第9章 語られる過去、交わる誓い
⸻
戦いの終わった夜。
双雷と少女は瓦礫の残る廃ビルの屋上に腰を下ろしていた。
冷たい風が吹き抜ける。
怪物を倒したばかりの二人には、ただその静けさが心地よかった。
「……で、アンタ。名前は?」
沈黙を破ったのは少女だった。
「俺か? ――鳴神双雷。元は……日本の高校生だ」
「元は?」
「……死んだ。で、気づいたらこの世界にいた。訳も分からず雷神に選ばれて、異形者と戦うハメになってる」
少女はわずかに目を見開いた。
だが驚きよりも、納得の色が強い。
「なるほどね……。やっぱり、あんたも“転生者”か」
「やっぱり? ってことは……」
少女は小さく頷いた。
「私もよ。名前は――【皆神水京】。こっちでは水神を祀る宮司の家に生まれた」
「水京……」
双雷はその名を反芻する。
「小さい頃から知ってたの。いずれ“異形狩り”になる宿命だって。……でもね」
水京は唇を噛む。
「本当は逃げたかった。怖かった。……それでも、見てしまったの。怪物に食い殺される人たちを」
その瞳には、夜の水面のように深い影が揺れていた。
「だから戦ってる。……せめて目の前の命ぐらい、守れるように」
双雷は黙って彼女を見ていた。
その横顔には強さと脆さが同居している。
「……なんか似てんな、俺たち」
「似てる?」
「俺も、守れなかった。……母さんを」
その一言に、水京ははっと顔を上げた。
「力があれば守れると思ってた。ケンカばっかして、自分が最強なら全部解決できるって思ってた。でも……結局、母さんを守れなくて……死んで……気づいたらこの世界だ」
自嘲気味に笑う双雷。
だがその拳は震えていた。
「だから、もう二度と同じ過ちはしねぇ。俺は……絶対に誰も殺させない。誰も泣かせねぇ」
その声には、血を吐くような決意が宿っていた。
水京はしばらく黙っていたが、やがて柔らかく笑った。
「……あんた、ほんとバカね」
「はあ!? いきなり何だよ!」
「でも、嫌いじゃない。……私も同じだから」
双雷は目を瞬かせた。
その笑みは炎のように凛々しく、同時に温かかった。
「よし。じゃあ、これからは共闘だな」
「勘違いしないでよ? 私はまだアンタを仲間にするなんて言ってない」
「は? もう共闘しただろ!」
「それは一時的な協力!」
「屁理屈じゃねぇか!」
二人の声が夜に響く。
だがそのやりとりは、不思議と心を軽くしていた。
雷と炎――。
罪を背負った二人の道は、今まさに交わり始めたのだった。