表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
#対人依存症。和哉くんは生きづらい!  作者: 佐野和哉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/55

眼の死んだ不動産営業マンは梅田から徒歩1分のマンションを僕に勧めたが

なんかちょっと、こないだあったヤなことの話。

道端に突っ立って、めぼしい奴がいるとスーッと寄ってくる勧誘。

イヤですねえ。

アレです。

金山から栄まで歩き、栄から名古屋駅まで歩く。

名古屋というのは道が平坦で真っすぐなもんだから、まあ歩いていれば適当なところに着く。特に主要な地下鉄の駅とか歓楽街、役場、そのほかの施設にも便利がいい。

よほど暑い日や土砂降りでなければ、井上陽水の歌みたく鮨詰めの地下鉄に乗るぐらいなら歩いたほうがマシだ。


なのだが、歩いていると面倒なことも多い。

歩道で歩行者を縫うように爆走する自転車、横断歩道でも一旦停止でも意地でも止まらない車とバイクとトラック。社名ばっちりだぞオイ。

そして各種勧誘の数々である。


多いのが不動産。宗教系は意外とおとなしい。

外国人の人が苦学生やコロナで仕事がなくなったなどと装って500円でお菓子を買ってくれと言ってきたこともあった。この人を無下に追い払ったところで気分が悪いし、でも別に私が買わなきゃ他の人のところへ同じことを言いに行くだけだろうし。始末が悪い。

で不動産。私にとって最も無意味で、申し訳ないが鬱陶しいことこの上ない。

何故か。

何をどう答えても、まともに受け答えをしている限り全部返答が用意してあって、間髪入れずに食らいついて話を続けようとするからだ。


今回やり玉に挙げる御仁もその手合いで、典型的な奴だった。

シマシマの青っぽい細く見える背広で、明るい茶髪がちょっと伸ばしてあって、細長い昆虫のような動き方で、ひん曲げるように口角を上げ、眼が死んでいる。どこも見てない。はじめから私の風体や返答などお構いなしなのだ。

「ナンチャレカンタレの○○と申します」と名乗ったが今もう忘れている。ただあの虚無が貼りついて笑顔に見えるだけのツラだけボンヤリ残っている。

「あのですね、いま大阪の、まああの行かれたこともあるかと思うんですけど梅田の、駅から徒歩1分でマンションが」ああ名古屋駅は目の前だ。あのグリグリっとした専門学校の前の交差点。青信号だ。あれ渡ってしまいたいなあ。でも無視するのもなんだから

「マンションなら買わないよ、ごめんよ」

と断りを入れると

「いや普通に今ポンと買えって言われても無理じゃないですか、それでですね」

と話を続ける。お前がこっちの言うこと無視するなら俺もお前を無視したかったぞ!?

「いま頭金200万円あれば」

「そんな金あったらこんなとこ歩かないでタクシー乗るよ」

「頭金ゼロキャンペーンというのもありまして」

「……」

ジトっとした目つきで奴の死んだ眼を見つめ返すが、奴の眼球は確かに目玉ではあるものの何一つ視認をしていない。眼も脳も心も死んだまま仕事をしているのだ。ノルマがあるのか、はたまたインセンティブでも入るのか「月々の支払いが7万ウン千円で」(そんだけありゃあ豊かに暮らせるなあ)「このマンションを人に貸すと家賃収入が6万ウン千円で」(お前が住んでそれ払うのかよ)「差し引きで月々9千円くらいで梅田から徒歩1分の」

平田第2レジャービルでも買い取ったほうがマシだよそんなもん、と言いたいが、きっと何を言ってもマトモに会話をしようとする限り、話を先回りと通せんぼするのだろう。

誰がどう仕込んだか知らないが、コイツは今、自我というものが全くない。

死んだ言葉を死んだ眼をして死んだ脳で繰り返している。そして心が1分1秒ごとに死んでゆく。

こいつもこんなことしたくて、この会社入ったんじゃないんだろうなあ。

なんて思うが、私だってもう歩き疲れて、楽しかった一日がお前のおかげで今いくぶんか損をしている。滾々と詰めたいし、怒鳴り散らしてやりたいし、そのどっちもするつもりもないのに苛立ちや不愉快だけがじわじわと背中に広がって、明らか私は物凄く嫌な顔をしていたと思う。すぐ顔に出るので…。

「何を言ってくれても俺そういうのやらないから、ごめんね、もう行くから。ご苦労様」

「ああ~そうですかあ、すみませんでした。でしたらあの」

まだ何か言い出したが、今度こそ無視して歩き始めた。


ああいうのどうにかならんか。

楽しかった一日のたった5分足らずだけど、まあなんとも言えない、でも確実に嫌な気分ではあった。どうしてほしいんだ、ああいうの。

居酒屋の勧誘だって面倒くさいし、それでついていってロクな店に通されることなんか無かったんだもん。

確か天王寺だったか、路上で何故か果物を売ってる人もいた。


それがお前、ウン千万のマンションを、それも大阪の。

名古屋駅の前で声かけられて急に買うか!?

確かにあの日あの時あの場所には何万人もニンゲン自体は存在しただろうけど、そんな金銭感覚してて、マンション欲しくて仕方ない奴だったらとっくにお前のその会社なりどこぞの不動産屋さんなり行くだろう。

前にも「いまモデルルームに10人招待するまで帰れま10というのをやっておりまして…」という奴がいた。まだ工夫が見て取れるが、お前が帰ろうが帰れなかろうが知ったことではなかったので、それも通り過ぎた。お前を家に帰してやる身代わりがコッチなのでは割に合わないではないか。お前は仕事で給料出てるからやってるんだろうがコッチはお金より貴重な時間が奪われるわけなんだぞ。


モンスターエナジーの試飲会とか、大道芸とか、夜になると10人ぐらいでバンドやってたりとか、面白いことやまともなキャンペーンもあるんだけど、大半がこんなのだから嫌になる。

あのナンチャレカンタレの営業マン、日曜に一日あそこで突っ立って何人獲物になったんだろう。今日も立ってたんだろうか。

自分で自分が嫌にならないんだろうか。

あれをやると出世して、5年後ぐらいには楽して儲けられるんだろうか。

なんかそんな風な未来を想像してたりするんだろうか。

自分で自分が、嫌にならないんだろうか……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ