表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

第6話 頼みの綱

シュラクの街から東にある、村長ヌガルの村。

俺たちは村につくや否や、でかい屋敷の広間に通された。


「おぬしらがアトスの村の生き残りか」

大きい図体に、太い剣をいた村長が、俺とトルーシスをじっと見つめた。その後ろには、屈強な村の男たちも勢ぞろいしている。


トルーシスは先ほどからフードを目深にかぶり、うつむいている。


村長は腕を組んだ。

「隣の村が滅ぼされた。近いうちに敵が来るだろう。情報がほしい」

鋭い目を光らせる。「どうだった。東ノ国の兵は?」


静まりかえる広間の中、俺は口を開いた。

「やつら、白銀鉄の剣を持っていた。それも、俺達よりも強い剣を」

言い終わった途端――ドッと笑いが弾けた。


「あの弱小の東ノ国だぞ?」

「我が帝国を真似るしか脳のない、属国ではないか」

村の男たちが嘲笑ちょうしょうする。


「油断は禁物だ! 本当にそうだったんだよ!」


言い返したが、村長は余裕の笑みで一蹴した。

「我らは銀印会ぎんいんかい製の剣を50本揃えてある。見よ」


得意げに広間の奥を示す。そこには、大量の剣がずらりと並んでいた。


――銀印会製ぎんいんかいの剣。

市場で出回る白銀鉄の剣の中で、最も質が良いとされるものだ。


……すげぇ金ある村だな。

そう思った。



「して、そちらの者は?」

村長がいぶかしげにトルーシスに視線を向けた。


「こいつは強い。騎士を一瞬で倒せる。加勢させてくれ。この村にとっても悪い話ではないはずだ」

共に戦い、敵の情報をつかみたい。


「ほう。顔を良く見せてくれ」

村長はトルーシスの前にしゃがみこんだ。

トルーシスは躊躇ためらったが、村長の圧に負け、フードをぱさりととった。


とたんに、空気が一変した。

「呪いだ!」 「なんと不吉な!!」 

皆が黒い紋様を示して騒ぎ立てる。


「やめろよ、みんな!」

1人だけ立ち上がった村人がいた。

その顔を見て――はっとした。

……ルカさん?


「よぉ、ネル。大きくなったな」

ルカさんはこちらにやってくると、俺の頭に手を置き、皆に言った。


「俺はこいつを知ってる。こんな見てくれだが、信頼できるやつだ。今は村に1人でも戦力が欲しいだろ。それに――」

ルカさんはぐるりと皆を見渡した。


「エトスは迷信なんか信じなかったぜ」


エトスさんはこの村とも親交があり、ルカさんはエトスさんの親友だった。


しばらく重苦しい沈黙が続いたあと、村長の隣に座っていた男――副村長だろうか――が口を開いた。


「……そうは言っても、戦いの前に村に黒い紋様を招くのは不吉すぎる」


村人たちは口々に同意し、れものを触るような視線をトルーシスに注いだ。


村長はため息をついた。

「申し訳ないが、村を去ってくれ」






    ◇






「なんか、お人よしだよな、お前」


俺の言葉に、切り株に腰かけたトルーシスはバツが悪そうな顔をした。

ここは村長ヌガルの村がギリギリ見えるくらいの森の中だ。

東ノ国の軍勢がくるのを待って、もう3日になる。


「悪い。僕のわがままにつきあわせて」


「気にすんなよ」

あれだけひどいことを言われたのに、こいつは村が危なくなったら助けに行くつもりだという。

俺も行動を共にすることにした。この際、一人でいる方が逆に怖い。



あたりが暗くなったころ――


「……来た。まだ遠いけど」

トルーシスが静かに立ち上がった。


こいつの目と耳の良さに感謝した。普通は、こんなに早く気づけないだろう。


トルーシスは古びた短刀をふところから取り出した。

さやに収まったそれは、よく手入れされている。

「行こう、ネル。僕から離れないように」


「言われなくても」

俺たちは村に向かって走り出した。






    ◇







ネルの言っていた通りだ。

――これほど白銀鉄の剣が無力だとは。


先ほど、村長が倒された。

あの村長が倒されるなんて。


村の皆は、総崩れになっていた。

敵に剣をことごとく叩き割られ、絶命していく。


「ルカ! ぼーっとするな!」

副村長の怒号が響く。

はっとして、頭上に振り下ろされた敵の剣を、とっさに自分の剣で受け止めた。


――まずい。壊れる。


一瞬、剣が砕け散る幻影が見えた。

だが、鈍い音を立てただけで、剣は何とか持ちこたえた。


敵兵は一瞬、動きを止めたが、先ほどより鋭く剣を振り下ろした。


――今度こそまずい。


そう思った、その時。


キイィン! と小気味よい音が響き、敵の剣がはじかれた。


古びた短剣を握り、俺と敵の間に飛び込んできた者。

その顔を、忘れるはずもない。

ネルと一緒にいた、顔にまで黒い紋様を持つ青年だった。


彼は大きくあいた相手の懐に入り込み、みぞおちに手刀を叩き込んだ。


一瞬の早業。

武芸の技のように洗練はされていない。

どこか野性的で、荒々しさのある動き。


敵がドサリと膝から崩れ落ちる。


「……いける」 

そう呟くと、瞬く間に周りの敵兵を倒し、まるで獣のような速さで敵陣の奥へと走っていった。






「ったく、自分から離れるなと言っておきながら」

不満そうに呟きながら、小柄な人影が姿を現した。ネルだ。あたりをぐるりと見渡して呟く。


「……ルカさん以外、全滅か」


見れば、副村長も敵の刃に倒れていた。


「あぁ。俺は奇跡的に剣が持ちこたえた」

自分に回ってきたのは、銀印会製じゃない、黒ずんだ白銀鉄の剣だった。

質の悪い剣だと思っていたのに。


「安全なところに身を隠すぞ」

ネルは俺を近くの茂みの中に引き入れた。気づかぬ間に腹に深い傷を負っていたようだ。

滴る血にぎょっとしていると、手早く簡単な手当てを施してくれる。


「ありがとう。あの青年は、何者なんだ?」 

あの強さと身のこなし。普通じゃない。


「さあな。あんまり話してくれないんだ」

ネルは気楽な調子で答えると、くるりと背を向けた。


「どこへ行くんだ?」


「決まってるだろ。あのバカを追いかけるんだ」 

言葉とは裏腹に、バカ、とよぶ声には親しみがこもっていた。





    ◇





……まずいな。


トルーシスを追いかけていた矢先、敵兵と鉢合わせた。

敵がいなそうな道を選んで迂回したはずだったのに。


黒いマントで覆った体に黒い覆面。

不気味なほど黒づくめな敵兵は薄く笑うと、剣を抜きはらった。


「昇進の道具がきたな」


何かがひっかかった。

声に、覚えがある。どこで聞いたんだ?


――そうだ、娼館だ。

娘に乱暴をしていた男と声が似ている。


……駆け、だな。

どっちみち正攻法では勝てない。


俺は剣を放り投げ、その場に膝をつくと、 地面に額をこすりつけた。


「頼む! 殺さないでくれ! ミレーを迎えに行く約束をしているんだ!」


「ミレー?」

覆面から唯一見える敵の目がすがめられた。


「あぁ。シュラクの街にいる。将来を誓い合ってるんだ」


目が見開いた。

「お前……」

明らかに嫉妬のこもった声と眼差し。


……本当にあの騎士なのか。

が、じっくりと考えている暇はなかった。


「あいつは俺のものなんだよ! 死ね!」 

怒号と共に白銀鉄の剣がひらめく。

パッとかわし、剣をひらめかせて飛びかかったが、あっけなく蹴りとばされた。

地面に転がりうめく中、続けて蹴りをいれられる。


「苦しめ」

敵の目が血走っている。


……本格的にまずい。


この状況では、腰にさしているトルーシスから買ってもらった白銀鉄の小刀を有効活用できない。

何か他に使えるものはないか――そう思って懐を探ると、ひんやりした金属の手触りがした。


リュシアからもらった金属片だ。


頼みの綱はこれか。

思わず心の中で苦笑いをした。




蹴りの合間をぬって、懐から金属片を取り出す。


「頼む、これをミレーに渡してくれ……」


「は? なんだこれ?」

敵が金属片を見てあきれた声を出す。

当然だ。

指輪でも宝石でもなんでもない、ただの金属片なのだから。


「精製前の白銀鉄だ。……高く売れる」


ハッタリ以外のなにものでもないが、敵はニヤリと笑った。

「分かった。これで当分は遊べるぜ」


敵が金属片をつかみ、満足そうに懐の中に入れた瞬間。



今だ!!!!



俺は、全身全霊で手をたたいた。


ブーン…… 


静かな音とともに、敵の懐がブルブルと震える。


「は?」 

敵が目を点にする。


……当然だ。俺だって最初は目が点になったんだから。


「ハッ、こんな子供だまし……ッ!」


鼻で笑った敵は目を見開いた。

俺の白銀鉄の小刀が敵の眼前がんぜんに迫っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ