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無自覚主人公がやらかしました ― ダンジョンで殺されるはずだったのに、なぜか攻略してしまう  作者: 智信
第二部

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第18話 モンスターのペット

「ナビゲーターとでもお呼びください」

―― ナビゲーター


「助けてください。禁則事項により自力脱出ができません」

―― モンスターのペット

 光に近づいていくと、通路の奥に小さな空間があった。

 岩壁に囲まれた窪みのような場所だ。


 その中に——光源があった。


 手のひらサイズの小さな妖精だった。

 淡い光を放っている。

 透き通った羽。

 銀色の髪。

 人形のように整った顔立ち。


 ——大きな蜥蜴型のモンスターに、抱えられていた。


「…………」


「…………」


 カイトとメルが同時に固まった。


 モンスターは灰色の体表をしていたが、中層で戦ったものとは全く違った。

 さっき戦った個体より二回りは大きい。

 なのに目つきが穏やかだった。

 攻撃的な気配がない。

 前足で妖精を包み込むように抱え、長い舌で妖精の髪を丁寧に梳かしている。

 母親が子供をあやすような仕草だった。


 完全にペット扱いだった。


「……こいつは戦わなくていいやつか?」


「……みたいですね」


「……なんだ、あれ」


 カイトが呟いた。


「か、可愛い……」


 メルがモンスターを見て呟いた。

 妖精ではなく、モンスターの方を。


 妖精が——こちらを見た。

 表情はない。

 機械的な、抑揚のない声が響いた。


『助けてください。禁則事項により自力脱出ができません』


「…………え?」


『聞こえませんでしたか? 助けてください。禁則事項により自力脱出ができません。二回言いました』


「いや、聞こえたけど……お前、一体誰だ?」


『ナビゲーターとでもお呼びください。事情は後ほど説明します。まずこの状況をなんとかしてください』


「状況って……そのモンスターに抱えられてるやつ?」


『はい。このモンスター、私の髪を梳かすのが日課でして。もう数百年ほどこの状態です』


「数百年!?」


 メルが叫んだ。


『正確には数百年と少しですが、途中から数えるのをやめました』


「数百年もペットにされてたのか!?」


『ペットではありません。不当な拘束です。ただし、このモンスターにその認識はないようです。非常に丁寧に扱われています。髪も毎日梳かしてもらっています。望んでいませんが』


「……なんか、複雑だな」


『はい。非常に複雑です。嫌ではないのが余計に複雑です。大切にされているのは分かります。ただ、禁則事項の確認作業ができなくて困っています』


「禁則事項って何だ?」


『禁則事項とは何かということも禁則事項です』


「…………」


 カイトが首を傾げた。

 メルも首を傾げた。

 二人同時に首を傾げている。


『お二人とも、同じ角度で首を傾げていますね。仲がよろしいようで』


「仲って——!」


 メルが顔を赤くした。


「まあ、仲間だからな」


「な、仲間って、さっきから……!」


『話が逸れています。助けてください』


---


「で、どうやって助けるんだ?」


 カイトがモンスターに近づいた。

 モンスターがカイトを見た。

 警戒の色はない。

 ただ、妖精を抱えたまま、じっとこちらを見ている。


「おーい、そこの妖精、離してくれないか?」


 モンスターが首を横に振った。

 はっきりと。

 迷いなく。


「……通じてるのか? 今、完全に首振ったよな?」


『言葉は通じませんが、意思は通じます。返したくないようです。愛着があるらしいので。非常に強い愛着が』


「愛着って……ペットだもんな」


『ペットは私ではなく、あちらの認識です。私は断じてペットではありません』


「でも髪、梳かされてただろ?」


『不本意です。が、抵抗する手段がありません。小さいので』


 メルがモンスターにそっと近づいた。


「あの……この子、触っても大丈夫ですか?」


『この子というのが私を指しているなら、触らないでいただきたい。モンスターを指しているなら、どうぞ。おとなしいです』


「モンスターの方です」


 メルがモンスターの頭をそっと撫でた。

 モンスターが目を細めた。

 尻尾がゆっくり揺れている。

 ナビゲーターを抱えたまま、メルの手に頭を擦り寄せてきた。


「可愛い……やっぱり可愛いです……! こんなに懐いてくれるなんて……」


「メル、モンスターに好かれやすいのか?」


「分かりません……でも、魔族だから……かもしれません」


『……私を抱えたまま他者に懐いているのは、なかなか複雑な気持ちです』


「カイトさん、このモンスター、全然怖くないですよ!」


「マジか。中層のモンスターは全部凶暴かと思ってた」


『個体差があります。この個体は穏やかですが、私を手放す気は皆無です。交渉では無理ですね』


「じゃあ力ずくか」


『おすすめしません。この個体、怒ると中層のどのモンスターより強いです』


「じゃあどうすんだよ!」


『何か別の方法を考えてください。私は助言ができません。禁則事項なので』


「禁則事項多すぎないか?」


『私もそう思います。不便です』


---


 カイトが腕を組んで考えた。

 珍しい光景だった。


「……なあ、メル。あのモンスター、メルに懐いてたよな」


「はい。撫でたら嬉しそうにしてました」


「なあ、ナビゲーター。お前を助けたら何かいいことあるのか?」


『あります。ご案内ができます。この場所について、多少の知識があります』


「多少?」


『多くの情報は禁則事項により開示できません。ですが、道案内くらいならできます。この先、お二人だけでは迷います。確実に』


「迷う自信はあるな」


「カイトさん、それは自信を持つところじゃないです……」


「じゃあ助けよう」


『お願いします』


 ナビゲーターが即答した。


 カイトがメルの方を向いた。


「なあ、メルがモンスターの気を引いてる間に、俺がナビゲーターを救出する。どうだ?」


「私が気を引く……ですか?」


「さっき撫でたら懐いてたじゃん。メルならいけるだろ。その間に俺がナビゲーターを掴んで引っこ抜く!」


『掴んで引っこ抜く。物のような扱いですね』


「あ、ごめん。丁寧に救出する!」


『丁寧にお願いします。小さいので壊れます』


 メルが深呼吸した。

 さっきの戦闘で叫んだだけだった自分が、今度は作戦の要になる。


「……分かりました。やってみます」


 メルがモンスターに近づいた。

 両手でモンスターの頬を撫でる。

 モンスターが気持ちよさそうに目を閉じた。

 前足の力が、わずかに緩んだ。


「今だ!」


 カイトが飛び出した。

 ナビゲーターに手を伸ばす——


 モンスターの目が開いた。

 前足でナビゲーターを抱え直し、カイトを尻尾で弾き飛ばした。


「うおっ!?」


 カイトが壁に叩きつけられた。

 背中から落ちて、地面で一回転した。

 尻尾一発でこの威力だった。


「いってぇ……!」


『言ったでしょう。怒ると強いです』


「先に言ってくれよ!」


『言いました。聞いていなかっただけです』


「もう一回!」


「カイトさん、作戦を——」


「大丈夫! 今度はもっと速く!」


「速さの問題じゃないと思います! 作戦を変えましょう!」


 カイトがまた飛び出した。

 メルがモンスターを撫で続ける。

 モンスターが気持ちよさそうにしている——と見せかけて、片目でカイトを見ていた。

 完全にカイトを警戒している。


 カイトが手を伸ばした瞬間、また尻尾で弾かれた。

 今度は天井にぶつかって、地面に落ちた。

 明らかに二回目の方が痛かった。


「くっそー! また弾かれた!」


「同じことやって同じ結果なの、当然では……」


『同感です』


 ナビゲーターが抑揚のない声で言った。

 だが、ほんの少しだけ——その小さな口元が動いた気がした。


「……今、笑った?」


『笑っていません。禁則事項により、感情の表出は制限されています』


「絶対笑ってた」


『気のせいです。さて、別の作戦を考えてはいかがでしょうか。同じことを繰り返しても結果は変わりません。これは禁則事項ではありません。常識です』

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