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無自覚主人公がやらかしました ― ダンジョンで殺されるはずだったのに、なぜか攻略してしまう  作者: 智信
第二部

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第17話 気まずい二人

 隠し通路を歩き続けていた。

 カイトが先頭、メルが後ろ。


 メルは——ずっと黙っている。

 何か話さなければと思うのに、言葉が出てこない。


「……あの」


「ん?」


「私……あなたを殺そうとしてたんですけど……」


「うん。知ってる」


「…………」


「で?」


「……で、って何ですか」


「いや、それがどうしたのかなって」


「どうしたって……普通、殺そうとした人と二人きりになったら怖くないですか?」


「怖い? なんで?」


「なんでって……!」


 メルが言葉に詰まった。


「だって、もう殺す気ないんだろ?」


「ないです!」


「じゃあいいじゃん」


「よくないです! 普通はもっと怒るとか、警戒するとか——」


「なんで? メルはメルだろ」


「…………!?」


 メルが目を見開いた。

 怒りも警戒もなく、ただ「メルはメル」と言われてしまった。


「だってさ、メルはもう仲間なんだろ? なら前のことは前のことだ」


「……な、仲間って、そんな簡単に……」


「簡単だろ。難しく考える方がおかしいぞ」


 メルは絶句した。

 この人の思考回路が理解できない。

 怒りも、恨みも、警戒もない。

 ただ「もう仲間なんだろ?」——それだけだった。


「……私のこと、なんで信じられるんですか?」


「何が?」


「殺そうとしてた私を仲間って……また裏切るかもしれないのに」


「え、裏切るの?」


「裏切りません!」


「じゃあ平気じゃん」


「…………」


 メルは黙った。

 この会話は、どう転がしても自分が勝てる気がしなかった。


---


 しばらく歩いた。

 通路は狭いまま、緩やかに下っている。

 空気がさらに冷たくなっていた。


「なあ、メル」


「は、はい」


「メルの父ちゃんって、どんな人なんだ?」


「……お父さん、ですか?」


「うん。魔王になっちゃったって言ってたけど、元はどんな人?」


 メルが少し考えた。


「……優しい人です。村のみんなに慕われていて。ちょっとポンコツで」


「ポンコツ?」


「はい。大事な会議の日に寝坊したり、村長の印鑑をなくしたって大騒ぎしたり」


「はは、面白い父ちゃんだな」


「お母さんにはいつも怒られてます。でも、怒られても笑ってて……村のみんなもそんなお父さんが好きで……」


 メルの声が柔らかくなった。

 父のことを話すとき、メルの目は少しだけ明るくなる。


「お父さんは争いが嫌いなんです。村の揉め事も、いつも話し合いで解決してて。魔王なんて……似合わないんです」


「似合わない魔王か。面白いな」


「面白くないです。お父さんは本当に苦しんでるんです。魔王城から一歩も出られなくて、村のみんなにも会えなくて……」


「村のみんなは知ってるのか? 村長が魔王になったこと」


「……知りません。お母さんと私だけです。村にはお父さんが病気で療養中だって伝えています」


「そっか。大変だな」


「はい……。でもお父さんは、自分のことより村のことを心配してて。いつも『村は大丈夫かなぁ……みんな元気にしてるかなぁ……』って独り言を呟いてるんです……」


 メルの目がまた潤みかけた。

 だが、今度は堪えた。


「ああ、ごめんごめん。でもさ、すげーいい父ちゃんじゃん。なら絶対助けないとな」


 カイトが振り返って笑った。


「……はい」


 メルは——その笑顔を、まっすぐ見つめて、笑い返した。


---


 通路が少し広くなった。

 壁の模様が変わっている。

 中層の通路にあったものとも、上層の荒い岩肌とも違う。

 何かの文字が刻まれていた。


「なんだこれ。模様?」


「文字みたいですけど……読めません。アリアさんなら分かるかもしれません」


「アリアかー。今いないんだよな」


「はい……でもこの文字、魔王城で見たものと似ています。同じような模様もありますね」


「やっぱり関係があるんだな、ここと魔王城」


「……もしかしたら、この先に何か重要なものがあるのかもしれません」


「よし、急ごう!」


「急ぐのはいいですけど、また転ばないでくださいね」


「転ばないって! ……たぶん」


「たぶんって言わないでください!」


 カイトがまた歩き出した。

 メルが後を追う。


 通路の先が少し開けていた。

 広い空間に出た。

 天井が高い。


「でけぇ……」


 広間の奥は闇に沈んでいる。

 足音が反響して、空間の広さを物語っていた。


「こんな場所があったんだな」


「隠し通路の先に広間……何のためにあるんでしょう」


 その時——闇の中から低い唸り声が聞こえた。


「……モンスターか」


 カイトが剣を抜いた。


 モンスターが現れた。

 中層で戦ったものと同じ灰色の体表。

 だが一回り小さい。

 その分、動きが機敏だった。


「メル、後ろにいろ!」


「は、はい!」


 メルが壁際に下がった。

 カイトがモンスターに向かっていく。


 モンスターが突進してきた。

 カイトが横に跳んで避けた。

 剣を振るう。

 体表に弾かれた。


「硬い! やっぱこいつも硬いのか!」


 一回り小さいぶん、動きが速い。

 カイトが攻撃をかわし続ける。

 だが決定打がない。

 腹部が弱点なのは分かっている。

 だが腹の下に潜り込むには、前回はセイが正面で押さえ、アリアが魔法でひるませた。

 今は誰もいない。


「腹を狙いたいけど——一人じゃ押さえられねぇ!」


 カイトが一人でモンスターと向き合っている。


 メルは壁際で震えていた。

 何もできない。

 戦闘力がない。

 足手まといだ。


 ——でも。


「カイトさん! 右から来ます!」


 メルが叫んだ。

 モンスターが右から回り込もうとしていた。

 カイトが振り返り、ぎりぎりで避けた。

 避けた拍子に足元の石が転がり、モンスターの右前足の下に入った。

 モンスターがそれを踏み、体が右に傾いた。

 左側の腹が大きく開いた。


「ナイス! 助かった!」


「左が開いてます! 今です! 腹の下に——」


「おう!」


 カイトが左に回り込んだ。

 モンスターが体勢を崩した隙に、腹の下に滑り込む。

 今度は転んだわけではない。

 ——半分は転んだが、半分は狙っていた。

 あの「攻撃的転倒」が、本当に技になりつつあった。


 剣が腹部に刺さった。

 モンスターが悲鳴を上げて崩れ落ちた。


「……やった」


 カイトが息を切らしながら立ち上がった。

 全身汗だくだった。

 仲間なしで戦うのは、やはりきつい。


「メル、すげーな! 声かけてくれたおかげで避けられた!」


「わ、私、何もしてないです……叫んだだけで……」


「叫んだだけって、それが助かったんだよ。ありがとな!」


 メルの目が潤んだ。

 殺そうとした相手に、庇われた。

 殺そうとした相手に、感謝された。

 そして——殺そうとした相手と、一緒に戦えた。


 ほんの少しだけ。

 叫んだだけ。

 でも、それがカイトの役に立った。


 ——この人は、本当に何なんだろう。

 そして、この人の隣にいる自分は、何なんだろう。


---


 モンスターを倒して、広間を抜けた。

 通路がまた狭くなっている。


「なあ、メル」


「はい?」


「さっきの声かけ、すごく助かった。二人で戦えるんだな、俺たち」


「戦えてません! 私は叫んだだけです!」


「でもさ、一人だったら右から来るの気づかなかった。メルがいたから避けられた」


「…………」


「俺が戦って、メルが見る。いいコンビだな」


「コンビって……」


 メルは何も言えなかった。

 殺そうとしていた相手と、一緒に戦った。

 ほんの少しだけ——役に立てた。

 コンビと呼ばれた。

 嬉しいのか、困るのか、恥ずかしいのか、自分でも分からなかった。


 通路の奥から、かすかな光が見えた。


「お、何かあるぞ!」


「光……? 何の光ですか?」


「行ってみよう!」


 カイトが駆け出した。

 メルが慌てて追いかける。


 光が少しずつ近づいてくる。

 淡い輝きだった。

 温かくもなく、冷たくもない。

 今まで見たことのない、不思議な光だった。

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