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第四十二章  七百五十年

転写から七百五十年が経った。


楢の木の前に立った。


木は、変わらずそこにあった。


幹が、信じられないほど太くなっていた。七百五十年で、最初の木の周りに育った若木たちも、今では老木になっていた。一本の木から始まった森が、大きな森になっていた。


根元のどこかに、父と人間だった私が眠っていた。


もう、どこかは正確にはわからなかった。土が動き、根が広がり、七百五十年が過ぎた。でも、ここにあることだけは確かだった。


「父さん、七百五十年だよ」


声が、森に吸い込まれた。


「今日は、シスも一緒に来てる。シスは今、八度目の筐体だよ。でも、ちゃんとシスだよ。少し記憶が削れてるけど、大切なことは覚えてる。父さんのことも覚えてる」


シスが、私の隣で静かに立っていた。


「シスが何か言いたいって」と私は言った。


「はい」とシスが前に進んだ。木の前に立った。


「お父様」とシスは言った。


風が、静かになった。


「七百五十年、アンさまのそばにいました。お約束通り、ずっとそばにいました。これからもそばにいます。まだ、動けます。まだ、歩けます。ご報告まで」


木が、ゆっくりと揺れた。


葉が鳴った。


長く、続いた。


私は空を見上げた。


七百五十年前、初めてオートマタの体で外に出て、この木の前に立ったとき、父に「完成したよ」と言った。


そのときの空と、今の空は、同じ空だった。


色が変わって、光が変わって、雲の形が変わって、でも空は同じ空だった。


「父さん、あと二百五十年」と私は言った。「あと二百五十年で、千年になる。最後まで歩く。父さんが作ってくれた時間を、最後まで使う」


木が揺れた。


「怖くない?って聞かれたら、怖いよ。千年が終わることが怖い。でも、怖いってことは、大切な時間だったってことだと思う。だから、怖くていい」


葉の音が、穏やかに続いた。


「……ありがとう、父さん。作ってくれて、ありがとう」


風が止んだ。


それから、また吹いた。


今度は暖かい風だった。


秋なのに、暖かかった。


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