アリヤ・デイトン・ニックの会話 (1423字)
※時間軸的には、東ノ国と西ノ帝国の戦争が終わり、 海の向こうの国と戦う前に少しだけ平和な時間があったときのエピソードです。
「傷。君は紋様を、焼いたのか?」
戦争が終わった後。1人、帝都を見つめる傷に思い切って俺は尋ねた。
傷は、2,3度瞬きをしてから、すっと目を細め、どこか昔を懐かしむような目をして頷いた。
「あぁ。その通りだ。自分で焼いた」
「ごめん」
とっさに深く頭を下げた。
「いや。デイトンが謝る必要はない」
その声に僅かに驚きをにじませ、傷は首を横に振った。ほんの少し見開いているその目と、目が遭う。
途端、傷はさっと顔を伏せた。
「……見ての通り醜い顔になった。私のことは忘れてくれ」
くるりと背を向け、去ろうとするその手を思わず掴んだ。
「いや」
首を強く横に振った。「綺麗だ。とても」
そんな本心が口からこぼれ出た。
「…………」
傷は動きを止め、沈黙した。俺もどんな言葉を続ければいいか分からず、沈黙した。
急に傷の手を握りしめている自分に気づき、恥ずかしくなった。
「ごめん」
ぱっと手を離し、思わず謝ると、傷は「いや」とうつむきながら首を横に振った。
また沈黙がその場を支配した。
しばらくして、ハァ、というため息が聞こえた。
「まったく。せっかくあんなに恋焦がれたデイトンに会えたんだよ? そのだんまりはないでしょ」
これ見よがしに肩をすくめて現れたのは、ニックだった。
傷は、僅かにニックを睨み、途端にひらめくような速さでニックのすねに蹴りを入れようとした。
ニックはさらりとかわして笑った。
「怖いなぁ。油断も隙もないじゃないか」
「……油断も隙もないのはあなたよ。いつからそこにいたの?」
傷が抗議の声を上げる。
「なに、たまたま通りかかってさ」とはぐらかし、にこりと微笑んだ。「そしたらさ。デイトンに”アリヤ”って呼んでもらうよう、頼んだら? 傷、なんて素っ気ない名前じゃなくてさ」
ニックは俺にウインクをする。
「余計なお世話だ」
傷が吐き捨てるのと同時に、思わず尋ねた。
「いいのか?」
「え?」
傷の目が見開く。
「いいのか? アリヤって呼んで」
尋ねると、少し沈黙したあと「あぁ」と頷き、すぐにくるりと背を向けた。
「また話そう」
傷はそう言って、その場から逃げるように去っていった。少し耳朶が赤く染まっていた。
「ねぇ。さっき、何のつもり?」
傷は剣呑な目つきでニックを睨んで言い放った。
デイトンと別れ、木陰で書を読んでいたニックが顔をあげる。
「僕なりにいい助け舟を出せたと思ったけどな。だってあのままだと君ら、何も進展ないじゃん」
「余計なことはしないで。進展なんて起こるわけない」
傷が一層睨みをきかせる。
「そんなことはないでしょ。デイトンは本気だよ? あとは君が本気になればいいだけ」
傷は僅かに口を尖らせた。
「もう恋などする年齢じゃない。それに私はそういうものとは縁遠い」
ニックはその言葉を笑い飛ばした。
「これから取り戻せばいいじゃないか」
傷の頭の上に、ポン、と手を置く。
「大丈夫だ、アリヤ。君は幸せになれ」
傷は一瞬、息をのみ、ぼそぼそと言った。
「あなたにアリヤって呼ぶのを許可した記憶はないんだけど」
「え――何そのデイトンとの差」
大げさに天を仰いで見せたニックに、傷がくすりと笑った。ほんの少し悪戯っぽい調子で口を開く。
「じゃあ金10枚で」
「へぇ、いいんだ?」
ニックは金貨がどっさりと入った袋を、さっと懐から取り出すと傷に押し付けた。
目を丸くする傷に構わず、「そうやっていつも笑ってるといいと思うよ」と手を振り、すたすたと去っていく。
「え……」
1人残された傷は、金貨の袋を抱え、その場に立ち尽くした。
(おわり)
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※作者つぶやき
普通に本編に入れればよかったなぁ、と読み返して思いました。
ニックと傷とデイトンの関係性は、心臓がぎゅっとなります o_o
ここだけの話、本当は傷とデイトンが結ばれる予定で、当初は書いてました。ですが、ニックの過去が形になったとき、「これはニックはアリヤと一緒になるな……(作者心の声)」となり、いろいろと改変しました。
そうなると、デイトンがかわいそうなのですが、実は作者の頭の中では、デイトンは別の人と幸せになる未来でいます^^
(本編ではそこまで書いてはいませんが)
話はかわりますが、デイトンも苦労人ですよね。
とにかくこの3人には本当に幸せになってもらいたいですね。(←誰(笑))
トルーシスやネルたちよりも、ちょっと年齢層高めの3人でした^^v




