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無自覚主人公がやらかしました ― ダンジョンで殺されるはずだったのに、なぜか攻略してしまう  作者: 智信
第二部

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第16話 壁の向こう

「瓦礫で通れない!——ちょっと!? 大丈夫!?」

―― パーティー分断


「なんで私まで落ちるんですかぁ!?」

―― 壁崩壊の巻き添え

「……別の、方法?」


 メルが震える声で聞き返した。


「殺す以外に、何かあるかもしれないだろ。俺を殺さなくても、父ちゃんを助ける方法が」


「そんなの……あるんですか?」


「知らん。でも探す前から諦めるのは嫌だ」


 カイトが笑った。

 いつもの、何も考えていないような笑顔だった。


「冒険者はあきらめないんだぞ」


 メルの目から、また涙が溢れた。

 今度は——さっきとは違う涙だった。


「…………っ」


 声にならなかった。

 ただ、泣いた。


 セイがカイトの隣に立った。


「……お前は本当に、とんでもない奴だな」


「え? 何が?」


「何がって……自分を殺そうとした奴の父親を助けようとしてるんだぞ」


「だってメルは悪い奴じゃないだろ。父ちゃんを助けたかっただけだ」


「そういう問題じゃないと思うけどな……」


 セイが苦笑した。

 だが、剣の柄から手を離したまま、もう警戒はしていなかった。


「……あたしは、まだ許してないからね」


 リーナがメルに言った。

 声は厳しかった。

 だが、手は差し出していた。


「でも、カイトが決めたなら——仕方ないわ」


 メルがリーナの手を見つめた。

 震える手で、その手を取った。


「……ありがとう、ございます……」


「お礼はいいわよ。あたしが許したと思わないでよね」


「はい……はい……!」


 メルがまた泣き出した。

 今度は、リーナの手を握ったまま。


---


 メルが泣き止むまで、しばらく待った。

 誰も急かさなかった。


「さて」


 セイが声を上げた。


「方針は決まった。メルの父親を助ける別の方法を探す。問題はどうやって探すかだが……」


「あの……ずっと気になっていたんですけど」


 メルが小さな声で言った。


「さっきのあの大きな扉……デザインが魔王城の城門にそっくりなんです」


「魔王城と?」


「はい。模様も、石の色も……偶然とは思えなくて」


「つまり、このダンジョンは魔王城と何か関係があるってことか」


 セイが腕を組んだ。


「だとすれば、この先に何かあるかもしれません。魔王城と繋がりのある場所なら、魔王に関する手がかりが残っている可能性があります」


 アリアがノートを開いた。


「戻るより、先に進んだ方がいいってことか」


「少なくとも、ここまで来て引き返しても何も得られません」


 アリアがノートをめくった。


「よし! 行くぞ!」


 カイトが立ち上がった。

 さっきまでのシリアスな空気が、一瞬で吹き飛んだ。


「……あんた、切り替え早すぎない?」


「だって立ち止まってても始まんないだろ?」


「それはそうだけど……」


 リーナがため息をついた。

 でも、少しだけ笑っていた。


 メルが涙を拭いて立ち上がった。

 目はまだ赤かったが、さっきまでの絶望は消えていた。

 小さな希望が、そこにあった。


---


 全員で通路を進み始めた。

 カイトが先頭を歩いている。

 いつも通りだった。


「なあ、この壁の模様って何だろうな」


「触るなよ」


「触らないって。見てるだけ——」


「あんたの『見てるだけ』は——」


 カイトの足がもつれた。


「うおっ!?」


 転んだ。

 頭から壁に突っ込んだ。


 ガッ。


 鈍い音がした。

 壁にヒビが入った。


「……え?」


 ヒビが広がっていく。

 壁全体に亀裂が走った。


「やば——」


 壁が崩れた。


 崩壊が連鎖した。

 天井の一部が落ちてくる。

 床が揺れた。

 通路全体がきしむ音を立てている。


「全員、逃げろ!」


 セイが叫んだ。


 リーナが後ろに飛んだ。

 セイがアリアを引っ張って後退する。

 アリアのノートが宙を舞った。


 カイトが崩れた壁の向こうに落ちていく。


「カイトさん!」


 メルが咄嗟に手を伸ばした。

 カイトの腕を掴んだ。

 だが、引き上げる力はなかった。

 そのままカイトに引きずられて——


「うわぁぁぁ!?」


 二人一緒に、壁の向こう側に落ちた。


 瓦礫が通路を塞いだ。

 崩壊が収まった。

 粉塵が舞っている。


---


「カイト!? メル!?」


 リーナが瓦礫に駆け寄った。

 岩と石の壁が、通路を完全に塞いでいる。


「瓦礫で通れない!——ちょっと!? 大丈夫!?」


「大丈夫だー!」


 瓦礫の向こうから、カイトの声が聞こえた。

 元気だった。


「こっち、別の通路がある! 広いぞ!」


「なんで私まで落ちるんですかぁ!?」


 メルの泣き声も聞こえた。


 リーナが瓦礫を押してみたが、びくともしない。


「こっちからも無理だ。天井ごと崩れてる。石の量が多すぎる」


 セイが瓦礫を調べた。

 剣で突いてみたが、崩れた岩が噛み合って壁のようになっている。


「魔法で壊せますか?」


「この量を吹き飛ばすには……さっきの石板以上の硬度です。私の魔力では無理ですね」


 アリアが首を振った。


「カイト! こっちから行けない! そっちの通路を進んで、どこかで合流しよう!」


「おう! 分かった!」


「分かったじゃないわよ!」


 リーナが瓦礫を殴った。

 拳が痛いだけだった。

 もう一発殴った。

 やっぱり痛いだけだった。


「……殴っても開かないぞ」


「分かってるわよ!」


 リーナの声が震えていた。

 怒りではなかった。


「あいつ、いつもこうなの。勝手に突っ走って、勝手にいなくなって……心配させて……!」


「……リーナ」


「大丈夫よ。あいつはラッキーだから、何があっても大丈夫。……大丈夫に決まってる」


 リーナが拳を下ろした。

 深呼吸した。


「追いかけるわよ。別ルートで!」


「そうするしかないな。アリア、この先に別の通路はあるか?」


「分かりません。ただ、これだけ広い中層なら通路が一本だけとは考えにくい。どこかで合流できる可能性はあります」


「よし。急ぐぞ」


---


 瓦礫の向こう側。


 カイトが立ち上がって服の埃を払っていた。

 メルは地面に座り込んだまま、呆然としていた。


「大丈夫か、メル?」


「大丈夫じゃないです……手を伸ばしたら一緒に落ちました……!」


「メルが掴んでくれたんだろ? ありがとな」


「……っ! べ、別に、咄嗟に体が動いただけで……!」


 メルが顔を赤くして目を逸らした。


「たまたまで壁が崩れる人、初めて見ました……」


「まあ、怪我はないみたいだし」


「怪我はないですけど、心臓が保ちません……」


「メルも心臓の話するのな。リーナとそっくりだ」


「リーナさんの気持ちが痛いほど分かります……」


 メルが立ち上がった。

 改めて見てみると、服が埃だらけだった。


 壁の向こう側は、中層の通路とは違う空間だった。

 石造りは同じだが、通路が狭い。

 天井が低い。

 薄い明かりが壁に反射して、奥まで照らしている。

 空気が違った。

 古い石の匂いではなく、かすかに何かの気配がある。


「ここ、さっきまでの通路と違うな」


「壁の裏側に、別の通路があったんですね……」


「隠し通路ってやつか? すげー!」


「すごくないです。落ちたんです」


「でも見つけたぞ! ラッキーだな!」


「ラッキーって言わないでください……リーナさんの口癖が移りそうです」


 カイトが通路の奥を覗き込んだ。

 道は奥に続いている。

 行き止まりではなさそうだった。


「とりあえず進むか。みんなと合流しないと」


「はい……」


 メルがふと周囲を見回した。

 セイもリーナもアリアもいない。

 カイトと、自分だけ。


「……二人きり、ですね」


「そうだな」


「…………」


 メルが黙った。

 カイトの後ろを歩きながら、視線を合わせられないでいた。

 さっき全部話した。

 罠のこと。

 殺そうとしていたこと。

 カイトは許してくれた。

 リーナも手を差し出してくれた。

 でも——二人きりになると、気まずさが一気に押し寄せてきた。


 カイトは——全く気にしていなかった。

 きょろきょろと周囲を見回しながら、のんきに歩いている。


「なあ、メル」


「は、はい!?」


「この通路、どこに繋がってると思う?」


「……分かりません」


「だよなー。まあ、行けば分かるか」


「カイトさんって、いつもそうなんですか?」


「何が?」


「行けば分かる、って」


「だって分かんないことを考えても分かんないだろ?」


「…………」


 メルは反論できなかった。

 間違ってはいない。

 間違ってはいないのだが、何か根本的に違う気がした。

 この人と一緒にいると、自分の中の常識が静かに揺らいでいく。


 カイトが歩き出した。

 メルが慌てて後を追いかけた。


 二人だけの足音が、狭い通路に響いていた。

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