
アリアが目を光らせた。
「あなたの存在は、魔法的にどう説明できるのですか? 妖精の身体構造は文献にも記載がないのですが」
『禁則事項です』
「……禁則事項?」
『はい。私について詳しくお伝えすることはできません。禁則事項が多いのです。不便ですが』
「データとして非常に興味深い存在ですね。後で調べさせてください」
『調べるのは構いませんが、お答えできるかは別問題です』
「それでもいいです。観察だけでもデータは取れますので」
『……この方、なかなか手強いですね。禁則事項で煙に巻けるか不安になってきました』
ナビゲーターがメルの耳元で呟いた。
「アリアさんは、そういう人です……。慣れてください」
『慣れることが禁則事項に含まれるかは、禁則事項です』
「……もうよく分かりません」
セイが腕を組んだ。
「まあ、味方なら助かる。道案内ができるんだろ?」
『はい。禁則事項以外であれば、どこへでもご案内できます』
「禁則事項以外であれば、って……それ、行けない場所だらけじゃないのか?」
---
リーナがメルの方を見た。
メルが——怯んだ。
目を伏せて、小さくなっている。
「…………」
リーナが——笑った。
「……無事でよかった。あんたも」
メルの目が見開かれた。
「リーナさん……」
「あの馬鹿と二人きりで大変だったでしょ」
「大変でした……。でも、カイトさんが——」
「分かってる。あいつ、ああ見えて頼りになるのよ。まぁ、たまにだけど」
「たまにって……」
「いつもは馬鹿よ。でも、たまに」
リーナがカイトの方を見た。
カイトはセイと何か話している。
のんきに笑っている。
いつも通りだった。
リーナが呆れたような、でも嬉しそうな顔をした。
「……あんた、カイトを助けてくれたんでしょ。壁が崩れた時」
「え? あ、あれは、咄嗟に——」
「ありがとう」
メルが固まった。
「……え?」
「殺そうとしてた相手を、咄嗟に助けたんでしょ。それは——本物よ」
メルの目が潤んだ。
「リーナさん……」
「泣かないでよ。あたしだって泣きそうなんだから」
「あ、あたしたちも大変だったんですよ! カイトさんと二人きりで、モンスターと戦って……」
「二人で戦ったの?」
「カイトさんが戦って、あたしは叫んだだけですけど……」
「叫んだだけって、それ大事よ。あたしも今日、叫びまくったわ」
「リーナさんも……?」
「ええ。叫ぶ相手がいるって、大事なことなのよ」
メルが小さく笑った。
リーナも笑った。
二人が並んで笑っている。
少し前までは考えられなかった光景だった。
---
「で、これからどうするのよ?」
リーナが全員を見回した。
五人と一妖精。
全員がここに揃っている。
カイトが笑った。
「決まってるだろ。先に進むんだよ。全員揃ったんだから!」
「……あんたは本当にブレないわね」
「ブレる理由がないだろ?」
リーナが呆れた顔をした。
でも——口元は笑っていた。
隣でメルも笑っていた。
セイが苦笑していた。
アリアがノートに何か書いていた。
騒がしくて、バラバラで、まとまりがない。
でも——これが、このパーティーのいつもだ。
ようやく、全員が揃った。
いつもの、騒がしい光景が、戻ってきた。




