表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/20

第18話 毒杯

トルーシスが呆然(ぼうぜん)(つぶや)いた。

「敵は白い隊服を着ている。――帝国騎士(ていこくきし)の隊服を」


「……クソッ!」

思わず(こぶし)(にぎ)りしめた。


本当は敵が騎士であることはみなに()せていた。

この帝国の象徴である騎士にやいばを向けることはできない。士気が下がる。


そう判断した。

それが裏目に出てしまった。


トルーシスは立ち上がり、大声で(さけ)んだ。


「みな聞いてくれ。村を(おそ)っていたのは、騎士だったんだ!」


「え?」 「どうしたんだよ、一体?」

仲間たちが首をかしげる。


「なんの冗談(じょうだん)だ?」

ダグラスがおかしそうに笑った。「そしたら、昨日村を(おそ)ったやつらも騎士だったっていうのか? そんなわけねぇだろ」無垢むくな表情で続ける。

「正義の騎士が虐殺(ぎゃくさつ)なんてするわけねぇ。東ノ国を追い払おうと加勢に来てくれたんだろ」


「そうさ!」

仲間たちものん気に(うなず)いている。


「信じられないだろうが、信じてくれ! 」

トルーシスが(さけ)ぶ。俺も声を張り上げた。


「やつらは帝国に命じられて、砂紋民ヌルム奴隷(どれい)にして帝都(ていと)に送ってるんだ! 騎士は、敵だ!」


数人が気圧(けお)されたように(うなず)き、ダグラスが表情を引き()めたのが見えた。

だが、まだ全員は信じていない。もう少し――




「あれ!? 騎士が来たぞ!」

仲間の声に、俺は耳を疑った。


目をこらすと、地平線に、白く(かがや)く隊服を来た集団が見えた。


「……速すぎる」

トルーシスが悲壮ひそうな声で(つぶや)いた。



騎士の姿を認めると、みなが()き上がった。

「騎士団が本当に我らの加勢に来てくれるとは!!」

「助かった、これで安心だぜ!」


俺らの(さけ)びはかき消された。


みな、俺やトルーシスの形のない言葉よりも、実際に目に写る現実――

騎士たちがにこやかな笑顔で、こちらに手を()りながら進軍してくる姿を信じた。







騎士たちは到着(とうちゃく)するなり、大声で(さけ)んだ。

「誇り高き砂紋民ヌルムの兵たち! 助けにきた! 安心せよ!」

みながどっと喜びの声を上げる。


きたるべき敵に備えて、酒を用意した。今日の昼は酒盛さかもりとしよう」

腕に腕章わんしょうをまいた一回り大きな体躯たいくの騎士――やつがガルガリケだろう――が、荷台にのせた酒樽さかだると食料を指さすと、若い騎士たちが茣蓙ござを広げ、準備をし始めた。


「剣は邪魔(じゃま)だろう。ここにおいて、心置きなく酒と食事を楽しんでくれ」

ガルガリケは大きな木の下を指さした。


「剣はびろ!」

トルーシスが(さけ)ぶと、仲間たちは目をしばたたかせた。

トルーシスに従って剣をびるものと、従わずに剣を置く者の二手に別れた。


トル―シスは並べられていく酒と料理を見て、すんと匂いをぎ、目を見開いた。

「毒が入っている」


……そういうことかよ!


「手を付けるな!! 毒が入っている!」

トル―シスが必死な形相で(さけ)んだ。初めて見る顔だった。

俺も(さけ)びながら、(みな)を止めに走ったが、俺たちの言葉は笑い飛ばされた。


何人かが(すで)に剣を置き、酒をうまそうにのみ始める。


彼らには――普通の者には毒が入ってることなど分からないのだ。


「……おいお前ら。食うな。剣も置くな」

俺らの必死さに、ダグラスやルカも言い始めた。だが、多くの者が着座し、酒をみ交わそうとした、その時。


「彼らの言っていることは本当だ!!」

よく(ひび)く声がした。

ひとつも勲章くんしょうのついていない白い隊服。灰色の(かみ)に灰色の(ひとみ)。デイトンだ。


「俺たちはこの食事に毒を持った! 騎士は、砂紋民ヌルムの村を(おそ)っていた!」

デイトンはそう(さけ)んだ。

最初に会った時のようなくもりのない綺麗(きれい)(ひとみ)で。


なおも言葉を続けようとするデイトンは、他の騎士に(なぐ)られて気を失った。


「なんだ?」 「何が正しいんだ」

仲間たちは迷いだした。




「予想通り動いてくれたな」

ぼそりとした(つぶや)きが聞こえた。


売国奴(ばいこくど)の言うことを信じるな」

よく通る声に振り返ると、ガルガリケが立ち上がっていた。トルーシスとデイトンをめるように見る。


「この黒い紋様の男と、先ほどわめいた騎士は、東ノ国と内通していたのだ」


みなが目を見開く中、ダグラスがすぐさま立ち上がった。

「トルーシスはそんなやつじゃねぇよ」


ガルガリケに動じた様子はなかった。

「考えてみよ。どうしてこの黒い紋様(もんよう)の男は敵が()めてくるところにいつもいるのか。――それは東ノ国と通じているからにほかならない」


ガルガリケは、砂紋民ヌルムの兵たちの間を歩きながら続ける。


「どうして東ノ国は強い剣を持つようになったのか? あの貧しい東ノ国だぞ? (だれ)かが情報を流さなけれは作ることはできまい」


……まずい。はめられていく。巧妙に、真綿まわたで首を()めるようにじわじわと。


ガルガリケはトル―シスをにらみつけた。

「全て自作自演じさくじえんだったのだ。こいつは帝国の白銀鉄(はくぎんてつ)の技術を盗みだし、東ノ国に伝えた。さらに、東ノ国を撃退してみせることで砂紋民ヌルムの支持を得て――この帝国(ていこく)を乗っ取ろうという魂胆(こんたん)だったのだ」


ガルガリケは高らかに言った。

「やつが敵を殺さなかったのも、仲間を手にかけられなかったからだ!」


「そんな訳ねぇだろ!!!」

俺の(さけ)びはむなしく広場に(ひび)いた。

みなの心は、とっくにガルガリケの方に(かたむ)いていた。


ガルガリケは満足そうな笑みを浮かべて、砂紋民ヌルムたちに命令した。


「やつを()らえよ。(のろ)われた黒い紋様(もんよう)が、この世界を(ほろ)ぼす前に」


「……そうだ。やつは黒い紋様(もんよう)もちだった」

(だれ)ともなく(つぶや)かれたその言葉が、決定打になった。


「クソ野郎(やろう)!! 俺たちをだましやがって!」

「親のあだだ!!」 「信じていたのに!!」

仲間たちの敵意が、激流げきりゅうとなって一気にトルーシスに向けられた。



……(ちが)うッ!

(さけ)ぼうとしたところで、トルーシスにガッと口をふさがれた。


「な、なにすんだよ!」

もがくが、強く()さえつけられ、動けない。


「僕だけで十分だ」 やつはにこりと笑った。「ネル、今までありがとう。楽しかったよ」 


「え……」

やつは俺のみぞおちに(こぶし)を入れた。

息が()まり、思わず(ひざ)を地につく。



トルーシスは(わず)かに微笑(ほほえ)んで、一歩()み出した。


仲間たちがトルーシスに群がる。トルーシスは抵抗しなかった。もみくちゃにされたあと、手枷てかせ厳重げんじゅうにつけられ、おりへと入っていく。

仲間からのやいばで体中のあちこちに傷を作った彼は、おりの中で、静かに目を閉じた。



……あぁ。

どうしてこいつはこんなに簡単に(あきら)めるんだ。

お前が死んだら、俺は――



ガルガリケが、おりの中のトル―シスを見て低く言った。

脅威(きょうい)はいなくなった。れ」


一斉(いっせい)に騎士たちが白銀鉄はくぎんてつの剣を()き、()りかかった。

――砂紋民ヌルムの兵たちに。


「……!」

みなが(おどろ)いた顔のまま、殺されていく。


先ほど剣を置いた者は反撃(はんげき)する手段をもっていなかった。

料理や酒に手を付けていた者は、入っていた毒が効き始め、体が動かなかった。


それに、統率者を欠いた砂紋民ヌルムの兵は、騎士の前になすすべもなかった。



「だからトル―シスを信じるべきだったんだよ、クソ野郎(やろう)!!」

俺はもう、自分が何をしているのか、分からなかった。

ただ、(いか)りにまかせてめちゃくちゃに剣を振り回し、(せま)りくる騎士たちと戦い――そして、(たお)れた。


「……少し休め」

意識を失う前、どこかで聞き覚えのある声が聞こえたような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ