トジンとジグルステンの一コマ (1009字)
※海の向こうの国でのトジンとジグルステンのエピソードです。時系列的には、南部の再建が終わって、トジンもジグルステンも”天”の位に任命され、アーシェンヴァ―ン王のもと、フローレンス人とスタルトゥス人の共存する国を創ろうと尽力していたときの、とある日のことです。
「おい。俺が代わりにやるから、休んでいろ」
1人、黙々と作業を続けるトジンに後ろから声をかけると、トジンは驚いたように顔をあげた。
そしてふっと微笑みをこぼす。
「いや。やりたいんだ。気にしないでくれ――」
そう言いかけて、ゴホゴホとせき込んだ。
……無理するからだ。
そう思いながら、トジンの隣にしゃがみ、その背をさすった。
昔はトジンの背がすごく大きく感じたのに、今や僅かに俺の方が背が高い。
トジンの咳がおさまると、静かに俺もその作業を一緒にやった。
――フローレンス人の死体を埋める作業だ。
天に高かった日が、大地を赤く染める頃になって、トジンはぽつりと言った。
「どうして、毎回こうも馬鹿みたいに殺すことしかできないんだろうな」
砕けた調子の言葉だったが、その顔には色濃く苦悩の色があった。
瞬時、思わず目をそらした。この人のこんな顔を見たくないと思ったのだ。
「……さぁ」
つっけんどんに答えると、「投げやりだな」と苦笑が返ってきた。
俺は知っている。
トジンは、フローレンス人を殺すことに深い罪悪感を持っていると。
このころ、アーシェンヴァーン王は、フローレンス人とスタルトゥス人の融和政策を進めていた。
スタルトゥス人の奴隷制を廃止し、フローレンス人と平等な権利を得られるような政策を次々と打ち出した。
だが、それに対してフローレンス人の反発は、想像以上に激しかった。
トジンは、その反発を静める中心となった。
フローレンス人は基本的に好戦的な部族である。自らの主張が通らないと、力に頼ろうとする。そんな者たちに対して、トジンは最後の最後まで、平和的な解決を目指した。
だが、それが叶わないとなると、できることは一つだった。
――武力による鎮圧。
それだけだった。
「……ジグルステン。いつも隣で戦ってくれてありがとな」
死体を埋め終え、手を清水で清めると、トジンが珍しく弱気な口調でそう言った。
「別に。俺は憎いフローレンス人を殺すのが好きなんだ」
「またそんなことを。お前が本当はそんなこと思ってないって、知ってるぞ」
鍛えられた手がわしゃわしゃと俺の頭を撫でる。トジンには、嘘はすぐにばれる。
トジンが空を見上げ、目を細めた。
「いつか、来るだろうか。殺し合いのない世界が」
強く逞しいトジンが、そんな感傷的な言葉を言うなんて思わなかった。
「……知らねぇ」
ぼそりと言うと、トジンは微笑み、俺の肩を叩いた。
「お前がその世界を見つけてくれ。ジグルステン。俺の息子よ」
(おわり)
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作者つぶやき
トジンは病をおしながら戦っていました。トジン…… (´;ω;`)
よいエピソードですね(←自分で言うかって感じですが(笑))
回想で使えるかなとも思いましたが、使いどころがありませんでした。
ですので、ここでお披露目できてとても嬉しいです^^




