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無自覚主人公がやらかしました ― ダンジョンで殺されるはずだったのに、なぜか攻略してしまう  作者: 智信
第二部

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第12話 再アタック

「上層クリアしたと思ったら入口だった」

―― 強制転移の罠

 焚き火を囲んで、作戦会議が始まった。


「まず、分かっていることを整理します」


 アリアがノートを開いた。


「強制転移は中層への階段の三段目で発動。一段目と二段目は安全。発動すると全員がダンジョンの入口まで転移されます」


「上層クリアしたと思ったら入口だった、と」


「詠唱も魔法陣もなく、私の力では解除不可能です」


「つまり、普通に歩いたら入れないってこと?」


「はい。別のアプローチが必要です」


 セイが腕を組んだ。


「案を出そう。まず、走り抜ける。転移より速く通過できれば突破できるかもしれない」


「魔法で転移を遮断する。私の防壁で——」


「一人ずつ試すのはどう? 人数が関係するかもしれないし」


 カイトが手を挙げた。


「三段目を跳び越える!」


 カイトを無視して、リーナはメルに目を向けた。


「メルは? 文献にこういう罠の対処法とか書いてなかった?」


 メルは焚き火を見つめていた。

 一瞬、反応が遅れた。


「……え? あ、いえ……こんな罠のことは何も……」


 慌てて首を振ったが、目が泳いでいた。

 考えごとをしていたのだ。

 罠の対処法ではなく、何か別のことを。


 リーナはそれを見逃さなかった。

 だが追い詰めない。

 今はまだ。


「そう……っで、どれか成功すると思う?」


「正直、どれも確証はありません。相手は古代魔法です。試してみないと分かりません」


「結局やってみるしかないってことか」


「はい」


 カイトが大きな欠伸をした。


「……おい、聞いてるか?」


「聞いてる聞いてる。走ったり跳んだりすればいいんだろ?」


「雑すぎるわよ……」


「だってさ、考えても分かんないんだろ? なら明日やってみりゃいいじゃん」


「そういう問題じゃ——」


 カイトの目がとろんとしていた。

 ロバの方にずりずりと移動している。


「ちょっと、まだ話の途中——」


 カイトがロバにもたれかかった。

 三秒で寝た。


「……作戦会議中に寝るな」


「まあ、こいつは走る担当だからな。体力温存ってことにしておこう」


「前向きすぎない?」


---


 翌朝、早朝。


「よし、行くぞ!」


 カイトだけが元気だった。


---


 三度目のダンジョン突入。

 上層の罠はほぼ壊滅している。

 だが昨日と同じように、通路自体が長い。

 罠がなくても慎重に進めば一時間はかかる。

 前回と同じく、約一時間で上層を通過し、扉を抜け、通路を進んで下り階段の前まで到達した。


「案その一。全力で走り抜ける。転移の発動より速く通過すれば——」


 セイが全力で階段を駆け下りた。

 三段目を踏んだ瞬間——白い光。


 入口に立っていた。


「……ダメか」


「速度は関係ないようですね。記録します」


---


 四度目。

 今度はアリアが魔法の防壁を展開しながら進んだ。


「案その二。魔法で転移を遮断する」


 三段目。

 白い光。

 魔法の壁ごと転移された。


「……遮断できませんでした。転移の力が私の魔法を完全に上回っています」


「古代魔法の格が違うってことか」


「悔しいですが、そうです」


---


 五度目。


「案その三。一人ずつ別々に入る」


 セイだけが通路に入り、階段を降りた。

 三段目。白い光。


「……一人でもダメか」


「扉から階段までの通路に入った者すべてに反応する仕組みのようです。人数は関係ありません」


---


 入口に戻るたびに、ロバがカイトに嬉しそうに寄ってくる。


「こいつだけは毎回喜んでくれるな」


「喜ばれても困るのよ……」


 リーナがため息をついた。


 アリアがノートを見返した。


「走っても、魔法でも、一人でも——全て同じ結果です」


「じゃあ本当に詰みか?」


 セイの声が硬かった。


「次は俺の番な!」


 カイトが立ち上がった。


「あんたの番って、何するのよ」


「跳び越える! 扉の外から全力ダッシュで、階段を一気に飛び越える!」


「……それ、人間に可能なの?」


「やってみなきゃわかんねぇだろ!」


 カイトはもう走り出していた。


「ちょっと! また勝手に——!」


「行くぞー!」


「待ちなさいって言ってるでしょ!!」


 リーナが叫んだが、カイトはもう振り返らなかった。

 全員が慌てて追いかけた。


---


 六度目。

 上層の通過は——三十分だった。


 カイトが先頭で全力ダッシュした結果だ。

 角を曲がるたびに近道を見つけ、崩壊跡をショートカットし、前回まで気づかなかった横穴を通り抜けた。

 カイトのラッキーが全開だった。


 他の四人は息絶え絶えだった。

 セイは壁に手をついている。

 リーナは膝に手をついている。

 アリアはノートすら開けない。

 メルは座り込んでいた。


 カイトだけが涼しい顔で階段の手前に立っている。


「よし! 跳ぶぞ!」


「……ちょっと待って……息が……」


「待てない! 俺が先に行く!」


 カイトが扉の手前まで下がった。

 助走距離を取る。


「いくぞー!」


 全力ダッシュ。

 通路に飛び込もうとした——その瞬間、なぜか足がもつれた。


「うおっ!?」


 盛大につまずいた。

 跳ぶどころではなかった。

 そのまま通路に雪崩れ込み、勢いが止まらず階段を駆け降りていった。


「…………」


 全員が固まった。


「あっぶねー……失敗した! もう一回!」


 カイトが階段を駆け上がってきた。


「もう一回行く!」


「……あんた、今の状況分かってる?」


「分かってる! 跳べなかった! だからもう一回!」


 カイトがまた扉の手前に下がった。


「いくぞー!」


 再び全力ダッシュ——


「待ってください!」


 アリアが叫んだ。

 全員が止まった。


「……さっき、カイトが階段を降りた時。転移が発動しませんでした」


「……え?」


「三段目を踏んだはずです。駆け降りながら。でも転移されなかった」


 沈黙が落ちた。


「……本当だ。俺、入口に戻ってない」


「はい。カイトは階段を降りて、そのまま下に辿り着きました。転移が発動していません」


「なんで?」


 アリアが通路と階段を交互に見つめた。

 ノートをめくり、これまでの記録と照合している。


「……正直に言います。なぜ発動しなかったのか、分かりません」


「分からない?」


「はい。これまでの試行と何が違ったのか、現時点では解析できません。カイトの動きが特殊だったのか、タイミングの問題なのか、あるいは別の要因があるのか——」


「じゃあ次に降りたら発動するかもしれないってこと?」


「その可能性はあります」


 全員が黙った。


「ただ——」


 アリアが顔を上げた。


「カイトが降りて戻ってきた時、転移は発動しませんでした。少なくとも今は罠が機能していない。もし再び発動する可能性があるなら、動いていない今のうちに全員で降りるべきです」


「つまり、理由は分からないけど、今がチャンスだってこと?」


「はい。考えている時間はありません」


 アリアは冷静だった。

 いつも通りノートに書き込みながら、淡々と状況を分析している。


 セイだけが、その意味に気づいた。


「……待て。考えている時間がないってことは——」


「はい。いつ罠が復活するか分かりません」


「今すぐ降りろってことか!?」


「そう言っています」


「……全員走れ! 今すぐ階段を降りろ!」


「えっ!? 何!? 何が起きてるの!?」


「いいから走れ!」


 セイがリーナの腕を掴んで走り出した。

 アリアがノートを閉じて追いかける。

 メルは訳が分からないまま引きずられた。


 カイトはとっくに走り出していた。

 一番最初に階段を駆け降り、下で振り返っている。


「おーい! みんな遅いぞー!」


「あんたのせいよ!!」


 全員が階段を一気に駆け降りた。


 転移は——発動しなかった。


---


 階段を降りきった先に、五人が立っていた。

 六回の突入を経て、ようやくここに立っている。

 ここからが本格的な中層だ。

 古い石造りの静かな空間が広がっている。

 メルの文献にはモンスターの存在が記されていた。


 リーナがメルを見た。

 メルは中層の通路を見つめている。

 上層にいた時の、あの緊張——罠の発動位置を知っているような緊張——はない。

 代わりに、本物の不安が顔に出ていた。


 カイトはまだ元気だった。

 セイは息を整えている。

 アリアはノートに書き込んでいる。

 メルは——壁に手をついて、一人だけ俯いていた。


 リーナは一歩、メルに近づいた。


「……ねえ、メル」


 メルが顔を上げた。

 目が合った。

 リーナの目は、笑っていなかった。

 上層から中層まで、ずっと抱えてきた疑問を、今ここでぶつける。

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