のっとり打破〜戦闘中
前後を気にしながら足をすめる2人。
突き当たりになろうかと思われる目の前の壁を、L字に右に向くと、一般的な役所のフロアーがでてきた。
「小娘が2人とは、私も舐められたもんだ。お前たちのために、相手を用意してやった。こいつらが君たちの相手だ。私は忙しいのだ。さらばだっ」
「まて!!逃げるのか!」
マリーが、立ち去ろうとする田辺という皮を被った魔物に向かって叫んだ。
「ははっ。君たちの、そのバカな勇姿だけはかっておこう。お嬢さん、私は君が思うより遥かに強いぞ」
マリーは奥歯を噛み締め、グッと拳を握りしめた。
すると
「マリー。私は悔しいけど正直怖い、あいつをみて怖かった。みて、手がまだ震えてる。」
マリーの肩に手を乗せながら、リリーは自分が感じた恐怖に震えていた。
「多分相当強いと思う。私達が奴の力を見誤っている。それにみてあれ、相手を用意したって言っていたけど、みんな、魂を穢されたこの街の人たちだよ。」
その時だった。
姿のないその建物から、田辺の声が響いた。
「行け!我らの盾となり、刃となれ!」
よもや、ゆっくり考えている時間などなかった。
2人は向かってくる多勢に、傷つけることなく戦うしかない状況だった。
いつもの魔物のようには戦えない。
穢れの少ない街の人に、ロザリオの音波はもしかすると害になる。そう思ったマリーは前衛を請け負い、リリーに、聖なる書による清めを行うよう告げた。
そのことに同意したリリーは一度下がり、少し高い棚に登ると、聖書を開き、深く呼吸をすると、声に出して読み始めた。
「もし神が光の中に…」そう始まってまもなく、頭上に光のカーテンが現れ始めた。
それは皆を覆うように、美しい曲線を描いた。
そして、その光のカーテンから美しい光の粉が落ちてきた。
その光の粉が、皆の身体に付いたころ2人は顔を見合わせ頷き合うと、
「「ルーチェディヴィーナ!」」
と、叫んだ。
落ちていた光は一気にそれぞれの体から澱みを吸い上げ、上に持ち上がると、大きな淀んだかたまりとなった。
それを確認すると、
「マリー!!」花蓮は叫んだ。
「はいよっ!!」
大きなロザリオを振り上げながら、その塊に向かって飛び上がり、
「悪い心はこの私が!一刀両断清めます!!」
と、思い切り振り下げた。
その淀んだ光は叫びをあげ、消滅した。
心を奪われていた役所の人達は、自分を取り戻した。
だがまだ終わってないと、何かを感じた2人は、役所の人たちをしばらく眠らせておく為の呪文を、即座に唱えた。
空間がまだ、昼間の明るさを取り戻していない。
2人はその場を去り、移動を始めた。
この庁舎は3階建てである。
学校の様な横に長い建物だか、屈折しているところもあり、迷いそうな建物である。
2人は階段を上がり、敵を探す為に慎重に移動していたが、この建物の中をゆっくり探すのは、敵を逃してしまう、非効率だ。まず一旦隅に隠れた。
そして2人が付けている時計の様なもの、所謂リストウォッチの外側を巻き、教会である司令室に繋げた。
「こちらマリー。応答願う。敵の位置を教えて」
リリーが辺りを伺う。
どんよりとした空気は、そのまま漂っている。
「マリーちゃん!日向だよ。そこから東に3つ目の部屋にいって。その奥にも部屋があるから!悪魔はそこにいるよ。建物の中は、リリーちゃんとマリーちゃんお願いします。」
「わかった。ありがとう。ん?建物の中?外にもいるの?」
「大丈夫!建物の中はお願いね」
通信はぷちっと途切れた。
会話が終わったことを察した花蓮は、
「マリー場所わかった?急いで。」
腰を上げながら「わっ、わかった、わかった」
と、指示された部屋へ向かった。
入った部屋は何も無いフロアだった。
奥にあると言う部屋の扉は、スライド式の扉だった。
花音は壁際に、花蓮がゆっくりと扉を右に開こうとした。
ゆっくりと動かしながら、1センチほど開いた時.奥の主が声をかけた。
「君たち、安心して入ってきていいよ。私は何もしないし、君たち風に言うと、僕は良い悪魔なんだ。信じて良いよ。僕はこう見えて、結構信心深いんだ。」
扉を開いて見たその姿は、銀色の長い髪の男だった。
その男は、そこにある机の上に胡座をかいて座っていた。
2人は、そこに座って穏やかに眺める男のその言葉に、もちろん疑いをもった。
だからこそ前に進むべきか、その場で様子を伺いながら立ち止まっていた。
「あなたは誰なの!名前を言いなさい。ここをこんな風にする目的はなに!」
花蓮が声を上げた。
「そうかぁ。自己紹介がまだだったね。でも、君達もそうだよね。だけど、先に聞いてきた君たちから名前を言うのが普通だろう。僕が先に教えるのは礼儀としてどうなんだい?おかしいよね?さあ、どうぞ。シスターズ」
その言葉を聞いて、睨みつけたリリーの後ろから、マリーが勢いよく飛び出した。
「お前に教える名は無いわ!!神の裁きを受けるがいい!」
向かっていったが、敵はふわりと座っていた机から後退した。
「君たちは何か、勘違いをしているのではないかい?よく考えたまえ。世界はなんと言ってる?世界が明るくなってほしい。明るい未来が来てほしい。君達はいつも負を背負い、負の感情と共に世界を作ってきた。負の思いは強く、宇宙に届き叶えられやすい。陽を気取る偽善者たちよ!お前達こそ、我が王に裁かれるべきだ」
グッと奥歯を噛み締め、拳を握りしめてその場に立ち尽くす、リリーとマリー。
すると徐に、リリーが深呼吸を始めた。
2度深く深呼吸した後、聖書をひらいた。そして、
「(私は世の光である。私に従うものは決して暗闇の中を歩むことはない。命の光を持つのである。)
私たちは決して、負をのみを背負うものではない。もともと光をもって生まれてきたのが人です。ただ、光だけでは生きてはいけない。影もあるからこそ、私たちは輝くのです。あなたたちは闇のみを愛し、人をその道にのみ進ませる悪魔です。全く異なる!!お互いを尊重する、美しさのある陰を私たちは求める。あなたはここにいてはいけない。あなたたちの世界へ今すぐ帰ってください。」
そう言い放つと、聖書を閉じた。
「光!笑わせるなぁ。今、私に向けている君たちの感情。それはなんだい?分かっているんだろう?ちょっと期待しちゃっていたから、この展開にとてもがっかりだよ。次はあるかわからないけど、いや、君たち次第かな。君達は僕達に感謝する時が来ると思うよ」
「「!!」」
その悪魔は、リリーとマリーに見切りをつけ、きみの悪い笑みを浮かべ、その場から消えていった。
どんよりした空気の余韻だけが、そこに残った。
「なんか、気持ちの悪い終わり方だった」
リリーは立ち尽くし、息を吐くようにそういった。
「何か無性にむかついた。しかもあいつ、名前言わなかった。」
逆にマリーはカリカリしていた。
「とりあえず、ここは終わったから下に戻ろう」
「そうだね」
下にはまだ、眠らせたままの人たちが、そのままの状態になっている。田辺も去り、先程のものも去り、戦いは不完全燃焼に終わった2人は、未だすっきりしない空気を感じていた。
周りは明るさを取り戻してはいない。
「確か、ヤマトとタケルも来てるんだよね」
マリーはリリーにそう聞くと、
「確かにそうね。でも屋内には居る感じがなかったから、もしかしたら外にいるのかも」
2人は急いで外に向かった。
入り口の、ガラス扉を2人で開けようとした時、戦闘の空気を感じた。
そこには、花蓮と花音には、あまり見ることのない狩衣姿の2人が、それぞれ離れた位置で中心にいる敵に向かい、戦闘態勢に入っていた。
「天地清浄、内外清浄、六根清浄、心性清浄、我が身は六根清浄なるが……」
鎖で縛りつけたその邪悪なものへ、ヤマトは鎖に悪霊祓いの言葉をのせるように唱えていた。
「その穢れた魂よ!!この神風にのせてふきと飛ばしてくれるわぁー!!コォノォやろー」
タケルは斜め上から敵前に向かって、思い切り扇を振り下げた。
2人の相手は驚くことに、最初に逃した田辺だった。
ただ、田辺と呼ばれていた役人姿とは、すっかり変わり、形相やその体つきを含め、本性を表した鬼人となっていた。
少々残るその田辺の姿の名残に、本人だとわかった。
「やだっ!びっくり。見てくれ変わってるけど、あれ、田辺じゃん!逃げたと思っていたけど、捕まえてくれていたんだぁ!すごい!あの2人」
花音は感動しながらも、勢いある2人の戦いに目は釘付けになっていた。
「本当にすごい。私達が震えて動けなかった相手を、たじろぐこともなく勇敢に向かって行っている。男の子の戦いってすごい。」
花蓮は、2人の戦いぶりに心奪われるように、見惚れていた。
魔物を退治するその動きも、印も、初めて見る悪霊祓いの2人の戦いが、花蓮にも花音にも、美しく見えていた。
そのような、かっこいい姿を見せられたら、ときめいてしまう、そんなお年頃な娘たちである。




