ヤマトとタケル〜俺たち和製のエクソシストっす と仲間たち
深夜0時を過ぎた頃、奴らは動き出した。
静かになった歓楽街を、ヨタヨタと涎を垂らして歩き出す。
目はどこを向いてるのかわからない。
時折散乱しているゴミにつまづき、恐ろしい唸り声をあげる。
闇夜を彷徨う魔物に取り憑かれた、哀れな者の姿だった。
「金髪だなぁ」
その姿を眺めながら佇む青年がいた。
白い装束を纏い、先端に楔のついた鎖を持ったこの青年、名前をヤマトという。その横に、紫色の装束を纏い、大きな扇を持ち、悔しそうな顔で佇んでいる青年、名前をタケルという。
「金髪だ。モテモテだったのかなぁ、くそぉー!そーだったら羨ましいー。」
そのようにいったタケルの言葉を聞いて、ヤマトは戦闘態勢に入りながら、
「あーなったら意味ないっしょ」と、普通に返した。
「タケル!そろそろ行くよ!」と再び声をかけると、タケルも戦闘態勢にはいった。
「承知!」
即座に印を構え、穢れを払う祝詞を、ヤマトは唱えはじめた。
タケルは扇を広げ、構えていた。
鎖をヤマトが魔物に投げるタイミングで、魔物の後ろに回り込もうとしていた。
祝詞により、魔物の動きが封じられたのを感じとると、ヤマトは鎖を勢いよくなげ、魔物の体に巻きつけ、動きをより強く封じこめた。
それを見て、タケルは即座に魔物の後ろにまわった。
後ろに回ったのを確認すると、右手は鎖を持ったまま、ヤマトは左手で印を構えた。
その途端タケルは大きく扇を振った。
2人の間、魔物の目の前に空間ができた。
「黄泉の神の使者に願います。この者の穢れを受け入れたまえ」ヤマトが言う。
すると、黄泉への扉が開き、
それを見たヤマトが、鎖を手前に引き解き、鎖を手元に戻した。
タケルは大きく扇を仰いで、
「行ってらっしゃい〜」
と魔物を扇の風で、中に放ってしまった。
印を変え、ヤマトが数を数える。
「ひいふうみーよーいつむーななやーこの…」
十と数えるヤマトの声と一緒に、金髪の青年が、黄泉空間にのみこまれたその場から落ちて来た。
「あーやっぱイケメンじゃねぇかぁー!羨ましい気がプンプンするぜ」
タケルは、落ちて来た青年を覗き込むと、自分の頭を抱えながら、後ろに体をそらせて悔しそうに言った。それを見ていたヤマトも、金髪の青年に目を向けて
「あれだけ悪いもんくっつけてたんだ、モテてもそれで身を滅ぼしたら意味ないだろ。終わったんだいくぞ!」
「へぇーい」
そういうと2人はまた、建物を飛び越えながら、新たなところへ向かった。
月が見守っている静かな夜。
昼間の賑やかさが嘘のように、誰もいなくなった静寂な街に現れる穢れた魔物たち。
それは、あちらこちらで魔物を呼び込む、人の心の声を聞き逃さない輩。
その心の声を吸収元として身体を奪いとる。
そうして魔物が完成する。
ヤマトとタケルは、そんな夜の魔物たちを、たちどころに退治していく除霊師。
和製のエクソシストだ。
深夜3時を過ぎ、4時になろうとしている時に退治は終わり、彼らは拠点場所に戻った。
彼らもまた、花蓮と花音と同じ教会が拠点である。
「はぁー終わった終わったぁ。ところで、毎回思うんだけどさぁ、俺ら戻りの確認がタイムカードっておかしくね?」
教会の裏口付近に、オブジェのような小さなキノコ型の家がある。
「タイムカードじゃないだろ。一応顔認証だし。」
そのキノコが彼らの家である。
家自体が、彼らの存在を確認するためのものだった。
「だってさぁー愛しい花蓮ちゃん達は、めっちゃハイスペックだろー。なにこのアナログ的な感じ。移動もさっ、俺ら瞬間移動じゃないし」
タケルは家にはいると、着替えながらぐちぐち言っていた。
タケル。忌み名は風という。
「そーかなぁ。俺達もなかなかハイスペックだと思うけど。向こうは時計だけど、俺らはこのリストバンド。これのおかけで、高速移動もできるし、軽々宙に飛んだり跳ねたりできるし、俺は自分で動くの楽しいけどね。」
ヤマトも同じ、忌み名は雷という。
彼らは一度清められた水を浴び、穢れを祓うように風呂に入って就寝した。
日の上がり始めた頃に、どこかの鶏が鳴き、どこかのお寺で鐘がなって、この地域の人々に朝を告げた。
「音」というものは、不思議である。
魔物は澄んだ音を嫌うし、神は穢れた音を嫌う。
人も、どちらの音が好みかで穢れ具合がわかる。
寺の鐘が美しいと思えるうちは、安心である。
この教会も、街に停滞する穢れを祓うように鐘を鳴らす。
地平線を走り、海までたどりつくかのように、その音は美しく、等しくながれていく。
この街は、いろんな音に護られていた。
この音を排除しようとする者は1人も、この街にはいない。それはあの音達のせいなのか、心に宿るもののせいなのかはわからない。
ただ人は、自分たちの生活の中で、大切で、必要なものが何であるかを知っている。
「おじさん、おばさんおはようございます!収穫手伝いにきました。」
早朝4時半。
この土地にはたくさんの農家が現存していて、朝早くから活動している。
街のほとんどの若者達は、それを手伝っている。
誰も義務だとは思っても、思わせてもいない。無理な者は無理なのだ。
共存にする上で、「それはそれ」「これはこれ」なのだ。
「花蓮ちゃんはいつも元気だねぇ」
農作業用の服は、洋裁が得意なコマが作ってくれたものを着ている。
「おじさんとおばさんの顔見てると、すっごい元気になるし、野菜大好きだもの」
そう言って7時半まで作業はつづいた。
農業は、街でも支援が幅広く、とても大切にされている仕事の一つだ。
だが最近、何やら不穏な動きがあるようで、ぼそっとそれをこぼしたのは、その農家の主人だった。
「はぁーこれからどーしたら。」
不意に突然ため息混じりに言葉を発した。
何やら思い詰めているような感じだった。
洞察力の高い花蓮はすぐに気がついた。
「おじさん?」
と声をかけたが、「ごめんね、なんでもないよ」と優しくあしらわれてしまった。
それが気がかりで、家に帰ってからも頭の中にずっとそれが残っていた。
お弁当を作りながらぼーっとしている花蓮は、横からつまみ食いしている花音にも気づかないほどだった。
「花蓮、どした?なんかあった?おかしいよ?」
流石に反応のないつまらなさに、花音も声をかけた。
が、聞こえてない様子。
花音は2人分の弁当をまとめると、ざっくりと布で包み袋に入れると、花蓮の腕を引っ張り、外に出た。
「考えたって答えなんか出ないでしょ!」
そう耳元で囁くと、ものすごい速さで教会まで引っ張っていった。
ぼーっと急足でついていく花蓮も、側から見ればおかしいものだった。
「ついた!たかしー!たぁかぁしぃー!」
花音は扉を開けるや否や、大声で叫び出した。
「花音ちゃんなに?朝からうるさい。それでなに?」
どこにいたのか、スーッと天が目の前に湧いて出た。
「これっこれっ」
花音は後ろにいる花蓮を指差した。
天はじーーーっと花蓮を見ている。すると、奥の方を向き、大きく声をかけた。
「美織ちゃん!まだそこにいる?ちょっときてぇ」
あまり表には出てこない美織を、天は呼んだ。
しばらくして、全身白く薄いベールに包まれた、
少女が足音もなく、ただ鈴の音だけを響かせて近づいてきた。
「美織久しぶりだねぇ。悪いね、朝から」
花音は声をかけた。
その言葉に、小さく頷いた。
花蓮の方に向きを変えると、その少女は、ぼーっとしている花蓮の身体に手を伸ばした。
「街の人達に悪い気がただよってる。花蓮さんはそれに少し汚染されたみたい。用務員さんと、麻宮先生と絹宮先生にお声掛け必要です。それから天君に穢れの出元を調べてもらって。花音さんお願い。」
そう伝えると、美織はまた鈴の音を鳴らしながら、元の場所に戻っていった。
美織はとても特別な魂を持って生まれた少女の為、顔を晒すことができない。
美織とおなじく煌と言う少年もいる。
彼もまた特別な魂を持っているため、御簾の奥にある、護られた空間にいる。
なので2人は滅多に、姿を現すこともないが、教会の外に出ることもないのだ。
花音は言われた通り、伝えに走った。
鐘の塔には、用務員さんと2人の先生が立った。
2人の先生はシンクロしながら、呪文を唱え始めた。用務員さんは、そのタイミングを見計らい鐘を鳴らす。
鐘の音と共に2人の先生の唱える呪文が、街全体の悪いものを吸い取るように、サァーっとながれていった。
地下にあるサーバールームでは、天が美織の伝えたとおり調べていた。
「最近、都会からきた県の職員が汚染者の様です。ただいぶ穢れてるようですね。すぐ2人の先生にお伝えをお願いします。田辺 森彦という67歳の男性です。」
花音は祈るように手を合わせ、思念を鐘の上の3人に飛ばした。
用務員さんと、2人の先生がそれを受け取り、疑惑の職員を探し出すために力を注いだ。
さほど時間はかかることなく見つけることだできたので、軽く、力を発揮できない程度に呪文をかけた。
思念を飛ばした花音は、花蓮の元に戻ったが、花蓮はすでに、煌のところに連れて行かれていた。




