ラジャトとリュシアと傷のひとコマ(1293字)
※これは、ネルが傷を仲間に引き入れてから、ネルと傷が西ノ帝国に旅立つ前 の時期に、ネルと傷とラジャトが一緒に住んでいた時のエピソードです。
「最近、傷と仲いいね」
ここ数日の第5商会の売り上げを報告に来たリュシアが、うっすらと笑みを浮かべて言った。
……この間、ネルとの関係を冷やかした仕返しだろう。
「まあ確かに綺麗な顔だとは思うけどさ。恋愛対象って感じではないね」
「へぇ。綺麗な顔だとは思うんだ」
意味深な笑みを浮かべたリュシアに、何気なく付け加えた。
「たぶん血がつながっているから」
リュシアが固まる。常に冷静沈着なのに、こういうところが面白い。
笑って、机の引き出しの奥から母の手記を取り出し、見せた。
「ま、あくまでも予測にすぎないけど。母さんが書いていた。僕にアリヤ、という腹違いの姉がいると。多分そうかなって」
リュシアがその手記をじっと見ているので手渡すと、驚くほど真剣に読み始めた。
数分たって、呆然としたように言った。
「すごいことに気づいたんだけど」
食い入るようにこちらを見つめる。
「な、なに」
普通の娘とは少し違う藍色の瞳の迫力たるや、なかなかのものだった。
「あなた、年齢は22っていってたよね。そして、生まれた直後に母を亡くしたとも」
「あぁ」
頷くと、リュシアは静かに目を伏せてから、「傷も呼んでくる。これはすごい発見だ」と早口で言って部屋を出て行った。
こんなリュシアは見たことがない。
そんなにすごいことが分かったのか?
疑問を抱いていると、リュシアに従って傷がやってきた。
修練の後なのだろう。少し額に汗がにじんでいる。
「では始めます」
リュシアは静かに椅子に腰を下ろし、僕らにも座るようすすめた。
丸いテーブルを囲み、僕ら3人はちょうど3角形になるように向かい合った。
「……傷、あなたの本当の名は」
リュシアの眼光が傷を射貫く。傷はパチパチと瞬きをして、少し言葉に詰まった。
「あなたの本当の名は?」
リュシアの追従は厳しかった。
「アリヤ」
やはり。予想通りだ。母さんの手記に出てきた名。
母さんと前の夫トジンから生まれた、腹違いの姉。
どんな生活を送ってきたのだろうか――
その思考は、リュシアの明晰な声で遮られた。
「私たち3人は血がつながっています」
「え?」
傷と僕の声がかぶった。
私たち3人? 傷と血がつながっているのは分かるが、リュシアとは――
リュシアは重々しく口を開いて説明を始めた。
「つまり私たちは、おなじトリヤという女から生まれたということか」
傷が珍しく驚いた調子で言った。
確かに、そういわれてみれば、どことなく傷とリュシアに少し似ているところがあるようにも思える。
「傷とは血がつながっているとは思っていたが、リュシアとも血がつながっているとは……」
どことなく感じていたリュシアへの親近感の正体が分かってとにかくほっとしていた。よかった、これは恋ではない。
「えぇ。双子ですが、私が姉です」
リュシアは仰々しく頷いた。どうやら、トリヤの手記にリュシアが姉で僕が弟だと書いてあったらしい。
「年齢的に見れば、傷が長女、私が次女、あなたが末の弟です」
……リュシアは意外と年齢による序列を気にするタイプらしい。
それから、お互いの生きてきた道のりや、母や父に託されたことを話した。
その時から僕ら3人は、いざというときに心から頼りになるような、そんな絆で結ばれることになった。
(おわり)
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※こぼれ話
リュシアは周りに誰もいないとき、ラジャトに「リュシア姉さん」と呼ばせています。そして自分は傷のことを「アリヤねぇ」と呼んでいます。
子どもの頃、家族がいなかったリュシアは血のつながりというものに憧れていたようです。
ラジャトは、女におぼれる父親を見てきたので、女性や恋愛に苦手意識があります。ですが、リュシアやアリヤと接するときは不思議と心地よさを感じていました。なので、これは、恋なのか?と夜な夜な何度も自問自答していたらしい……
※作者つぶやき
アリヤはトジンの血が色濃く出ているので、武術が得意で、活発で明るい性格です(本来は……)。
リュシアとラジャトは、アイゼンの血が入っているので、二人とも剣づくりや金属開発が得意です。アイゼンのものづくり要素をより色濃く受け継いだのがリュシアかなぁと思います。
ラジャトは性格的にはアイゼン要素はあまりありませんね。トリヤよりだと思います。どっちかというと、何かをつくるよりも、思考したり分析したりするのが好きです。
というイメージでした^^ 三者三様ですね!




