第22話 リーナの戦い(3)
「いつもあいつがいると楽だったんだって、こういう時に気づくのよね……!」
―― 幼馴染の苦戦
次のモンスターは三体だった。
通路の奥から、三体のモンスターが這い出してきた。
「…………」
セイが唇を噛んだ。
「……多いな」
「データ上、これまでの消耗を考えると——」
「言わないで。分かってるから」
リーナがアリアを止めた。
数字で言われなくても、体が分かっている。
限界が近い。
「リーナ。俺が二体引きつける。お前は一体を」
「……二体? 無茶よ」
「無茶でもやるしかない。アリアの魔力は温存してくれ。ここで使い切ったら、この先がない」
「……でも」
「アリア。お前は頭を使え。データを取って、弱点を教えてくれ。それが今の状態では一番の援護だ」
アリアが少し目を見開いた。
それから——決心をしたように頷いた。
「……分かりました。観察に徹します」
杖を下ろし、ノートを構えた。
セイとリーナの二人で、あのモンスター三体を相手にする。
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セイが正面に飛び出した。
大剣を振り回し、二体のモンスターの注意を引く。
「こっちだ!」
二体が同時にセイに向かった。
セイが大剣で一体目の突進を受け止める。
腕が悲鳴を上げた。
もう何度目か分からない衝撃だった。
大剣を握る手が滑りそうになっている。
二体目が横から突っ込んでくる。
セイが体をひねって避けた。
疲労で体の回転が遅い。
間一髪だった。
大剣を振り回し、二体目の鼻先を掠める。
牽制だ。
深く斬ることは、もうできない。
「くっ……!」
二体同時は、さすがにきつい。
片方を押さえている間に、もう片方が攻撃してくる。
何度かかわし損ねた。
肩に爪が掠めた。
浅い傷だが、回復手段がない。
セイが壁を背にして、二体を正面に捉えた。
退路はない。
だが、二体の攻撃方向を正面に限定できる。
「……来い」
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リーナは、一体と向き合っていた。
メイスを構える。
「来い!」
モンスターが突進してきた。
リーナが横に跳ぶ。
すれ違いざまにメイスを叩きつける。
ガン。
よろめいた。
しかし、止まらない。
すぐに体勢を立て直して、リーナに向き直る。
「しつこい!」
リーナがまたメイスを振る。
モンスターの前足に当たった。
よろめく。
もう一発。
側面。
もう一発。
頭部。
何度も。
何度も叩きつける。
一撃では倒せない。
でも、一撃ずつ確実に効いている。
モンスターが怒って尻尾を振ってきた。
リーナが屈んで避けた。
今度はタイミングが読めた。
前の戦闘で覚えた。
尻尾の後は一瞬だけ隙ができる。
そこにメイスを叩き込む。
ガン!
今までで一番重い音がした。
モンスターがよろめいた。
体が覚えている。
どこに当てれば効く。
どのタイミングで振れば当たる。
二戦目、三戦目と重ねるたびに、体が自然に動くようになっていた。
これがカイトのラッキーではなく、自分の経験で掴んだ感覚だった。
「いつもあいつがいると楽だったんだって、こういう時に気づくのよね……!」
メイスを振り上げる。
腕が叫んでいる。
もう限界だと。
知ってる。
分かってる。
「でも——!」
渾身の一撃。
モンスターの腹部に、メイスが叩き込まれた。
今までで一番深く、一番重い一撃だった。
「あいつがいなくても、あたしたちは戦える!」
モンスターが崩れ落ちた。
リーナの一撃で。
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セイはまだ二体を同時に相手にし続けていた。
大剣の重さが、腕に食い込んでいく。
振るたびに腕が悲鳴を上げる。
一体の突進を受け止めた瞬間、もう一体が横から来た。
避けきれない。
「セイ!」
アリアが杖を構えた。
「撃ちます!」
魔法の光が横から来たモンスターに直撃した。
モンスターがひるむ。
その隙にセイが後退した。
「……すまん、助かった」
「温存しすぎても意味がありません。使うべき時に使います」
セイが体勢を立て直した。
大剣を回転させる。
二体同時に刃が掠める。
二体ともよろめいた。
その隙に——リーナが飛び込んできた。
自分の一体を倒したリーナが、すぐにセイの援護に回ってきた。
「セイ、左!」
リーナがメイスで左のモンスターを殴りつけた。
セイが右のモンスターに大剣を叩き込む。
二人の連携だった。
打ち合わせなんてしていない。
カイトがいない。
ラッキーもない。
アリアの魔法もない。
ただ、二人の息が合っていた。
一緒に戦い続けた時間が、言葉よりも確かだった。
「リーナ! 左のモンスター、右側面が空いてます! 今です!」
アリアが叫んだ。
観察に徹していたアリアが、隙を見つけていた。
リーナが右側から飛び込んだ。
ガラ空きの右側面にメイスを叩き込む。
モンスターが大きくよろめいて、横倒しになった。
腹部が見えた。
そこにもう一発。
「セイ! 右のモンスター、首の付け根の突起が一本折れてます! そこだけ防御がありません!」
セイが大剣を振りかぶった。
「見えた!」
折れた突起の隙間に、大剣の切っ先が吸い込まれるように入った。
二体のモンスターが崩れ落ちた。
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「…………」
静かになった。
通路に、三人の荒い息だけが響いている。
セイが大剣を地面に突き刺し、その場に膝をついた。
「……限界だ」
リーナがメイスを取り落とした。
握る力が残っていなかった。
メイスが石畳に落ちて、乾いた音を立てた。
壁にもたれて、ずるずると座り込んだ。
しばらく誰も話せなかった。
息を整えるのが精一杯だった。
「……勝った、わね」
リーナが、ようやく言った。
「勝ったな」
セイが、ようやく返した。
アリアも壁に背をつけて座り込んだ。
杖を膝に立てかけている。
「……アリア、魔法とあの指示、助かったわ」
「魔法は一発だけです。あとは観察しかできませんでした」
「その観察が勝因よ。あんたが隙と弱点を教えてくれなかったら、倒せなかった」
「……ありがとうございます。記録します。カイト不在での三体同時戦闘、勝利。討伐手段——セイの剣技、リーナのメイス、アリアの観察。三人の連携」
「……自分もちゃんと入れてるのね」
「事実ですので」
「……実力、か」
セイが小さく笑った。
「ラッキーじゃなくて、実力だけで勝った。パーティーを組んでから初めてじゃないか?」
「……そうかもね」
リーナも笑った。
ボロボロだった。
全身が痛い。
メイスを持つ腕はもう上がらない。
でも——嬉しかった。
カイトのラッキーではなく、自分たちの力で勝った。
それが、こんなに嬉しいとは思わなかった。
「あいつに頼りっぱなしじゃダメだわ。あたしたちだって、強くなれる」
「……お前がそれを言うのは意外だな」
「うるさい!」
いつもの声が戻った。
怒鳴る相手はカイトじゃないが、声が出るだけでいい。
アリアがノートに書き込んだ。
「結論。カイト不在でもパーティーは機能する。ただし消耗は通常の三倍以上。推奨しません」
「推奨しないって……」
「カイトがいた方がいい、というのは事実です。ただ、いなくても戦えるのもまた事実です。今日、それが証明されました」
「……そうね。両方、事実よね」
セイが立ち上がろうとして、よろめいた。
リーナが手を差し出した。
「ほら」
「……悪い」
セイがリーナの手を取って立ち上がった。
「カイトに言ったら笑われるわね。セイを引っ張り上げるリーナなんて」
「笑うだろうな。あいつは」
「でも、それでいいの。あいつが笑ってくれるなら」
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通路の先に——光が見えた。
見覚えのない、淡い光だった。
「何あれ?」
「分かりません。ただ……自然光ではないですね」
「行ってみるか」
三人が立ち上がった。
体が重い。
セイの肩には浅い傷が残っている。
リーナの腕はもう感覚がない。
アリアの魔力もまだ完全ではない。
万全には程遠い。
でも——進む。
ここまで来たのだ。
きっと、あと少し。
光に向かって、三人が歩き出した。
足取りはふらふらだった。
だが、一歩ずつ確実に前に進んでいた。
「……あの光、何かしらね」
「行けば分かる」
「……それ、カイトの台詞よ」
「ああ。借りた」
リーナが笑った。
今度は、苦笑いではなかった。
前を向いた、笑顔だった。




