第63話 話
『白銀鉄を割り、その粉を燃やすと海の向こうの国が攻めてくる』
ヴァルゼンベルク家に代々伝わる腕輪の裏には、そう書いてあった。
にわかには信じられなかった。
だが、ラジャトの切り替えは早かった。緊迫した口調で言う。
「僕はやることがある。これからは別行動をさせてもらう」
またたく間に馬にまたがり、その場を去る。
「……ひとまず帝都に戻ろう」
そう言うと、キリルは素直に頷いた。
どこに言ったか分からないトルーシスとレオラには、「先に戻る」と置き手紙を残しておいた。
◇
帝都に戻ると、キリルは書庫守用に与えられた天幕の中で、自分の世界に入りこみ、思考を始めた。
俺も頭を整理したくて、帝都を1人歩いていると、懐かしい後ろ姿が見えた。
「父上?」
何もなくなった帝都を眺め、佇んでいる。
ふと、気になった。
父上は俺が砂紋民だと知っているのだろうか?
いや、もしかして――。
思わず駆け寄る。
久しぶりに対面したが、少しやつれてはいるものの、眼光の鋭さは健在だった。
一目で俺の左腕の腕輪がないことを見てとり、「気づいたか」と微笑むと自らの左腕をたくし上げた。
思った通りだった。
父上も砂紋民だった。
「我がヴァルゼンベルク家は、砂紋民の家系だったのですか」
「そうだな。もう血が薄くなり、紋様が現れる者の方が少なくなったが」
父上はかすかに微笑み続ける。
「お前に子どもが生まれた時に、その秘密を明かすのがしきたりだった。機会がなくて伝えられず、申し訳ない」
頭を下げる父に、気にしないでください、と首を振る。
もともと俺が婚期を逃したのが悪い。書庫守として妻帯ができないことを気楽に思っていたのも事実だ。
「紋様の本を持っていたのもそうですか」
ずっと引っかかっていた。
ネルヴァが、いとも簡単に禁書となっていた本を俺にくれたことが。
そうだ、と満足そうな頷きが返ってきた。
「私は2巻までしか解読できなかった。それをお前は5巻まで読み、書庫守になるとは。たいしたものだ」
俺の肩を叩く。
「父上は、この腕輪に書かれていた内容も知っていたのですか?」
「いや。……何が書かれているのだ?」
読み取ったことを話すと、父上は顔色を変えた。
「私が知っている限りの話をしよう。何かの参考になるかもしれない」
一瞬間を置くと、遠くを見る様な目をする。
「あれは私がヴァルゼンベルク家の跡目争いに破れて敗走していた時のことだ。深い森の中で、黒い紋様の民にあったのだ……」




