第5師団でレオラが女だとみんなが気づく話(1344字 + 622字)
「”槍”。これをどうぞ」
宿舎に戻ると、部屋の前に”薬”が座っていて、私に椀を差し出した。栗色の濁った液体が入っている。
「……なに、これ」
”薬”の腕が秀逸だということは最近分かってきたが、初日の毒や煙の攻撃のインパクトが強すぎていまだに警戒が解けない。
「今週は体が重いでしょう。少しは楽になりますよ」
穏やかな笑みを浮かべている。
思わず”薬”をまじまじと見た。
受け取って飲むと、確かに毎月やってくる、体のだるさが良くなっていくような気がした。
「どうして分かったの」
「まあ、2ヵ月も一緒にいますからね。分かりますよ。たくさん作ってありますから使ってください」
”薬”はそっと黒い巾着袋を差し出した。中には小分けにされた薬草が重なって入っていた。
「でも、安心しましたよ。激しい鍛錬をすると止まったりしますから。それは体に毒ですからね」
微笑む薬になんと返せばいいか分からず、曖昧に頭を下げた。
部屋に入り適当に”弓”に挨拶して、布団をかぶってその巾着袋の中身を見て、驚いた。
周期を調整する薬や堕胎薬まであった。
……すごいな。
明日よく礼を言わなくては。心の中で苦笑して、”薬”からもらった薬をもう一包飲むと、すっと睡魔が襲ってきて、心地よい眠りについた。
「”槍”、水場もう使っていいぞ」
湯を浴びて一日の修練の汗を流し、部屋へと入ると”槍”はもう寝台で眠っているようだった。
……大丈夫だろうか。
今日はあまり調子が良さそうじゃなかった。
そう”天”に言うと、”天”は首をひねっていたが、なんとなくそう思ったのだ。
2段目の寝台へと梯子を上がる途中、”槍”の枕元に、黒い巾着袋が見えた。
――”薬”の巾着袋だ。
俺は、神経を落ち着かせる薬をもらった。”天”は耳に効く薬をもらったと言っていた。
”槍”はどんな薬をもらったのだろう。
弱みなんてなさそうに見えるのに、袋にはたくさんの薬が入っているように見えた。
つい、魔が差した。
”槍”は深く眠っていて起きる様子がない。
気配を殺してそっと巾着袋を掴み、自分の寝台の上で開いて驚いた。
……これは。
いろいろな薬と一緒に入っている、その薬は、堕胎薬だった。
これを持っているということは――まさか。
だが、いろいろと腑に落ちることはあった。
初日、やけに後で水場を使いたいと主張したこと。
いつも必ず俺よりも後に寝て、先に起きていること。
水場、後で使わせてやればよかったな。
やけに整った寝顔を見てそんなことを思いながら、しずかに巾着袋を枕元に戻した。
「どうだった、”薬”」
”薬”が部屋に戻ると、”兵法”が書から顔をあげた。
”薬”と”兵法”の相部屋は、お互いの私物の薬草や本がごった返し、えらい有様になっている。
「やはり喜んでもらえましたよ。すごいですね、”兵法”は1週間で気づいていたなんて」
”兵法”はぎこちなく微笑んで、書に顔を戻した。
「”鷹”は初日で気づいたと言っていた」
「それはすごい。さすが我らが隊長」
”薬”が微笑む。「……きっと”槍”も訳ありなんでしょうね。悪い男から守ってやらなくては」
「……」
何かを考え込んでいる”兵法”に、”薬”が抗議するように言った。
「計略に”槍”を使おうとしてはいけませんよ。色仕掛けなど、できるタイプではないでしょう」
「確かにな」
兵法が低い声で笑った。
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このあと、みんながレオラを女だと公認するエピソードを入れようかな、と思いましたが、まあそこまで書く必要はないかな、と思い入れませんでした。それがこちら。
「なぁ、もしかしてお前女だったりする?」
”伊達”から何気なくそう聞かれて、私は心臓が止まるかと思った。
「どうしてそう思った?」
と平静を装って聞くので精一杯だった。
「だって最近”弓”の様子が変だし」
”伊達”が両手を肩の高さにあげた。
「あれは明らかに意識してるよな」
”鷹”も、たかに餌をやりながら頷いた。
「そう考えれば、今までのお前の軍での噂に納得がいく。誰にも体を見せたがらないと聞いた」
”兵法”が、本からちらりと目線をあげた。
「大丈夫ですよ。ここはお互いの個性を大事にしてますから。あなたが女だからと言って、誰も何も言いませんよ」
”薬”がにこにこして言った。
「そうだよ! 女の格好してくれれば、潤いが生まれるし!」
”伊達”がすこぶる嬉しそうに言う。「大丈夫さ。絶対手は出されねぇよ。”弓”が怖すぎるからな」
”伊達”は重々しく頷いたあと、そうだ!ととても嬉しそうに言った。
「俺がお前の服作ってやるよ! ついでに髪もいい感じにしてやる!」
「どうよ、俺の腕?」
”伊達”が自慢げに私を連れて訓練場に出ると、皆がどよめいた。
「驚いた。変わるものだな」
”鷹”が頷く。その肩の上のたかも目をぱちくりさせている。
「これはこれは」
昼間にめったに起きない”夜”が眠そうに細い目を開けた。
「盛り上がっているようだね」
含み笑いをして訓練場に現れたのはニックだ。
私の姿を見て、声をかける。
「よかったな、”槍”」
「実はレオラっていう名前らしいぜ!」
”伊達”がすかさず言って、その場にいた一同がどよめいた。
(おわり)
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※作者つぶやき
第5師団の仲間たちは、みんな好きな登場人物たちだったので、お別れをしなければならないのが悲しかったです……
第5師団のエピソードは、書き出したら結構長くなり、もはやこれは別の小説か?って感じになったので、割と削ったところも多かったです。
なので、こうやって公開出来てうれしいです、読んでいただいてありがとうございます!
あと、”伊達”は隊の仲間に自作の服や装身具をプレゼントするのが好きでした。”鷹”がいつも着ている毛皮の服も、”伊達”がプレゼントしたものだったりします^^




