のっとりは打破します
煌は国生みの神の生まれ変わりだ。
その誕生はもちろん、神に使える者であれば誰もが知っていた。
親となる者は悲しみの中で、その高貴なる赤子を差し出した。
強すぎる力は、常人には逆に害となる。
親となるものは、手放さなければならない事を、生まれる前からなんとなく、わかっていたのだ。
同様に美織もまた、国生みの神の生まれ変わりである。
この2人の力は強大である。
下手をすれば、世界さへものみこんでしまうほどの力を持っている。
この2人がこの国にいるということは、この国のものが、責任をもって守らなければならない。『命に変えても』、という言葉があるが、その通りに、皆そこを覚悟した上で守らねばならない。
2人はとても重要な存在なのである。
だから、組織として大切に隠さねばならなかった。
煌の元に行った花蓮だったが、特別な事をするまでもなく、煌の空気を感じただけで、穢れはすっかりとれた。
煌は滅多に言葉を発しない。
そこにもものすごい力が存在するからだ。
煌に手を振り、その場を離れた。
教会内に戻ってきた花蓮は、花音を探すべく、天のいる地下のサーバールームにむかった。
「あっ、もう大丈夫?」
花蓮に気づいた天が声をかけた。
「花蓮さんのおかげだね。こんなことになっていたとは。事前に調べることができてよかったよ。」
少し恥ずかしさを感じながら、もろもろの状況を聞いた。
「礼拝堂行ってみたら?。みんなそこにいると思うよ」
そこに並ぶ機器を片付けようとしているのか、いろいろな機器に手を触れながら、後ろにいる花蓮にむけていった。
「ねぇ、町のおじさんたち助けられそう?」
心配そうに眉を落とす姿に、少しキョトンと驚きながら
「きっと2人なら大丈夫だよ!心配してない。でも、万が一の時は、雷と風といるよ。心配しないで戦って来て」
年下の天の優しさに包まれながら、ニコッと笑顔で返した。
「ありがとう」
天の肩を優しく触り、その場を離れると上に上がった。
礼拝堂にあがる途中から、賑やかな声が響いて来ていた。
それは笑い声が大半で、その中にはムキになっている声も混ざっていた。
「おいっ!しずかにしろ!上ではまだ、先生達が作業してんだからさぁ!見つかったらお前らもちろん同罪だからな!」
時計の針は10時を過ぎていた。
普段はあまり、この場に出てこない2人が来ていた。
きのこの家に住んでいる、雷と風だ。
その風が、小学生2人を相手に、花音を交えてゲームをしていた。
「おい!ちゃんとみろよ!ほらっ、これなんだ?これなんだ?」
周りにいる子供達はその姿を見て大笑いしている。
腕を組みながら、1番後列で小さく笑う雷。
その後ろに花蓮がそっと立った。
その風を感じて、雷は振り返ると、さっと右に寄り、組んでいた右の腕を抜き、"どうぞ"というように左側を、指先までまっすぐに揃われた手のひらで示した。
それに気づいた花蓮は、小さく「ありがとう」
というと、雷はやさしく微笑み
「どういたしまして」
と、左の腕の中に右腕を戻し、腕組み直した。
そして、小学生を困らせている2人を眺めた。
眺めながら、隣に立った花蓮のために、説明した。
「あれね、どちらが表現力があるかの対決。風と花音が体で示すことを、小学生2人が当てられるかって。2人ともダメダメで面白いよ」
「似てるのね…中身…フッ。本当面白い。」
そんな穏やかな時間が流れていた時、警報が鳴った。
「津海喜町1.5丁目 合同庁舎内に悪魔が現れたもよう!急ぎ向かわれたし!」
教会内に響き渡る声は、教会内にいる生徒達にいつも以上の危機を感じさせた。
「ねえ、上にまだ先生達がいるわけよねぇ。どういう事?」
町全体の調和を戻すべく、鐘塔には2人の先生が引き続き、浄化作業を行っている。しかも、見つけた悪魔の力を抑える作業も行ったはずなのに、この緊張感はなんだろうと思った。
すると奥の扉が開き、加茂野宮先生と安倍野宮先生が入ってきた。
「花蓮、花音!今すぐ向かいなさい。麻宮先生と絹宮先生は呪咀返しで倒れられた。思ったより強敵だ。しかも、どうやら敵は1人ではなさそうだ。今回は悪いが雷と風、2人も共に向かいなさい。」
4人はそれぞれ街に向かうべく、行動を始めた。
「聖なる光を!」
と、花蓮と花音が輝いた変身の光に身を包まれている中、きのこの家にもどった雷と風は、「祓いたまえ、清めたまえ!」と神棚の前で手を合わせ唱えた。
神棚より光が放たれると、2人は宙返りを華麗に決め、戦闘用の狩衣姿となった。
リリー、マリーとなった花蓮と花音は、すでに現地に着いているが、ヤマトとタケルはこれから現地へと向かうのだった。
目的地である合同庁舎の目の前には駐車場があり、そこにリリーとマリーの2人は降り立った。
「なにこれ?なんだか全体的に気持ちが悪い」
全体を暗闇が覆っている。
問題のある場所は、いつも司令室の操作で異空間を作り上げ、そこに町ごと閉じ込める形にしている。
昼間か夜かは現実世界と変わらない状態のはずで、本来今は昼間であるはずが、夜のように暗い。
そしてその暗さも、ふつうの暗闇ではなく、なんとも気味の悪いドロっとした暗闇だった。
するとどこからか、2人に向けて声が聞こえてきた。
「お前たちがしている事は全て無駄なことだよ。わかっているかい?私を浄化して、この街を守ろうとしたんだろうけれども、そんな力は私には無意味だ。送ったプレゼントはちゃんと届いただろう?わざわざ来たんだ、少しは遊んであげよう…さぁ入っておいで」
それはとても生ぬるく、気持ちの悪い声だった。
マリー(花音)は、胸元にさがるロザリオを、徐に握りしめた。
それを見たリリーは、マリーが左の手に持つ大きなロザリオを、腕ごと胸元に強く押し付けて言った。
「この敵!めんどくさそうだけどいくよ!」
といった。
そしてマリーの手を引き、ズンズンっと庁舎の中に乗り込んで行った。
外と同様に、やはり中もどんよりしている。
生ぬるい空気が漂い、滑っとした感じが身体にまとわりつく。
『ご用件はなんですか。』
首から職員カードをぶら下げた男性が現れた。
顔は青白く生気がない。
そしてぶつぶつ、つぶやいている。
『働いても働いても…生きていても未来なんかない』
そういうと、その男性の身体は大きく後ろにそり返り、再び戻ってきた身体に付くその両腕の肘は、大きく三角を表すように左右に広がり、目の前の2人を今にも切り刻みそうに、手には大きなハサミを握っていた。その行動を即座に、リリーの後方で読み取ったマリーは、リリーの背中を掴み、力一杯後ろに引っ張った。
すると思った通りそのハサミは、いきなりマリーの顔を目掛けて突いてきたのだ。
引っ張っぱられたその勢いに、体を持って行かれそうだったが、態勢をもどし、低姿勢で伸ばした右足を軸に、身体を止めた。
床についた左手を拭おうと、床から手を離した時、
「これで拭いて!」
マリーがタオルを差し出した。
ありがとうと伝え、気にせず手を拭おうとした時、
「ん?これ…教会への寄付した人に渡す、『ありがとうタオル』じゃないの‥いつもらったの?。」
「そんな事!今はどうでもいいでしょ!寄付したのよ!!」
「えっ?マリーが寄付?どーやって?貯金もないのに?」
「うっ!!もーいいじゃない!!早く!敵きてるから!!」
煮え切らない思いのリリーだったが、瞬時に気持ちを切り替えた。
「不完全燃焼からの始まりですが…気を引き締めていきます。私達!シスターズシスター参ります!悪いですが、まだ先があるので、退治させていただきます!」
その声にマリーはすこしホッとして、身体を戦闘態勢にもどし、大きなロザリオから音を発した。その音は穢れが多ければ多いほどに、魔物には耐え難い音となる。が、今回のはそれほど多い穢れではないようだった。
なので、
「穢れ大き闇の者よ!急いでいるのでちょっと眠っいてね!」
そう言ったリリーの声に、マリーは左手に大きなロザリオを持ちながら、音により動きが低下している男性を思い切り蹴り上げ、たおした。
「ナイス!」
リリーのグットのサインに、マリーは勇気と元気をもらい、にこっと微笑むと、2人は次に向かった。




